「ゴメンっ。俺が守ってやらなきゃいけなかったのに。」
影志は、一軒一軒、自分の元カノの家を訪ねていった。
元カノたちは、皆驚いた。
ずぶ濡れで現れた昔の男を見て・・・。
しかし、誰一人と影志を嫌がってはいなかった。
影志が誠意を持って謝罪して回ると、皆口々に優しい言葉をかけてくれた。
『もう昔のことだから、気にしなくていいよ。』
『影志の所為じゃない。私が弱かったからいけなかったの・・・。』
『わざわざ言いに来てくれて、ありがとう。』
『影志と居ると辛いことが多すぎたって言ったけど、そうでも無かった。今思えば、いい思い出。』
『謝らなくて良いよ。それより家入って温まっていって。風邪引いちゃう。』
影志は改めて思った。
自分にはなんて思いやりに欠けていたんだろう。
もっと自分に他者理解が出来ていたら・・・こんな結果には、ならなかった筈、と。
二度と、同じ事は繰り返さない。そう強く心に決めた。
雨の降りしきる中、影志は走った。
思い当たる元カノには、もうすべて謝罪した。
コレで、一応、心残りはない。
もう進める。先に。
そう思いながら、走って、走って、走って・・・ある場所に着いた。
その場所とは
学校だった。
「やっぱいねぇよな・・・。待ってろ、とか言ったわけでもねぇし・・・。」
影志は髪からポタポタと雫を垂らしながら、周りをキョロキョロと見回した。
そのとき、くしゅん、と小さなくしゃみが聞こえた。
「エ?」
くしゃみのした方を向くと、そこには、傘を差したまま座り込んでいる藍莉の姿が見えた。
「寒いわ・・ボケ。何か言ってから行け。」
「・・・帰ったかと思った。」
「・・・アンタが戻って来るかもしれないでしょ。」
「・・・来ないかもしれないだろ?」
「来たじゃん。」
「・・・まぁ・・な。」
「全部うまくいった?」
「・・・あぁ。」
「なーんだ。つまんないの。誰か一人にでも、引っ叩かれてくるかと思った。」
「・・・実は、俺もちょっとは覚悟してた。」
「ふーん?・・・さてと、帰ろっと。ココに居る意味も無くなったことだし。」
藍莉は勢い良く立ち上がった。
影志は髪をガシガシかいて、少し乾かそうという無駄な努力とも言うべきことをしながら、言った。
「・・・これからどっか行く?」
「は?何言ってるの?今からアタシは帰るの。帰って暖かい部屋でのんびりするの。」
「俺と語り合おうとか、そういう意思はナイわけ?」
「何で?何でアタシがアンタと語り合わなきゃいけないわけ?」
「俺と付き合うんじゃねーの?」
「・・・アンタね、アタシがさっき言った言葉、もう忘れたの?『何て言ったってアタシはアンタとは付き合わない』って言ったハズよ?」
「・・・じゃあ何で今まで俺を待ってた?」
「なんでだろう?実は何度も帰ろうとしたんだよね。お腹空いたし。でも、もしもアタシが帰った直後にアンタが来たら・・・とか考えちゃって。」
「・・・お前、俺のこと好きなんじゃねーの?」
「違う。」
「何でそう言いきれる?」
「アタシの直感。」
「直感で片付けられるモンダイか?」
「ウン。・・・では、さよなら。佐渡クン。」
藍莉は“天草さん”の顔になって、二コリと笑って見せた。
そして、影志を残したまま歩き出した。
「ちょっと待てよ。俺、本気で藍莉のコト好きになった。俺、お前を守る。だから・・・付き合ってくれっ!」
「・・・悪いけど・・。」
「オマエがオッケーしてくれるまで、俺、何度でも言う!」
「バカじゃない?」
「何とでも言え。」
藍莉は、はぁ・・・と、ため息を付きながらクルリと方向転換し、影志に近づいてきて言った。
「・・・あたしもバカだけど。」
そう言った後、藍莉は影志の唇に自分の唇を重ねた。
影志の唇は・・・冷たかった。
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