竜兎と洸希はいつものように、たわいない話をしながら学校に来た。

そして廊下を歩いていると、竜兎は自分の隣のクラスのドアに、璃麻が入っていくのを見つけた。

竜兎の足は完全に止まってしまった。

璃麻の隣には、男がいて、璃麻に何か話しかけているように見えたからだ。

(璃麻・・・。)

「ん?竜兎?どうかしたか?」

「・・・。いや。別に・・・。」

竜兎は重い足を無理やり動かして教室に入った。

教室に入ると洸希は、姫乃の姿を見つけると同時に、姫乃に声をかけた。

「おはよー!姫乃!」

「おはよう!二人とも。今朝は早いね。」

「ああ!当たり前だろ!・・・あれ?なんか皆今日早くねえ?」

「英語の課題をやってるのよ。ほら、今日の朝、提出だったでしょ?二人ともやってきた?」

「え?そんなのあったっけ?竜兎やった?」

「やった。」

「うそだろ?お前知ってたんなら教えろよー!!」

「洸希も知ってると思ってた。だから昨日ずっとゲームしてたんだろ?」

「ちげえよ!・・・そうか。だから昨日一緒にゲームしようって誘ってものってこなかったのか。」

「それは違う。俺あの課題、出された日にやっといたし。」

「なんかムカツク・・・。」

「ムカついてもいいから早く課題やったほうがいいと思うけど。」

「竜兎!姫乃!どっちでもいいから課題写させてくれよ!」

「課題って自分でやるものじゃなくて写すものなんだ・・・。」

「竜兎!てめえそんな澄ました顔してイヤミ言うんじゃねえ!」

姫乃はにこにこ笑いながら洸希にプリントを差し出した。

「もう!洸希ったら!騒いでる時間があったら早く写しなって。これ貸してあげるから。」

「姫乃―!!お前って最高!ありがと!」

「大げさね。まぁいいわ。早く写しちゃいなよ。」

洸希は姫乃から借りたプリントを必死になって写し始めた。

「なんでギリギリになんないとやんないんだ?もっと余裕をもってやればいいのに。」

「竜兎うるせえ!!邪魔すんな!」

「こういうのって八つ当たりって言うんじゃなかったか?」

「黙れ!」

「なんか今日の竜兎はご機嫌ななめね。なにかあったの?」

「別に・・・。」

竜兎は口では何もないと言っていたが本当は璃麻のことばかり考えていた。

今まで当たり前のように自分の側に居た璃麻が、毎日自分の知らない人たちとずっと行動を共にしている。

そのことを考えると竜兎は自然に苛立ってしまうのだ。

(近くに居るのに、一週間も璃麻と話をしないなんて・・・。なんか喧嘩している時みたいだ・・・。)

「はぁ・・・。」

竜兎は大きなため息をついた。

その竜兎のため息を聞いて、洸希と姫乃は顔を見合わせて不思議そうな顔をした。


洸希は、姫乃から借りたプリントを写し終え、シャーペンを机の上に置いた。

「やっと終わったー!姫乃ありがとな。今度なんかお礼するよ!」

「いいよ、気にしなくて!」

「ワリイな。」

「あっ!でもジュースぐらいおごって貰おうかなぁ。」

「えー??今いらないって言ったばかりだろ?もうダメー!」

「ひどーい!いいよーだ!もう洸希には何にもしてあげない!」

「それはないだろ?姫乃ぉー!!」

「二人は、いつも一緒にいれていいよな・・・。」

ぼそっと竜兎が呟くと、姫乃は慌ててそれを否定した。

「な・・・何言ってるのよ?今日の竜兎やっぱり何か変!」

「変?どこが?別に俺は変わりないと思うけど。それより洸希、写し終わったなら、課題、前に出して来いよ。

お前の課題を出さないのは別にいいけど、ちゃんとやってきた姫乃まで巻き添えになるのはかわいそうだろ?」

「わかってるよ!!今、出しに行ってこようとしてたんだ!!」


学校が終わり、家に帰ると、洸希は竜兎の部屋に入っていき、竜兎のベッドに勢いよく座った。

竜兎は洸希のその姿を見て、明らかに怪訝そうな顔をした。

「洸希、お前の部屋は向こうだろ?」

「いいんだよ。お前と話をしに来たんだから。・・・なぁ。なんかお前、今日、朝から変だった。何かあっただろ?」

「別に何にもない。」

竜兎は着替えをしながらそう答えた。

「そんなはずねえだろ?」

洸希は納得出来なかった。何にもないわけがない。明らかに数日前とは態度が違っていた。

竜兎はなぜ何も言ってくれないんだ?そういった疑問がふつふつと湧き出てくる。

竜兎は、洸希が納得してないと言うのが、伝わってきた。だから、着替えを済ませると勉強机の椅子に座り、洸希と向かい合った。

そして、洸希の目を強い眼差しで見つめながら言った。

「・・・大丈夫。平気。」

洸希は竜兎がこれ以上この問題に触れて欲しくないんだと思っていることを悟った。

自分だって、触れてもらいたくない事もある、竜兎もそれがあるんだと思い、時間を置く事にした。時間経てばいつか話してくれる、そう思った。

「悩んでるなら、俺に言えよ。兄弟なんだし。」

「・・・あぁ。本当に大丈夫。心配してくれてありがと。」

「辛かったら言うんだぞ?人に話して楽になるっていうのもあるんだからな。」

コクン、と竜兎は首を縦に振った。

(・・・洸希に言えるようなことじゃないんだよ。でも、洸希。ありがと。)

少しの沈黙の後、洸希は急にベッドの上で正座をし始めた。そして真剣な眼差しで竜兎を見つめてくる。

「なぁ・・・竜兎。」

「ん?なんだよ、改まって。」

竜兎は不思議そうに洸希を見た。

「お・・お前・・姫乃のことどう思ってるんだ?」

「・・・は?姫乃?」

(なんで姫乃が出てくるんだ?)

