藍莉が教室に戻ろうと廊下を歩いていると、向かい側から山村が歩いてくるのが見えた。
山村も藍莉に気づき、走り寄ってきた。
「天草さん、どこ行ってたの?」
「・・・ほ・・保健室。」
「へぇ。そうだったんだ。偶然だね、僕も今、保健室に行ってきたところ。」
「エ?」
「居なかったよね?保健室に。」
山村は笑顔でそう言ったが、目が笑ってなかった。
「・・・や、山村くんこそ、どうしたの?」
「天草さんを探してたんだ。」
「・・・何の用かしら?」
「ここではちょっと。どこか行かない?」
藍莉に否定権が無いような言い方だった。
藍莉は諦め、ニコリと微笑みながら言った。
「・・・いいわ。」
+++
「・・・話ってなあに?」
場所を図書館に移し、藍莉は山村に話し掛けた。
図書館の館内でも、あまり人の来ないコーナーに来た為、誰にも邪魔される事なく、思い切り話が出来るというものだ。
「・・・単刀直入に聞くけど、天草さんて、つくってない?」
「何を?」
「表面を。」
「何が言いたいの?」
「本当の天草さんって、違うよね?」
「本当の私?」
藍莉はニコリと微笑みながらそう言っていたが、内心、驚いていた。
気づかれた?
でも・・・誤魔化せる?
取り敢えず隠し通せるまで隠し通そう、藍莉はそう思った。
「微笑んでいるけど、僕には作り物の笑顔に見えるんだよね。」
「・・・そんなこと言われたのは初めてだわ。」
「おかしいな、と思い始めたのは、さっき。
天草さんと会話してて、そう思った。
さっきの時間、ずっと考えてたんだ。今までの天草さんのこととか思い出しながら・・・。
・・・で、気づいた。
なんかさ、今日の天草さん、いつもと違ってたよね。」
「いつもと違う?どんな風に?」
「上手く説明はできないんだけれど・・・。」
「山村くんがいう、いつもと違う私と感じたのなら、それはきっと、私の気分が悪かったからだわ。」
藍莉は山村の言葉を上手く交わしていった。
この調子で、上手く誤魔化せる。そう思ったときだった。
「今日・・・今日、女子達に色々言われてたでしょ。
それ、見てたんだけど、反応、少し変だったよね。」
「変?」
藍莉は少し焦った。
上手く切り抜けてたつもりだったけど、無意識の内に、イラついたり、落ち込んだりしていたのが表面に出ていたのかもしれない。
どうしよう。
「天草さんの反応って、今まで見たことない感じだった。
はっきり言って、面白かった。」
「面白い?」
藍莉は思いっきり怪訝そうな顔をしてしまった。
「そんな顔もするんだ?」
「・・・あ。」
「ふふっ。」
山村の笑った顔を見て、藍莉は、カチンときた。
ムカつく。この男。ムカつく。
普通のヤツだと思ってたけど、こいつ違う。
普通の男、とか、静かな男・・・に見せてるんだ。
きっとそう、そうに違いない。
「ムカつく・・・。」
「エ?」
「ムカつく。山村くんってこんな男だったんだ。
私の本性分かって満足?もういい?気が済んだ?」
軽く睨んでそう言うと、山村は急に笑い出した。
「くくっ。」
「は?笑うトコじゃないんですけど。」
「・・やっぱりそうだったんだ。本性隠してたんだ。」
「・・・だからナニ?」
「面白い。面白いね、天草さん。」
「・・・面白くないと思うけど。」
「ますます興味持った。」
「持ってもらわなくて結構です。もういい?アタシ、教室帰るよ。」
「僕、天草さんの本性、誰にも言わないから安心して。」
「言いたければ言えば?もうどーでもいい。」
「黙ってるよ。絶対にね。」
「・・・・・アリガトウ。」
「あ、でもその代わり・・・。」
「は?交換条件?」
「僕と友達になって。」
「トモダチ?」
「そう、友達。嫌?」
「別に・・・。」
「じゃあ決まり。よろしく。」
「・・・よろしく。」
藍莉は腑に落ちないといった様子で山村を見た。
しかし山村は藍莉に構うことなく、嬉しそうに微笑んでいた。
「じゃあ・・・。」
藍莉はそう言い、回れ右をした。
「あ、そういえばさっきの時間、先生に『天草さんは具合悪いみたいで保健室行きました』って言っておいた。」
「ありがとう。助かる。」
藍莉はニコっと微笑んだ。
「今の・・・本当の笑顔だよね?」
「え?」
「無意識?いいんじゃない?」
山村は優しい顔つきでそう言った。
「?」
「なんでもない。じゃ、また後でね。僕はもう少しここに居るよ。」
「じゃ、後で。」
藍莉は今度こそ教室に戻ろうとしたのだが、言い忘れた、と言って、また山村の前に立った。
「あたし、さっきウソついた。
付き合ってる人居ないって言ったけど、実はいる。」
「そうなんだ。分かった。」
「じゃあね。」
藍莉はそう言うと、教室に戻って行った。
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