「(つ・・・疲れた。やけに疲れるわ・・・今日。)」
3限目が終わったところだというのに、もう1日の授業をすべて受けたような気になってしまった。
藍莉は、額に手を当てながら、深くため息をついた。
朝、登校したと思ったら、すぐに影志について質問攻めにあった。
昨日も質問攻めをしたというのに、まだし足りないの?
質問攻めというよりも、一方的に色々な事を言われていた、と言った方が正しいのかもしれない。
かなりムカつく。
藍莉の席は、廊下側の一番前の列だったので、女の子たちに囲まれるような形になった。
そうすると、逃げ場が無い。
だから、イライラもさらに増すというものだ。
どうしよう、もう本性現しちゃおうかなー。
そしたらきっと、一発で黙り込むわね、こいつら。
あ・・・でもその後がめんどくさい・・・。
やめとこ。
そう思って何度も堪えたが、やはり限界がある。
・・・こうなったのもすべて、アイツの所為だ。
影志のばかやろー!!
もう止めよう。やっぱり私にアイツの相手は無理。
昨日のアタシ、どうかしてた。
付き合うんなら、もっと静かで面倒くさくない男にするべき。
このクラスで言うなら・・・山村くんかしら?
そう思って、ふと隣の席の彼を見る。
山村くんとは、3学期の席替えで初めて隣になった人だ。
・・・静か、女に・・・モテない。
でも、だからって言って、カッコ悪いわけじゃない。
普通。
普通とか、平凡とか、そういう言葉が似合う男の子だ。
私の視線に気づき、山村くんが、声を掛けてくる。
「なに?天草さん?」
「山村くんはもう受験勉強とか、始めてるだろうな・・って思って。」
心にも思ってないことがすらすらと出てくる。
ゴメンね、山村くん、と、心のどこかで謝ってみる。
「否、始めてないよ。始めようって思ってはいるんだけど、どうしてもテレビとか見ちゃって・・・。」
「その気持ち、すごく良く分かる。」
「え?天草さんも、テレビ見るの?」
「え・・とは?」
「ゴメン、イメージから言って、天草さんて、テレビとか見なさそうだから・・・。」
「見るよ。昨日は・・・見れなかったけれど。(邪魔モノが居て・・・。)」
「どんな番組見るの?」
「えっと、バラエティとか・・・。(って言っていいのかな?ヤバイ?)」
「バ・・・バラエティ?」
藍莉の答えを聞いて、山村は、目を大きく見開いた。
そんなに驚かなくても・・・真面目なコはやっぱりニュースとかいうのかしら?
でも、ニュースについて討論することになったりしたら、ハッキリ言って困る・・・。
ニュースに関しては、ある程度は理解しているつもりだけれど、討論はちょっと・・ね。
言い直したほうがよさそうかな?
藍莉が、そう悩んでいると、急に山村は、笑い始めた。
なんで笑い始めるの?と聞きたげに藍莉が首を傾げると、山村は言った。
「・・・ゴメン。なんか、僕、勝手に天草さんのイメージ作っちゃってて、それと違うからつい・・・。」
「構わないけれど・・・。」
「・・・ちょっと聞いていい?」
「どうぞ。」
ニコリと微笑みながら藍莉がそう言うと、山村は少し照れた。
そして、言葉を続ける。
「天草さんって、付き合ってる人とか、いるの?」
「付き合ってる人・・・。」
一応、いるって言った方がいいのかしら?
・・・でも、さっき別れようと考えてたんだよね。
カタチとしては、別れていないけれど・・・。
それに、いるって言ったら、相手のこととか聞かれるのかも・・・。
ここは・・・いないって言っておこう。
「いないけれど・・・。」
そう言ったとき、教室の前のドアのところに影志が立っているのに気づいた。
「(え・・・影志。ま・・さか今の・・聞いてたり・・して?)」
影志はこっちを見つめたまま、呆然としている。
「(なんでここにいるのよ。あんたのクラスはBでしょ!)」
「影志〜!ホラ、あったぞ、辞書。」
「お・おぉ、さんきゅ、宗太。じゃー借りてくな。」
「返すの、いつでもいいからな〜!」
「あー。」
影志は、クルリと方向転換し、教室を出て行った。
「(あぁ、辞書を借りにきたわけね・・・ってこの状況、ヤバイ?)」
影志、聞いてたのかな?
・・・山村くんに、付き合ってる人居ないだなんて、言わなきゃよかった。
タイミング悪すぎ・・・。
「天草さんっ?」
「えっ?あっ・・なあに?」
「今言ったこと、聞いてなかった?」
「ごめんなさい。ボーっとしてて・・・。」
「好きな人はいる?」
スキナヒト・・・
すき・・・
藍莉は俯いて、小さく呟いた。
いる、と。
「え?今、何て?」
「いる。好きな人。」
藍莉はハッキリとそう言い、教室を飛び出した。
今頃になって気づくなんて・・・。
あたしってほんとバカ。
いくら面倒くさくたって、やっぱり影志じゃなきゃだめ。
他の誰でもない・・・影志が好き。
なんで、さっき山村くんに言った言葉に後悔した?
なんで昨日、雨の中、影志を待ってた?
答えは簡単。
影志が好きだから。
なんでさっき、影志と別れたいだなんて思ったんだろう。
そんな気、全然ないくせに。
昨日・今日とオンナノコたちから色々言われて、ムカついた。
ムカついたけど、何か言われても、心の中で言い返すだけで、顔には出さないようにした。
『佐渡くんに保健室連れてってもらったんだって?いい気にならないでよ?』
・・・誰が、いつ、いい気になりました?
『お姫さまダッコされて、佐渡くんを好きになっちゃった?でもね、今頃佐渡くんを好きになったって遅いよ。』
・・・大きなお世話。
しかも恋愛に早いも遅いもないでしょ?
『色仕掛けで佐渡くんを落とそうと言ったって、うまくいかないって知ってる?』
・・・あたしがいつ影志に色仕掛けなんてしたよ?
『お堅い天草さんには、佐渡くんには合わないと思うけど。』
・・・これは一番効いた。合わない・・・合わないってなにさ。
ちょっと、落ち込んだ。
さらに追い討ちを掛けるように、一人の子が言った。
『佐渡くんの好きなタイプ知ってる?一緒にいて楽しい子って言ってたよ。失礼だったらごめんね、佐渡くん、天草さんといたら楽しいかなぁ?』
・・・失礼です・・。でも・・その通りかもしれない。影志、私といても、楽しくなさそう。
ってゆーか、あたしに楽しい子っていう言葉は似合わない。
イライラして、落ち込んで、またイライラして、落ち込んで・・・今日は疲れた。
アタシが影志を好きだから、イラついたり落ち込んだりしていたんだ。
今、やっと気づいた。
「はぁっ・・・。はぁっ・・・。」
2Bの教室を覗いても、影志の姿は無かった。もしかしたら、あそこかも。
藍莉はそう思い、その場所に向かった。
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