「好き・・・です・・・。」

放課後、呼び出され、行ってみたらそんなことを言われた。

告白されるのは何度目だっけ?

・・・忘れた。

「気持ちだけでも知っていて欲しかったんです。」

俺のこと、好き・・・ねぇ?

どこが?

同じクラスになったこともないし、話した事ないよね?

「あのっ・・・。別に、付き合って欲しいとか、そういうんじゃないんですけど・・・。」


告白しないと後悔する。

気持ちだけでも知ってほしい。


そんなこと言ったって、望んでいるのは付き合ってほしい、俺も自分のことを好きであってほしい、好きになってほしいんデショ?

・・・別にいいけどね。

どうしようかな・・・付き合う?付き合わない?

目の前にいる女は結構可愛いし、そこそこ楽しめそうだけど・・・

やっぱり、付き合うって気にはなれなかった。

理由はなんとなく分かってる。

本当に好きな相手と付き合ってみたいから・・・だと思う。

本当に好きな相手と付き合って、幸せそうにしてるさくらちゃんを近くで見てて、こういうのが本当の恋愛なのかな、って思い始めたから・・・。

何とも思ってない相手と付き合って、それからそいつを好きになるっていう恋愛もアリだと思うけど、

ってか、実際そういう付き合いしかしたことないんだけど、

だからこそ、本当の恋愛ってヤツを経験してみたいわけ。


「ありがと。気持ちだけ、受け取っておくよ。」

俺は告白してきた相手に、微笑みながらそう言って、その場を離れた。

鞄を取りに教室へ戻ろうとボーっと歩いている途中、イキナリ後ろから誰かの手が伸びてきた。

「めずらしいねー、葉。」

そう言いながら俺の首に手を巻きつけてきたのは、声から察して、元カノの由良。

「なに?由良。」

「葉が告白されてるとこ、見ちゃった。」

「・・・見ちゃったじゃなくて、わざわざ見に来たんじゃないの?」

「バレてた?」

全く、由良はいつもそうだ。

俺の告白されてるとこを見てきたり、新しい彼女のチェックをしてくる。

そんな由良は俺が最初に付き合った相手だったりする。

「葉さ、いつもならすぐに『じゃー付き合う?』って言うのに言わなかったね。どうして?」

「付き合いたくなかったから。」

「えー?由良が思うに、葉はあーゆう女好きでしょ?あの子、可愛かったもん。」

「可愛くても付き合いたくなかったの。俺、今誰とも付き合う気ない。」

俺がそういったと同時に由良の手が離れ、由良が俺の前に立った。

「どうして?どうしたの?何かあったの?」

由良は心配してくれてるのか、不安げな顔で俺を見てくる。

・・・ってちょっとマテ。何で俺が誰とも付き合う気ないって言ったら心配するわけ?

「葉、何かあったら言ってね。由良、相談にのるよ。」

「ハイハイ。」

「ホントだよ?」

「うん、うん。期待しないで待ってるネ。」

「ホントなのに・・・。」

ぷくって頬を膨らませている由良の姿を見たら、なんか可愛いって思った。

「ところで、葉はこれからお暇ですか?」

急に真面目な顔して俺を見てくるから、何かと思って身構えたら、続いた言葉は「遊ぼ?」

「ダメ。」

取りあえず即答しておく。

「どうして?」

「由良、男いるじゃん。俺と遊んじゃだめでしょ?彼氏カワイソーだよ。」

俺はポン、と軽く由良の頭に手を置いた後、その手をポケットに突っ込んで歩き出した。

すると由良は俺の後ろをちょこちょこ歩きながらついて来る。

「自分は男が居た“サチ”とかいう子と付き合ってたくせに。」

「まぁ、そうだけど・・・。」

「由良とだって遊べるデショ?」

「遊べなーい。」

俺がそう言ったら、由良はムキになって、俺の前に回りこんで通せんぼをした。

「あのネ・・・。」

「由良は葉が好き。」

由良は真剣な眼差しでそう言うと、手をぐっと伸ばして俺を引き寄せ、キスしてきた。

しょうがないヤツ、と呆れながらも、久しぶりの由良とのキスを楽しむ。

あーあ、さっき、廊下に人居なかったっけ?

ま、いいか。

唇を離し、由良の顔をまじまじと見ると、頬が少し赤くなっている気がした。

由良は、ぎゅっと俺の制服のシャツを握り、上目がちに俺を見続けている。

何も言わなくて、目で何かを訴えてる。

「何?もっとしたいの?」

「うん。」

そう言われて、俺は由良の唇を親指でそっとなぞり、それから触れるだけのキスをした。

「オシマイ。早く帰りな。」

「えー?嘘っ。こんなの、やだよ。」

駄々っ子の様にそう言い、俺の制服のシャツを荒っぽく握る。

「由良。」

静かにそう名前を呼び、片手で由良の頬を触った。

大抵こうすれば、由良は静かになる。

案の定、静かになった由良に、俺は言い聞かせるように話した。

「俺たち、大分前に別れたんだよ?こういうのってダメなんじゃないの?」

「だって、由良、葉のこと好きだし・・・。」

「・・・気持ちは嬉しいけどさ。」

「葉は由良のことキライ?」

そんな泣きそうな目で言うなよ。

頼むから。

「キライじゃないよ。でも、由良は自分と同じぐらい相手に好きになって欲しいんでしょ?

