結局、あの後由良の家に行ってダラダラと時間を過ごし、家に戻る頃には時間は9時を軽く越えていた。
「ただいま。」
自分にだけ聞こえるぐらいの大きさでそう言い、玄関の扉を開く。
玄関にローファーが一組。
さくらちゃんだけか、帰ってるの・・・。
リビングの方で、扉の音に気付いたからか、さくらちゃんが「葉、帰ったの?」なんて声を掛けてきたけど、聞こえないフリをして、風呂場へ急いだ。
早くシャワーを浴びたい。
ずっと、そればかり頭に浮かんでいた。
疲れていて、早く寝たかったから。
汗もすごくかいてたし。
脱衣所で制服をさっさと脱ぎ捨て、風呂場に入り、すぐに蛇口をひねってシャワーを出す。
シャワーの最初のほうの水は冷たかったから、空っぽの湯船のふちに座り、水が温かくなるまで少し待つことにする。
段々と水が温かくなり、熱いとさえ感じられるようになった頃、初めて頭からシャワーをかけた。
風呂の時間は結構好き。
誰かに邪魔されるわけでもないから、唯一自分の時間って、思えるし。
・・・って俺、年寄りっぽいこと考えてるかも。・・・生活に疲れてんのかな。
風呂場から出ると、近くにあったバスタオルで身体を拭き、軽く身体に巻きつけて自分の部屋に向かった。
あっちぃ。
ピッてエアコンのスイッチを入れ、服を着て、すぐにベッドに横になる。
いいキモチで、うとうととし始め、眠ろうとしたそのとき。
勢い良く俺の部屋のドアを開ける音が。
・・・正直、ムカついた。
入ってきた相手は目を開けなくたって分かる。だって今、この家には俺とさくらちゃんしかいないし。
さくらちゃんはベッドの淵に座り、声を掛けてきた。
「葉。寝てるの?ご飯は?」
絶対応えたら最後。直ぐには寝かせてくれないと思う。
それは嫌だ。直ぐに寝たい。
だから、寝たふりしよう、そう決め込んで怪しまれない程度にすぅすぅと寝息を立ててみる。
「・・・起きてるでしょ?」
「・・・。」
「話、しようよー?」
したくない。寝かせて、頼むから。
俺の想いは全くさくらちゃんに届かず、さくらちゃんはゆらゆらと俺の身体を揺さぶる。
「・・・絶対寝たフリだもん、おきてー。」
・・・ちっ。
渋々俺は目を開けて上身体を起こした。
「何?」
俺が思いっきり不機嫌そうにそう聞いているのに、さくらちゃんは全く気にせず、モジモジっと照れながら、ぽつり、ぽつりと語り出した。
「あのねー、本城くんにね・・・。」
「ふーん。」
聞いてられない、と判断し、バタっと再びベッドに倒れた。
「ちょっと待って!!まだ何も話してないよ!」
うるさい・・・。
「・・・何なの?」
体勢はそのままで、話を聞いているフリをする。
「あのね、ウチに遊びに来ない?って誘っちゃったv」
「そう。良かったね、オメデトウ。」
淡々と感情の篭ってない言い方をする。
「・・・何その言い方。カンジ悪ぅ。」
気に食わないのか、怒った様子。
・・・いつもならここで、さくらちゃんの機嫌を取ったりするけど、今日はそんなことする気になれないから、そのままで。
「・・・俺ね、眠いの。疲れたの。もうほっといて欲しいの。」
ちょっと言い方キツかったかな?
少しの間があり、さくらちゃんは立ち上がり、言った。
「わかった。葉、明日はどこかに出かけちゃダメだからね。本城君来るから、一日中、家に居て。」
その言葉に俺は耳を疑って飛び起きる。
「はっ!?意味分かんないんだけど!」
「何で?」
「それ、こっちのセリフ。“居ないで”の間違いじゃないの?」
「え?」
さくらちゃんが怪訝そうな顔をする。
「居ない方が何かと都合いいんじゃないの?」
「どうして?」
どうしてって・・・普通そうじゃない?
「明日、母さん達は居るの?」
「さっき電話したら、午後は二人で出かけるけど、午前中なら居るって言ってた。」
「・・・だったらやっぱり俺、居ない方がいいんじゃないの?」
「なんで?意味がわからない。じゃ、おやすみ、葉。」
パチンと電気を切られ、勢い良くドアも閉められて部屋が一瞬にして暗くなる。
・・・何だよ、それ。なんか強制終了くらった感じ。
あ゛ー、もういい。寝よ。
俺は瞼が重くなり、すぐに眠りについた。
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