「・・・んんっ。」

藍莉が眼を覚まし、ゆっくり寝返りを打つと、至近距離に影志の顔が見えた。

「!!」

藍莉は驚き、飛び起きてしまった。

「なんでいるのよー!?」

帰ったんじゃないの?昨日帰るって言ったじゃない。

二日連続で泊まってったよ、コイツ。

藍莉は影志を強引に揺さぶり、起こした。

「・・・ア゛?」

もぞもぞ、と動き、寝ぼけ眼の影志が目を擦りつつ藍莉を見てきた。

「ア゛じゃない!!なんで居るのよー!!」

影志は藍莉をちらりと一目見、はぁ、とため息をつくと呆れたように言った。

「・・・昨日、藍莉が帰らせてくれなかったんじゃねーか。」

それを聞いた藍莉は、驚き、思いきり否定した。

「はぃ?なにそれ!そんなことしてない!!してない!!」

影志は冷めた目で藍莉を見た。

「してたね。俺の服を掴んで放してくれなかった。」

「エ?」

まさか・・・そんなこと・・・。

「昨日、俺はちゃんと終電で帰ろうとしました。

オマエ、昨日、ソファでうたた寝しててたの覚えてる?」

「・・・そういえば、いつの間にベッドに来たんだろ・・。」

首を傾げ、記憶を辿って行っても、その答えは見つからなかった。

藍莉が悩んでいる横で、影志はすぐにその答えを言ってくれた。

「俺が運んだ。・・・で、ベッドに運んだらお前が俺の服を掴んで放さなくなったんだよ。ぎゅーって。」

「そんなことするはずない!!」

「してた。」

きっぱりと、そう言い切られては、納得せざるを得ない。

藍莉はしょうがなく認め、藍莉は俯いて影志に礼を言った。

「え・・・えーっと・・・運んでくれてアリガトウゴザイマシタ。」

礼を言っているうちに、だんだんと子供っぽい仕草をしてしまった自分が恥ずかしく思えてきた。

影志は藍莉の行動を思い出し、ニヤリと笑った。

藍莉は俯いていた為、影志のそんな姿に気づいていなかった。

しばらく声を出さずに影志は笑っていたのだが、急に思い出したように、ハッとし、藍莉に時間を尋ねた。

「・・・今、何時?」

藍莉はベッドの側の時計をチラッと見、六時、と言った。

「じゃ、俺帰る。ホントは始発で帰ろうと思ってたけど、起きれなかったからな・・・。」

影志はそう言うと、起き上がった。

そして軽く身支度を整えると、玄関に向かった。

じゃあな、と一言言って、ドアを開けたとき、藍莉が小さな声を上げた。

「何?」

影志が振り向くと、藍莉はなんでもない、と言って額に手を当てた。

「・・・なんだよ、言いかけてやめんな。」

「なんでもないってば!!」

そう言われても、なんでもない、という顔をしていない。

なにかあるな・・・影志はそう思った。

影志の後ろで玄関のドアがパタンと閉まった。

「もういいの。ホントに何でもないって!!」

藍莉は、何を言おうとしたんだろう。

もしかして・・・。

「・・・俺にもう少し、ここにいて欲しいのか?」

「!!・・・な・何言ってんのよ?」

藍莉は、慌ててそれを否定していたのだが、実は、影志の言ったとおりだった。



もう少し、一緒にいて欲しい。一人にしないで。

藍莉は不安だった。

もし、今日山科と湯口に本当のことを言い、一人になったら・・・。

コワイ。不安で胸が押しつぶされる。

キモチワルイ。胃がキリキリ痛み出す。

もうちょっとだけ、ほんの少しでいいから、側にいて。

藍莉はそう思っていた。



影志は、藍莉の様子を見て、図星だな、と直感した。

しかし、藍莉はそれを知られたくないようだったので、わざと気付いていないフリをした。

影志は腕を組むと壁に寄りかかり、横目で藍莉を見た。

「あーあ、つまんねーの。藍莉が甘えてくるの、俺結構好きなのにな。」

藍莉はそれを聞き、目を少し見開いた。

「甘えてくるって・・・あたしがいつ甘えた?」

影志は、しれっとした態度で答える。

「昨日の夜だって、あれは甘えてきたようなもんだろ?あと、昨日屋上で・・・。」

「うぅ・・・うるさーい!!」

