「本城君、絶対にさくらのこと好きだって!」
「はっ?」
学校の中庭で花梨と二人で、仲良くランチを食べている最中、花梨はとんでもないことを言い出した。
そのセリフを聞いて、私は、思わず食べてたものを噴出しそうになってしまった。
「や・・・やめてよねっ変なコト言うの・・・。」
「何が変なコトよ?私は真実を述べただけ。」
花梨は自信アリといった満面の笑顔でそう言った。
「で・・でもね、本城君はきっと香川さんのことが好きなんじゃないかな。・・・仲いいし・・・。」
「そりゃあね、クラス委員同士なんだから仲がいいのは認める。でもね、好きとかじゃ無いと思う!」
「どうしてそう言い切れるのよ?」
「アタシの勘っ!」
「何それ〜!」
「とにかくっ!早く本城君を捕まえておかなきゃ駄目よっ。誰かに取られちゃうぞ。」
「取られるも何も・・・。私のものじゃないし・・・。」
+++
その日の放課後、私は忘れ物をした事に気づき、せっかく駅まで来ていたというのに、学校に戻る羽目になった。
下校時刻の過ぎた校内は静まり返っていて、ちょっと怖かった。
私は自分の腕の時計に眼を向けた。
あーあ、もうこんな時間・・・。早く忘れ物取って帰ろ。それにしても・・・ココ・・怖い・・。
自分のクラスに近づいていく度、誰かの声が聞こえ出した。
誰か・・残ってたのかな・・・。
「何で分かってくれないのっ!!」
ビクッ!!
私は強い口調の声に驚き、その場で飛び跳ねてしまった。
なにゴトっ?そう思い、耳を澄ましてみる。
「何がだよ?はっきり言ってくれないか?」
この声って・・・。本城君じゃない?
そーっとドアの隙間から教室の様子を伺うと、窓の側に本城君と香川さんが居た。
「本城のコト好きなんだけどっ。」
「・・・・・・えっ・・。」
「付き合って・・欲しいんだけど・・・。」
「ゴメン。」
静まり返る教室の中に本城君の低い声が響いた。
「俺、好きな人がいるんだ。中学のときから好きな人で、その子のこと、今でも好きだから。ゴメン、オマエの気持ちには応えられない。」
「そっか・・・。正直に言ってくれてありがと。でも、もうちょっとだけ・・本城のコト好きで居させて。良かったら好きな人って誰だか教えてくれない?中学のときから好きな人ってことは、私も知ってる人よね?」
私はその話を聞いたとたん、走り出した。
わけが分からないくらい走った。
そして、私は駅のホームのベンチに座った。
本城君の言葉が私の頭の中を巡る。
―俺、好きな人がいるんだ。中学のときから好きな人で・・・その子のこと、今でも好きだから―
私、何を考えているんだろう・・・。
私の好きな人は傘の人なのに・・・。
なんで心がこんなに痛むの?
本城君のことなんか、なんとも思ってない。
でも、どうして私、こんなに悲しい気持ちになるんだろう・・・。
きっと今、私の近くに、傘の人が居てくれたらこんな風に考えなかったかもしれない。
会いたい・・・。
会いたいよっ・・・。
今、どこで何をしているの?
私、貴方が好きだったのっ。ずっと・・・。
「友季?」
誰かから声を掛けられ、ハッとし、その声のした方を向くとそこには本城君が立っていた。
「やっぱり友季だ。どうしたんだよ?具合でも悪いのか?」
「・・・ううん。何でもない。」
さっき、告白を聞いてたの、気付かれてないのかな?
「・・・?そうか?顔色良くないけど・・・。」
「大丈夫だよっ。」
「そっか。それならいいけど。」
本城君は時計を見て言った。
「電車遅いな。遅れてるのか・・・。この時間って電車混むから嫌なんだよな・・・。」
「そ・・・だよね・・・。」
「ん?ホントにどうしたんだよ?なんか友季らしくない。」
本城君が私の隣のベンチに座った。
ドキドキする・・・。
こんな事、今まで全然なかったのに・・・。
ヤダ・・・。この場から立ち去りたい・・・。
バサっ。
本城君の手にしていた本が落ちた。
「あっ・・・。」
慌てて本城君はその本を拾い上げた。
「それ・・・何ていう本?」
「これ?これは『銀河鉄道の夜。』俺、この本特に好きで何度も読み返しちゃうんだよな。
・・・どうかした?」
なんで、本城君まで『銀河鉄道の夜』が好きなのよ・・・。
私は、ポロっと涙が出てきた。
「友季っ?」
「ご・・・ゴメン・・・。わ・・たしの好き・・・だった人が・・・よく読んでた本・・・だったから・・・。」
「・・・友季の好きな人って・・どんな人?」
私は傘の人について、本城君に少しずつ、話し始めた。
しばらくして電車が来た。
電車に乗り、すぐに私の降りる駅に着いた。
じゃあ、っていって一人で降りようとしたら、本城君も一緒に降りてくれて、また二人でベンチに座った。
「ごめんね・・・付き合わせちゃって・・・。」
「・・・いいよ別に。」
私はまた、話し始め、すべてを本城君に話した。
本城君は、その間、ずっと黙ってその事を聞いていてくれた。
「ありがとう・・・。聞いてくれて・・・。」
「俺、なんていっていいか・・・・・・。」
「いいよ、何も言わなくて・・・。」
その時、ちょうど、電車が来た。
「本城君、あれに乗って帰ったほうがいいね。もうこんな時間だよ・・・。ホントゴメン。付き合わせちゃって・・・。」
「いいって・・・。それより送っていかなくて平気?」
「大丈夫、じゃあね、また・・・。」
「友季っ。」
本城君が私にそう呼びかけ、電車に乗る直前、私に・・・キスをした。
え?
私は一瞬、何が起こったのかよく分からなかった。
本城君は電車に乗り、帰ってしまった。
一人ホームに残された私は、その場でただボーっとするしか出来なかった。
今の・・・。キス・・・だよね?
私、本城君に・・・キス・・・された・・・。
何で??
理解不能・・・。
そんな言葉が頭の中を駆け巡った。
|