「あと5分で授業終わるな・・・。そろそろ戻るか。」
寄りかかっていた戸棚から身体を起こして、竜兎は二人にそう言った。
「そうだね。戻ろっか?」
「・・・あ、あたし、寄るトコあるから、先に帰ってて。」
奈津が、竜兎と璃麻に言った。
「音楽室・・・か。」
竜兎は、少し笑いながら言った。
すると奈津は、竜兎を軽く睨んだ。
「悪い?」
「別に。」
「・・・ねぇ、どうして竜兎ってば昔からそう意地悪なの?」
「意地悪なんてしてないだろ?」
「否、意地悪。」
「ホラホラ、二人とも・・・喧嘩しないのっ。」
「あ、もうすぐ授業終わる・・・。魁が帰っちゃったら困る・・・じゃあね。」
そう言うと、奈津は社会科準備室を飛び出して行った。
「ねぇ、竜兎・・・。」
「あぁ。多分今、璃麻と同じ事考えてた。」
「じゃあ、行く?」
「もちろん。」
そう言うと、竜兎と璃麻は、静かに社準を出た。
向かった先は、音楽室。
音楽室に行くまでにチャイムが鳴り、すでに音楽室からは、生徒がパラパラと出ていた。
生徒の出入りが途切れたところで、奈津が教室内に入って行った。
竜兎と璃麻は、隠れて、様子を窺うことにした。
教室内には、奈津と魁しか居ない。
奈津がいきなり背後から魁に抱きつき、なにか話し始めた。
「何、話してるんだろ?あんまり聞こえない・・・。」
「もうちょっと寄るか・・・。」
竜兎と璃麻は、そっとドアの辺りまで移動し、しゃがみこんで、息を潜めた。
すると、魁の声がさっきよりハッキリと聞こえ始めた。
『奈津、オマエ、6限、何してた?』
『社会科準備室っていう密室に友達と居た。』
『・・・・・・・・・男と居たのか?』
『・・・・・・・・・否定はしない。』
『なぁ、奈津。俺のこと、どう思ってる?』
『好き。』
『・・・俺には、それが本心とは思えないんだけど。』
『・・・本心。』
『じゃあ、どうして、男と密室なんて行く?』
『どうしてって・・・ちょっと付き合えって言われたから。』
『・・・ち・・ちょっと付き合えって言われたからって付いて行くのか!お前は!?』
『・・・一応、ヤダって言いました。でも、断りきれなかった。』
『こ、断りきれなかったって・・・。それで・・・。』
『それで、気づいたら授業始まっちゃって、6限中ずっと社準にいた。』
『マジかよ・・・。』
『うん、ホント。』
『なんでオマエはそう冷静なんだよ。一応まだ俺達、付き合ってるんじゃないのか?
・・・・・・・・・俺に罪悪感とか無いわけ?浮気しといて・・・。』
『浮気!?だ、だれが?魁が?』
『バカ。何で俺になるんだ。オマエだろ?』
『あたし、浮気なんてしてない。』
『じゃあ、社準で何してたんだよっ!?』
『話。』
『・・・話だけで終われるわけねーだろ!!っーか俺ならそれだけじゃ済まねぇ!!』
「もう駄目・・・。俺、限界・・・。」
竜兎はそう言うと、くくっ、と腹を抱え、笑い始めた。
「あたしも・・・。もう駄目・・・。」
璃麻もそう言いながら、あはっ、と腹を抱えて笑い始めた。
魁と奈津は驚いて竜兎たちの方を向いた。
その顔も面白くて、竜兎と璃麻は、さらに笑い始めた。
「・・・お前等、面白すぎ。」
「ホント・・・。」
「竜兎、璃麻!!何でお前達がココに居るんだよ?」
「ちょっと気になったからさ。」
「二人とも、教室に帰ったんじゃ?」
「・・・まさかとは思うけど、さっき奈津と一緒にいたっていう友達って・・・。竜兎と璃麻?」
「うん。」
「くくくっ!!」
「あははは!!」
「奈津!!お前、誤解を呼ぶような表現の仕方止めろ!」
「事実を述べただけなんだけど・・・。」
魁の頬は、うっすらと赤くなっていた。
「魁、赤くなってるぞ?」
「うるせぇっ!!」
「何が、『奈津の事はもうそれほど気にしてない』だよ。明らかに気にしているな。」
「黙れっ!つーか、教室戻れ。」
「分かった、分かった。もう戻る。だから思う存分二人で話ししろよ。」
「バイバーイ!」
そういうと、竜兎と璃麻は、音楽室から出て行った。
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