藍莉は、これ以上聞いていられない、そう思い、影志の口を手で押さえようとしたが、影志は器用にその手を、ぱしっと捉えた。

そして、ふっと笑みを漏らし、掴んだその手を自分の方へと引き寄せ、抱きしめた。

「元気になったな。」

影志は本当に小さな声で呟いたので、藍莉は何を言ったのか、聞き取れなかった。

「え?」

藍莉は不思議そうに目を丸くするが、抱き合っている所為で影志には藍莉のその表情が見えない。

「じゃーな、今日、頑張れ。」

「う・・・?あ・・うん。」

藍莉から離れ、ドアの方を向き、帰ろうとしたが、あることを思いつき、さも名案が浮かんだと言わんばかりの表情をして、藍莉の左手を取った。

「ん?」

「うまくいくようにおまじないしてやるよ。」

「なにそれ・・・」

そう言いかけたとき、藍莉は自分の左手首の一点に違和感を覚えた。

違和感の原因はもちろん影志なのだが、藍莉は影志のしている行為を見て、言葉を無くした。

影志は藍莉の手首にキスをしていたのだ。

「な・・・なにして・・・。」

影志は、藍莉の手首から唇を離し、彼女の唇に触れるだけのキスをすると笑顔でドアの向こうに消えた。

予期せぬ影志の行動に、藍莉はただ驚き、玄関にペタリと座り込んだ。

「な・・・なんなのよ。アイツ。」

藍莉の左手首には赤い跡が残されていた。


+++


ちゃんと言おう。

本当の自分のこと。

もしかしたら嫌われるかもしれない。

でも、それでも言おう。

本当の友達になりたいから。

藍莉はぎゅっと拳を握り締め、よし、と気合を入れ、学校に出かけた。



藍莉が二人にいつ言おう、いつ言おうと考え込みすぎて、眉間にシワが寄ってしまっていたのを、山村はすぐさま指摘した。

「どうしたの?眉間にシワ寄ってるけど。」

藍莉は慌てて眉間の辺りに手を当てた。そして視線を下に落としたまま答える。

「ちょっと勇気を出して、ある事をしようと思って。。」

「あること?」

なんだろう、と不思議に思い、首を傾げた。

「・・・本当の自分のこと、言おうと思って。」

藍莉がポツリとそう呟くと、山村は、そうなんだ、と言い、理解したようだったのだが、数秒遅れて、驚き、目を見開いた。

「・・・い、今、本当の自分のこと言おうとかなんとか言った?」

「うん、言ったけど・・・。」

なんでそんなに驚くの?と言いたげに、藍莉は視線を山村に向ける。

「ど・・・どうして言うの?皆に??」

「ううん、山科さんと湯口さんだけに言うつもりだけど。」

それを聞き、山村は明らかにほっとしている様子だった。

山村は左手で頬杖をつき、横目で藍莉を見て言った。

「それにしても、突然だね。」

「う・・・ん。か・・・彼に言ったほうがいいって・・・言われて・・・。(影志のこと、彼っていうの・・・なんか照れる。)」

藍莉はそう言っている間、そっと左手の手首をなぞった。

今は藍莉のお気に入りのシルバーの腕時計で少し隠れてはいるが、影志のキスマークが残っている場所だ。

藍莉の頬が薄っすらと赤くなっていく。

「ふーん・・・。でも、僕としては無理して言わないでいいような気もするけどね。」

「どうして?」

やっぱり、嫌われるから?

藍莉は心臓がいつもより早く動いているように感じた。

不安そうに山村を見ると、山村は少し困ったような顔をして言った。

「だって、天草さん、ずっと険しい顔してたじゃん。言うの、辛そうみたいだし・・・。」

そうか・・・心配してくれたんだ。

藍莉は山村にニコリと微笑み、礼を言った。

「大丈夫。ありがと。」

山村は困ったように笑い、それに答えた。

それからすぐに藍莉は山科に呼ばれ席を立った。

山村は、藍莉の背中を見つめ、

「・・・本当の理由はそれじゃないんだけど。」

そうポツリと呟いたが、藍莉の耳には届いていなかった。











  



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