4限の終わりを告げるチャイムで藍莉は目が覚めた。
「・・・んんっ。」
「おはよ。」
とっさに声がした方を向くと、影志のドアップが目に飛び込んできた。
「!!」
藍莉は目をまるくした。
なんで??
「何驚いてるんだよ?」
「・・・一瞬、ココがドコだか分からなかった。」
「は?」
「あたし、寝てた?」
「・・・ぐっすりとな。」
「今何時?」
藍莉は腕時計に目をやる。
すると、目を大きく見開いた。
そして、影志の制服を掴んだ。
「バカ!何で起こさないのよっ!」
「バカって・・・お前がぐっすり寝てんのに、起こせるわけけーじゃん?」
「・・・授業完璧にさぼっちゃったじゃない。」
「・・・しょうがねぇだろ?」
「山村くんと中途半端に話したまま来ちゃったし・・・。」
「心配はソコかよ!」
「・・・それに・・。」
「(否定しねぇし!!)」
「無断で授業休んじゃったし・・・。」
「・・・悪かったな。授業サボらせて。」
「・・・影志が悪いなんて言ってないけど。」
「でも原因は俺だろ?」
「ううん、あたし。」
「俺。」
「あたしだってば。」
「・・・・・・分かった。両方悪かったってことにしよう。」
「両方?」
「そう。両方。もうこの話はオワリな。」
「うん。
・・・ねぇ?」
「ん?」
「あたし、本当にこれから影志と付き合っていっていいの?」
「なに言ってんだ?」
「・・・あたしと一緒に居て楽しい?」
藍莉は不安だった。
今朝、女子達から言われた言葉がずっと耳に残っていたのだ。
―お堅い天草さんには、佐渡くんは合わないと思うけど―
―佐渡君の好きなタイプって知ってる?一緒に居て楽しい人だって―
不安が胸を押しつぶす。
苦しくなる。
そんな藍莉の心中を全く知らず、影志は笑って藍莉をぎゅっと抱きしめた。
「楽しいよ。
・・・ったく、真面目な顔して、急に何言い出すんだよ?
またとんでもない条件言い出すんじゃないかってビビった・・・。
俺はオマエが好き。
オマエも俺を好きでいてくれるんだろ?
何も問題ねぇじゃん。」
藍莉は嬉しかった。嬉しくて、思わず影志の胸に顔を押し当てた。
洗剤の匂いと、かすかだが、自分の香水の匂いがした。
影志は、藍莉の仕草を見て、微笑んだ。
「あー腹減った。藍莉の作ったホットサンド食いてぇ。」
「教室戻ろうか。」
「一緒に食べようとは言わねぇんだな。」
「当たり前でしょ?」
「藍莉、先行け。」
「?」
「ホラ、一緒に歩いてるとマズイだろ?」
藍莉は影志の言ったその一言がすごく嬉しくて、ニコリと微笑んだ。
そして影志の唇に軽く唇を重ね、耳元で、ありがと、と言った。
藍莉のその行為に、影志は顔を真っ赤にした。
そんな影志のことはお構いなしに、藍莉は眼鏡を拾い上げ、屋上から出てこうとした。
・・・が、すぐにまた影志の元に引き返してきた。
「?」
「・・・土曜日暇?」
「・・・暇。」
「じゃあ10時に駅前の大時計の下で。」
「デェト?」
「そう、デェト。またね、影志。」
藍莉はそう言い残すと、屋上から出て行った。
残された影志の顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
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