藍莉の向かった先は・・・屋上だった。
屋上の扉を勢い良く開けると、座っている一人の姿が見えた。
後姿だが、誰だか分かる。
影志だ・・・。
「はぁっ・・・はぁっ・・・、居た・・・。」
影志は、驚いたように、後ろを振り向いた。
「あ・・・いり?」
「・・・辞書借りたって言うのに授業に出ない気?」
「・・・出る気分じゃなくなった。」
影志は、藍莉の顔を見ず、答える。
「・・・そういう問題じゃないでしょ。」
「藍莉には関係ないだろ。早く授業行けよ。いい子が授業サボっていいのかよ?」
口調がキツイから、怒っているということが、すぐ分かる。
「・・・・・・聞いてたんでしょ・・・。さっきの。」
「さっきのって?」
相変わらず、藍莉の顔を見ず、キツイ口調で言ってくる。
「・・・山村くんとの会話。」
「・・・聞いてたわけじゃない。聞こえたんだよ。
・・・ったく、なんなんだよ、オマエ。男と仲よさそうに話しなんかして・・・。
しかも、付き合ってる人がいるかって聞かれたら、いるって即答しないし、しかも付き合ってる人はいないって・・・。」
藍莉は、影志の言葉を最後まで聞かずに、後ろから影志を抱きしめた。
「え・・・?」
「ご・・・ごめん。ごめんね。」
「あ・いり?」
「ごめん。本当にごめん。」
「・・・。」
「好きな人はいるって・・・そう言ったから・・・。」
影志は藍莉のその言葉を聞いて、藍莉の腕を引き寄せ、抱きしめた。
「・・・さっきの言葉、結構傷ついた。」
「・・・・・・うん・・。」
「・・・俺と付き合うって言ってくれたの、ウソだったのかって思った。」
「うそじゃ・・・。」
「うん。ウソじゃないって分かった。藍莉が、好きな人いるって言ってくれて嬉しい。」
「・・・・・・うん。」
「それって、俺のことだって、そう取ってもいいんだよな?」
「・・・うん。」
「また、“ちくぜんに”食わせて。」
「・・・うん!」
少しの沈黙があって、どちらからともなく唇を重ねた。
長いキスの後、藍莉がゆっくり目を開けると、影志と目が合った。
目が合ったとたん、影志は急に目を逸らした。
その上、少しだが、藍莉と距離を置く。
「(なんで?)」
なんで、目を逸らすんだろう。しかもこの間は何?藍莉は不思議に思った。
不思議そうにしている藍莉を見ようともせず、影志は言った。
「眼鏡とって。頼むから。」
「は?」
「・・・いけないことしてるような気分になる。」
「イケナイコト?」
「・・・藍莉が眼鏡してると・・・駄目。」
「(なんでよ?・・・でもここは素直に従っとくかな。)・・・分かった。外す。だけど、外すのは二人でいるときだけ。」
藍莉はそう言うと、そっと、眼鏡を外した。
藍莉が何気なく言った言葉に、影志は喜んだ。
「(二人でいるときだけ外す・・・。なんか特別なカンジがする!!)」
影志は嬉しくなり、思わず藍莉に抱きついた。
「ち・ちょっとコラ。イキナリ抱きつくな。」
藍莉は、ありったけの力で、影志から離れようとしたが、男の力に敵うわけがなかった。
「なんだよ、さっきは藍莉から抱きついてきたくせに。」
「・・・それは・・・。」
藍莉が照れている姿を見て、影志はニヤリとしながら尋ねる。
「それは?」
「・・・うっさい。ボケ。」
「ぼ・・ボケだとぉ?」
影志は呆れて、ついつい、藍莉を抱きしめていた力を緩めてしまった。
チャンスとばかりに藍莉は、影志から離れた。
「・・・アンタってほんとムカつく。」
「・・・ハイハイ。」
「ムカつくって言ってるんですけど!」
「ムカついたって、好きなんだろ?」
「好きじゃない。」
「素直じゃねーな。ホラ、こっちこいって。」
影志は手招きして藍莉を誘う。
「・・・うぅ・・・。」
困ったような顔をして、藍莉は俯いた。
そこに、急に強い風が吹き、藍莉はくしゅん、と小さくくしゃみをした。
続けてもう一度・・・。
「へぇっく・・・。」
「・・・なんだ?そのくしゃみ。」
「しょうがないでしょ、ここ寒いんだもん。1月よ、1月!!外は寒い!!」
藍莉は、思わず、自分の二の腕の部分をさする。
「あー、寒ぅ。」
「・・・寒いって・・・オマエ、昨日ここで寝ようとしてたじゃん?」
「・・・昨日は冬にしては暖かかった。」
「そういえば・・・。暖かかったな。」
「異常気象ってヤツなんじゃない?」
藍莉はそう言うと、影志にぎゅぅっと抱きついた。
「お?」
「寒い。」
「・・・ハイハイ。(ったく、素直じゃねーな・・・。)」
「(暖かい・・・。)」
藍莉は、いつの間にか、影志の腕の中で眠りに落ちてしまった。
「・・・あの・・藍莉さーん?」
「すぅすぅ・・・。」
「・・・。」
「すぅすぅ・・・。」
「・・・寝んなよ!」
「・・・ン・・・えいしィ・・・。」
「エ?」
「・・・・・・すき・・。」
「/////・・・ま、いいけど。」
影志は藍莉の髪にそっとキスをした。
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