藍莉が落ち着きを取り戻し、二人でソファに座りながらコーヒーを飲んでいたその時、小さく携帯のバイブレータが震える音が聞こえた。
「影志じゃない?」
「俺、バイブにしてなかった気がする。」
「・・・じゃああたし?滅多にあたしの携帯が鳴ることなんてないんだけど。。」
藍莉はそう言いながら立ち上がり、鞄から携帯を取り出した。
「あ、あたしだった。」
携帯の画面には『山村 誠』と書いてあった。
「誰?」
「山村くん。 『もしもし?』」
「山村!?」
影志は思わず立ち上がり、藍莉の方を向いた。
藍莉は影志に構わず、山村との電話を続けた。
「・・・エ?あ、そうだったんだ。
どんなプリント?期限はいつまで?
・・・うそ!明日?それは困ったな。
・・・いいって。元はといえば、私がサボったのがいけなかったんだし・・・。
・・・あ、ゴメン、私の家FAXないんだよ・・・。
・・・家?いいよ、悪い。」
影志はいつの間にか藍莉の側まで寄ってきて、言った。
「ぜってぇ駄目だからな、家に来させんじゃ・・・っぶっ!!」
藍莉は慌てて影志の口に手を当て、影志の口を塞いだ。
そして電話を続ける。
「・・・え?なんでもないよ。
・・・そう?気のせいだよ。
と、とにかく、いいよ。明日、明日急いでやるから!
・・・うん、わかった、ありがとう。
じゃあまた明日ね。バイバイっ!」
電話を耳から離し、電源を切ったところで、やっと藍莉は影志の口を開放した。
「オマエな・・・。」
影志は睨みながら、藍莉の手首を掴み、壁に押さえつけた。
影志の機嫌が悪いという事が嫌というほど伝わってきて、藍莉は怖くなった。
「な・・・なに?何よ?」
「何でアイツなんかに電話番号教えてんだよ?俺より先に・・・。」
それを聞いて藍莉は一瞬、キョトンとした顔をし、そして首をかしげた。
「あれ、あたしの番号知らなかったっけ?」
「知らねーよ。」
「ごめん、今、教える。教えるから放せー!!」
ジタバタと手足を動かして抵抗を試みるが、男の影志の力に敵うはずもなく、藍莉は諦めて影志をきつく睨んだ。
目で“放せ”と訴える。
しかし、影志はそれに構わず話し続けた。
「山村のヤツ、何で電話してきた?」
「私がサボった授業の時、プリントの課題出されて、それを私に渡すのを忘れたって。」
「ふーん?」
「・・・で、何でアイツに普通に話してる?」
「・・・普通?あー、山村くんは私の本性知ってるから。」
「何で知ってんだよ。オマエ、バラしたのか?」
「違う!気づかれたの。」
藍莉は慌てて否定したのだが、影志は納得してない様子。
まいったな、と思って俯いていると、影志が掴んでいた片手だけを開放し、その手でくいっと顎を持ち上げた。
そして自分の方に向かせた後、影志が言った。
「昼休みに図書館で、か?」
それを聞いた藍莉は目を見開いた。
「なんで知ってるの?見てたの?」
「偶然、見えたんだよ。」
影志はぶっきらぼうにそう答えた。
「そう、あの時、そういう話してたの。」
「でも、何でアイツに電話番号なんて教えた?」
「・・・・・・友達・・だから・・。」
藍莉は、山村を友達と言っていいのか自信が無く、だんだんと声が小さくなってしまった。
それを聞いて、影志はへぇ、と一言言って、冷めた目で藍莉を見つめる。
藍莉は慌てて顔を逸らしたのだが、影志によってそれは阻まれた。
「友達だなんて知らなかったな。」
「今日、友達になってって言われたの!」
「・・そう言って藍莉に近づく気なんだろ?アイツ、絶対藍莉のコト好きみたいだし。」
「そうかなぁ?でも、もしそうだとしても、付き合ってる人居るって言ったから・・・。」
「言ったのか?」
影志は信じられないというような、驚きの表情を見せた。
「うん、訂正しといた。」
「・・・。」
影志は、藍莉の腕を放し、少し離れると、顔を少し逸らした。
隠しているつもりだが、明らかに影志は喜んでいた。
「嬉しいわけ?」
「ウルサイ。」
「バカね。アンタのこと好きって言ったでしょ?」
「・・・信用できねえんだよ。」
「しろ。」
藍莉は、にこっと微笑みながら、先ほど自分がされたように、くいっと影志の顎を掴み、自分の方に向かせた。
「あと何が聞きたいんですか?佐渡クン?」
「もうねえよ。いいから番号教えろ。」
「ハイハイ。」
「あ、でもその前に・・・。」
影志はそう言いかけると藍莉をぎゅっと抱きしめた。
「・・・暫らく抱きしめさせて。」
藍莉は何も言わず、そっと影志の背中に手を回した。
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