俺は応えてやれないんだもん。」

“好きな人には、自分と同じぐらい好きになって欲しいよね”

由良がそう友達に漏らしていたというのを人伝に聞いた。

俺はそれを聞いて、自分じゃダメだなと思い、別れを切り出したのだった。

だって、俺、応えられそうになかったんだもん。

由良と同じぐらいなんて。

由良は、俺の中でなんか特別な存在で、大切にしたいって思いがあった。

由良が満足するような彼氏になりたいな、って思ったこともあった。

でも、それって、何か違うよな、って思い始めて。

ダラダラ付き合ってても、俺、由良と同じくらい好きになるなんてわかんないし。

由良が俺のことを好きだっていう思いはすごく伝わってくるのに、俺はそれと同じくらい由良のこと思えなくて、

それがなんか由良に対して申し訳なくなってきて・・・。

だったら別れた方がいいんじゃないかな、って思って別れようって言ったんだ。

今思えば、由良は、付き合った女の中で“特別な感情”ってモノが湧いた相手かも。

由良とは、一緒にいて楽しかったし、自分で別れを言い出しといて何だけど、別れたとき、悲しい気分になった。

「別にいい。由良と同じぐらい好きになってくれなくていい。

ちょっとでも由良のこと好きでいてくれるなら、それでいいから・・・。」

何度も聞いたその言葉。

でも、、やっぱり、無理なんだよな。

「・・・でも、それだと俺が辛い。由良には俺より相応しい人がいるでしょ。」

偽りのない言葉。ホントに、心からそう思ってる。

「そんな風に思わなくていい!」

由良はそう言って、俺のシャツをぎゅって強く握る。

やっぱり可愛いな、って思う。

好きだな、ってちょっと思う。

でもまた付き合ったらきっと後悔する気がするんだろうな。

別れをまた経験しなきゃいけなくなるだろうから。

由良との別れは、もう経験したくない。

友達のままでいい。

彼氏と彼女になりたくない。

以前、由良と別れたとき、クラスも部活も違う俺たちだったから、俺は、由良と何も接点がなくなるのが嫌で“普通の友達になろう”って言った。

彼氏と彼女の関係では居たくないけど、由良と何かで繋がっていたくて。

今思えば、勝手な話。

でも由良は、分かった、って言って、友達になろうと努力してくれた。

でも、友達だって口では言っておきながらも、俺は由良と、“普通の友達”じゃしないようなこと、何度もした。

由良の好意に甘えて。

だからってカレカノになるわけじゃない。

自分の都合のいいように由良を利用してるだけ。

でも由良はそのことで俺を責めない。

本当は分かってるんだ。俺がズルいって。

由良に対してヒドイ事やってるって。

由良が何度も嫌な思いをしている・・・って。

もうそろそろ、本気で由良との関係を変えていかなきゃいけないんだと思う。

本当の恋愛ってヤツを経験するためにも。

避けては通れない道だと思う。

「由良、ゴメン、俺、やっぱズルイよな。」

「え?」

「もういいから・・・。別れたとき、“普通の友達”になろうとか言ったけど、それって俺のワガママだった。ゴメン。

もう、普通の友達じゃなくてイイ。廊下ですれ違っても、無視していいから。」

それはすごく悲しいことだけど、やっぱりそうするべきかもしれない。

そう思ったその時、広い廊下に由良の声が響いた。

「ヤダ!!」

「由良・・・。」

「そんなのヤダ・・・。」

由良はそう言って、涙をぽたぽたと流した。

「あ・・・あたし、何か・・・した?ごめん・・・なさい。だから・・・友達やめようなんて・・・言わないで・・・。」

泣いてる顔、すっげー可愛い。

・・・って、そんなこと思ってる場合じゃないだろ、俺。

「・・・由良直すから・・・ダメなとこ、直すから。友達以上になろうなんて絶対思わないから!」

そういうことを言ってるわけじゃないんだよ。

嫌いとか、そんなんじゃないし・・・。

俺は無意識の内に、由良を抱きしめてしまった。

ヤバイ。

マジでヤバイって。

またいつものパターンだ。

そうは思ってはいたけど、もうダメだった。

「やっぱり、友達でいて。」

由良の耳元でそう囁く。

すると由良は「うん・・・。」と小さく呟き、そっと俺の身体に腕を回してきた。



・・・友達でいてって言っちゃってホントに良かったのかな?

でも・・・今は由良とこうしていたいと思うんだ。




  


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