「この頃、お前の姫乃を見る姿が気になってさ。す・・きなのか?」

洸希はそう言いながら、顔を真っ赤にしていた。

「はぁ?」

「だ・・から・・・好きなのかって聞いてんの!姫乃のこと!」

洸希のその照れて言う姿がおかしくて、竜兎は笑い出してしまった。

「なんで笑ってるんだよ!?」

竜兎は、少し洸希をからかってみたくて、意地の悪い答え方をした。

「そうだなー・・・。姫乃だろ?かわいいよな。うん、好きかな。」

竜兎のその答えを聞いた瞬間、次第に洸希の表情が雲っていった。

「そ・・・そうか。」

洸希はそう言いながら、眉間にしわを寄せて、どうしたらいいんだというばかりに、困った表情をし始める。

竜兎は洸希のその反応を見て、また笑ってしまった。

(洸希は、姫乃のことが好きなんだろうな。思ってることがすぐ表情に出るからわかりやすい。)

洸希は、竜兎を軽く睨んで言った。

「竜兎・・・。笑わないで聞けよ。俺、今からお前に言っておくことがある。」

「何?」

真剣に話してくる洸希を思い、竜兎は必死で笑わないように努め、洸希の言葉に耳を傾けた。

「お・・俺・・・好きなんだ。」

「は?」

(何言ってんだ?コイツ。)

「好きなんだよ、姫乃のこと!!」

(び、ビックリした。)

竜兎は少し呆れて、机に方肘を立て、頬にその手をつきながら冷めた目で洸希を見た。

「・・・あのな、そのセリフは俺に言うんじゃなくて、直接姫乃に言えよ。俺に言ったってしょうがないだろう。」

「抜け駆けはしたくない!」

「?」

(抜け駆け??)

「双子なんだし、同じ人を好きになるのはしょうがないのかもしれない。でも、姫乃は一人しかいないし・・・。これからは正々堂々と勝負して、だ



な・・・。」

(そうか。俺がさっき、姫乃のこと好きだって言ったから・・・。)

真剣な洸希の気持ちが痛いほど伝わってきて、竜兎は早く洸希を安心させてやりたくて、慌てて言った。

「わかった、わかった。もういいよ。ホントは、俺、姫乃のことは友達としか思ってない。だから、洸希。気にするな。」

「え?」

信じられない、といった顔つきで洸希は竜兎を見た。

「俺は、姫乃のことを友達以上には見れない。恋愛感情なんてまったくない。」

「お前・・・さっき・・・。」

動揺しているらしく、洸希は「だって」とか「そんな」といった言葉をブツブツと呟いていた。

竜兎はそれを見て、また笑ってしまった。

「さっきは、お前の反応が面白くて、ちょっとからかっただけ。洸希が姫乃のことを好きって事くらい、わかってた。」

ウソだ、そう決め付けて洸希は立ち上がり、竜兎の肩を掴んだ。

「お前、俺に気を使ってそんなこと言ってんのか?だったら止めてくれ。正直に言えよ。」

(いてぇ。強く掴むなよ。)

竜兎は眉間にしわを寄せながら強い口調で言った。

「違う。俺は本当になんとも思ってない。」

「本当なのか?」

「あぁ。」

(だからそうだって言ってるだろう・・・。)

洸希はそれを聞いて安心したのか、ベッドに勢い良く倒れて、はーっとため息を一つ吐いた。

「なんだよ。俺、バカみてえ!竜兎がライバルだと思って焦ってさ・・・。」

竜兎は、安心した洸希をまたからかってみたくて、ついついまた意地悪を言ってしまう。

「でも、姫乃かわいいから、他にたくさんライバルがいたりしてな。」

ニヤリと口角を持ち上げて洸希の様子を窺うと、洸希は慌ててベッドから起き上がり、竜兎の顔をじっと見てきた。

「やめろよ、縁起でもねえ・・・。そんな事言ったら不安になるだろ?」

「不安になりたくないなら、早く姫乃に気持ち、伝えればいいんじゃないか。」

「それが出来ないから悩んでるんだよ。」

「なんで?」

「もし、俺が姫乃に好きだって告白したとするだろ?それで断られたらどうする?今まで通り友達、幼馴染として生きていけると思うか?」

「いこうと思えばいけるんじゃないか?」

「簡単に言うなよー!」

洸希はジタバタと足を上下にし、またベッドに倒れこんだ。

「ま、好きなだけ悩め。悩んだら、その分だけ成長するって誰かが言ってただろ?」

それを聞いて、洸希は首だけを持ち上げて竜兎の顔を見た。

「誰がだよ?」

(だ・・・誰って??)

「ほら、えーっと、昔・・・じゃ無くて今・・・の有名な・・・。」

「は?」

竜兎はヤバイと感じ、勢い良く立ち上がるとドアに向かいながら言った。

「と・・とにかく!頑張れ。俺は散歩に行ってくる。」

「竜兎?」

洸希の声を聞こえないフリをして、竜兎はドアを閉めた。





  



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