「影志。なんかイイコトあったのか?」

「あったよ。でも教えねぇ。」

影志は蕗と二人で、いつもの指定席である、教室の一番後ろの窓側の席で昼食を取っていた。

影志が嬉しそうにしているのを見ると、つい、その理由を聞きたくなる。

だから蕗はいつものように聞いてみた。

すると、珍しく、“教えねぇ”なんていう言葉が返ってきた。

「どうせ女がらみなんだろ?」

「・・・蕗。俺は、来るもの拒まず、去るもの追わずの精神を捨てた。

オマエも早く間違いに気付け。」

「なんだそれ。“来るもの拒まず、去るもの追わず”を推進してたくせに。」

蕗は気に入らないという目で影志の姿を見た。

目の前の影志は、蕗のそんな様子を気にするわけではなく、幸せそうにホットサンドを食べていた。

蕗は影志のその姿を見て、自分の手にあるコンビニで買った焼きそばパンと影志のホットサンドを見比べた。

明らかに影志の方がいい。

「影志。その、ホットサンドとか言うのくれ。」

「ぜってぇヤダ。」

「何でだよ。」

「俺が作ってもらったの。誰にも食わせねぇ。」

「手作り・・・。いいなー。俺も手作り弁当作ってもらいたい。」

「早くいい子見つければ?」

「・・・ムカつく。あ!」

「ん?」

「なぁ、あれって天草さんじゃねぇ?オマエ目が良いんだから見てみて。」

「!!(エ?藍莉??)」

影志は慌てて向かいの校舎にある、図書館に目を向ける。

すると、藍莉と山村が二人で向かい合っている姿が見えた。

「(ウソだろ?)」

「なぁ、天草さんだよな?」

「・・・あぁ。」

「男と一緒に居るなんて・・・な。

天草さんて、アイツと付き合ってんのかな?」

「何言ってんだよ!付き合ってるわけ・・・ねぇ・・・・・・と・・・思う。」

ムカ。ムカつく。

影志は思わず蕗に掴みかかるところだった。

でも、堪えた。

落ち着け・・・。落ち着け・・・。

自分にそう言い聞かせ、平静を保つ。

こんなところでキレたら、藍莉との関係が壊れる。

もちろん、土曜日のデートもなくなる。

我慢だ。我慢。

「?」

蕗は、様子のおかしい影志を気にしつつも、話を進める。

「やっぱ付き合ってないか。

あ、そういえば・・・。なぁ、影志。知ってたか?天草さん、女タチに結構言われてたらしいぞ?」

「・・・言われてたって・・・何を?」

影志は視線を藍莉から離さず、蕗に尋ねた。

「俺も直接聞いたわけじゃねーから知らねぇケド、オマエが保健室に運んでいったからさ・・・。」

「・・・?」

影志は蕗の言っている意味が良く分からず、不思議そうな顔をして、蕗の方を向いた。

「オマエのこと好きな奴が、天草さんにオマエを取られたくなくて色々言ったってこと。・・・ったく、災難だな、彼女。」

「色々って・・・どんなことだよ・・・。」

「・・・だから俺も直接聞いたわけじゃねーんだって。聞いたのはな・・・えーっと、天草さんに影志が合わないとか、影志が天草サンと一緒に居ても楽しくないとか?」

・・・ちょっとマテ・・・。藍莉に俺は合わない?一緒に居ても楽しくない?随分言いたい事いってくれてるじゃねーか。

そういや、さっき藍莉が変な事言ってたな。急に真面目な顔して・・・。『・・・あたしと一緒に居て楽しい?』って・・・。

もしかして・・・藍莉、言われた事を気にしてるのか?

「俺、そんな話、初めて聞いた。」

「(影志のヤツ、何でキレてんだ?)」

「何で俺が保健室に連れていっただけで、そんな風に言われるんだよ。」

「さっきも言ったろ。影志のこと好きな奴が、オマエを取られたくなくて・・・だな。」

「だったら、俺に関わった女は皆、何か言われるってことかよ。」

「え?」

「俺の所為で・・・。」

「(ヤバイ。影志の様子がヤバイ。こういう時の影志は近づかない方が身のためだっ。)」

蕗はそう思い、逃げようとしたが、影志の様子がいつもと違うのに気づき、その場に留まった。

影志は俯き、ポツリと話出した。

「昨日聞いたんだ。俺の元カノたちって、皆、俺のファンって奴らに何かされてたんだと。」

「え?」

「俺はそれを知らずに、今まで生きてた。ホントは守ってやらなきゃいけなかったのに・・・。」

「影志・・・。」

「昨日、元カノたちに謝罪して回った。」

「全員?」

「・・・あぁ。だって、俺が悪かったんだ。謝るのが普通だろ。」

「・・・そうか。」

「なんで・・・なんで保健室に運んだぐらいで、色々言われなきゃいけねぇんだよ。」

「・・・相手が天草さんだったからじゃない?」

「お前の言ってる意味がわかんねぇんだけど。」

「天草さんて、結構人気あるだろ?・・・ってお前は知らないか。とにかく、皆にしてみれば、不安なんだよ。影志と天草さんがくっつきそうで・・・。

他の女ならまだしも、天草さんだからな・・・。女子達も早めに手を打っておこうと思ったのかもしれないな。」

「・・・エ?あぃ・・あ、天草さんて人気あるのか。」

「そりゃ、成績優秀だし、スタイルもいいし、優しいし、品があるし・・・。いいところを挙げればキリがねぇだろ。」

「・・・初耳。(誰か悪いところも挙げろ・・・。口悪いとか・・・。)」

「ま、今の影志には関係ないよな。素敵な彼女がいるらしいし。」

「・・・。(関係ありまくる。その、素敵な彼女が今話題にあがってる“天草サン”なんですけど。)

「オ、天草さん、話終わったみたいで帰っていく。

あー、あの男、振られたな。絶対そうだ。」

「何で分かるんだ?」

「・・・なんとなく。

天草さんって、綺麗だよな・・・。」

「蕗・・・もしかして、好きなのか?」

「否、憧れってヤツだよ。付き合ったら苦労しそうだもん。」

「苦労?」

「だって、いつ誰かに取られないかって不安になるだろ。」

「まさか?」

「ま、天草さんと付き合うなんてありえねぇ話だから、要らない心配だな。

あーあ、俺も彼女欲しー。影志、誰か紹介してくれ。」

「・・・。」

「影志?」

影志は蕗の呼びかけに答えず、しばらく手元のホットサンドを見つめ、ボーっとしていた。











  



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