影志が目覚めると、もうすでに、隣に藍莉の姿が無かった。

「あれ?藍莉?」

周りをキョロキョロ見回しても、誰も居ない。

時計を見ると、6時・・・。もう下校時刻だった。

窓の外を見ると大分暗く、雨音も聞こえてくる。

「雨が降っているのか・・・。ヤベエ、傘もってねぇよ・・・。

あーあ、こんなに寝ちまった・・・。藍莉も居ねえハズだよな。ってゆーか、帰るなら俺も起こして行けよ。

ま、藍莉がそんな気が利く女とは思えねぇけど。」

そう呟きながらベッドを降りようとしたとき、足元に自分の鞄があることに気づいた。

(・・・・・・俺のバックだ。何でココに?まさか・・・藍莉が?

・・・んなわけねーよな。俺のクラス知らないハズだし・・・。

俺だって、アイツのクラス知らねぇし・・・。一体誰が俺のバック持ってきてくれたんだろ?)

影志は、自分の鞄を持ち、保健室を出た。

廊下には、人の気配が無く、雨音が良く聞こえた。

雨なので、運動系の部活は休みか、ミーティングなのだろう、その所為で人の数は少なかった。

昇降口で靴を履き替え、外の様子を見る。

雨は止みそうにない。

「しょうがねぇ、濡れて帰るか・・・。」

諦めたように濡れて帰ることを決心をした後、傘立てに一本の黒い傘があることに気づいた。

「ラッキ☆もーらいっ!」

影志が喜んでその傘を広げると、傘には大きな穴が開いていた。

「・・・・・・・・・期待させやがって!!これじゃ使えねぇだろ!!」

はぁ、とため息を大きく付き、傘立てに穴あきの傘を戻すと、どこからか女の笑い声が聞こえだした。

「誰だ?」

影志が勢い良く笑い声のした方を向くと、藍莉が立っているのが見えた。

「くくくっ!アタシv」

「・・・ずっと見てたのか?」

「アンタって変なヤツ。かなり面白いんだけど。」

藍莉はまだ笑い続けていた。

「・・・居るなら居るって言えよ。」

「あー面白かった。」

藍莉は、久しぶりに良く笑ったわ、と呟くと鞄から傘を取り出した。

「傘・・・持ってるのか。俺も入れてけ。」

「はぁ?イヤダ。」

「オマエ、俺をずぶぬれで帰らすつもりか?」

「アンタがどうなろうと知らないわよ!」

「・・・鬼。」

「あのね、何でアタシがアンタに鬼って言われなきゃいけないのよ!」

「最寄りの駅まででいい。」

「・・・何でそう話が進むのよ?」

「・・・ったく。しょうがねぇな、男らしく濡れて帰るか。」

「濡れて帰るのが男らしい、なんて初めて聞いたわ。」

「ホラ、水も滴るいい男って言うだろ?」

「自分のこといい男と思ってんの?救いようの無いバカね。」

「キツイねぇ、藍莉チャン。」

「・・・チャン付けで呼ぶな、キモチワルイ。」

「ホントに気の強い女。」

「ウルサイ。」

「・・・さっきも聞いたけど、オマエ、どうしてガラリと変わるわけ?」

「余計な敵作らないのが、人生の基本よ。だから。」

「・・・意味がよくわかんねぇ。」

「大抵いい子に振舞ってれば、人生穏便に過ごしていけるってワケよ。本性を現すと、敵が多く出来そうだし・・・。」

「・・・納得。」

「なんか、そう素直に肯定されるとムカつく。」

「だって、オマエ、人をイライラさせるの得意だもん。」

「アンタもね。」

「はぁ?」

「ホラまたアタシをイラつかせた。」

「・・・むちゃくちゃなヤツ。でも、俺、結構オマエの事気に入った。」

「何それ?告白ってヤツ?」

「そう。俺と付き合え。」

「それが告白する態度?」

「じゃあ、何て言えばいいんだよ?」

「さあね、何て言ったってアタシはアンタとは付き合わない。」

「何でだよ?」

「・・・苦労しそうだもの。」

「・・・どういう意味だよ?」

「アンタって、相当おモテになるみたいで、ファンが多いみたいよ?」

「ファン?なんだよ、それ。」

「さぁ?アタシだって、良くわかんないけど。女の子たちが話してるのを聞いた。」

「・・・?」

「あたし、選択を誤ったようだわ。」

「なんの選択だよ?」

「アンタに保健室に連れて行ってもらうんじゃなかった。」

「なにを今更・・・。」

「あの一件でアタシは、クラスの女の子に目をつけられたの。」

その一言で、影志の顔は曇った。

「・・・何か・・されたのか?」

「はっきりと何かされたわけじゃないわ。アンタとの関係を尋ねられただけ。」

「・・・そうか。」



今まで、影志と付き合ってきた女は決まって同じ言葉で別れを言い渡していた。

『もう無理・・・。影志と居ると辛いことが多すぎる。』

俺は、来るもの拒まず、去るもの追わずの精神で生きてきたから、その別れの言葉に疑問を持たず、深く尋ねたりしなかったけれど、

今思えば、どの女も同じ言葉で別れを言うなんて、おかしい。

もしかしたら、俺の元カノたちは、藍莉の言う、ファンってヤツに何かされていたのか?

そうだったら、すべてが一本の糸で繋がる。

こんなこと、今頃になって気づくなんて・・・。


「多分、俺の元カノたち・・・。その・・・ファンって奴らに何かされてたのかもしれねぇ・・・。」

「・・・だろうねぇ。」

「あー、もう俺って・・・。」

影志は、バカ・・・、と小さく呟いて俯いた。

それを見て、藍莉はため息を一つついた。

「あたし、地味に生きていこうって思ったのに、とんだ誤算。」

「地味に生きていこうと思ってたなら、なんで、屋上で俺に本性現したんだよ?」

「・・・あたし、眠気がピークに達すると機嫌悪くなるの。だからつい・・。しかも、アンタが同年だなんて知らなかったから。」

藍莉は、はぁ・・・と、ため息を付きながら、手を額に押し当てて言った。

それを聞いて、影志の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。

「・・・ちょっとマテ。俺を幾つだと思ってたんだよ?」

「年下。」

「・・・このヤロ。」

「だって、ガキっぽく見えたし。」

「ガキ・・・か。そうだよ、俺はガキだよ。」

影志は項垂れながらそう呟いた。

「どうしたの?急に素直になっちゃって・・・。」

「俺はガキなんだよ。だから、自分の女の異変にも気づいてやれなかったんだ。」

「・・・・・・。」

「俺、謝ってくる。元カノ達に。」

「えッ?今から?」

「だって、こんな気分のままなんかいられねぇよ!」

「・・・彼女達は思い出したくないかもよ。」

「・・・っ。でも!そうだとしても、俺はこのままだったら、前に進めない。」

「自分の為に・・彼女達に思い出させるの?イヤな過去を。」

「・・・・・・・・・」

「ま、好きにすれば?もしかしたら、彼女達も、アンタのコトがあって、前に進めてないかもしれないしね。」

影志は、藍莉の言葉に頷き、雨の中を走っていった。

「・・・どうしようもないバカね。」

藍莉は口ではそう言いながらも、愛しそうに影志の走っていく姿を見つめた。











  

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