REAL16.5





6時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り、音楽室からは、D組の生徒がパラパラと出てきた。

魁は、チャイムが鳴っても、まだ立ち上がらずにグラウンドを見ていた。

とうとう、音楽室に残っているのは、魁、唯一人だけになる。

相変わらず魁がその場でボーっとしていると、突然背後から誰かに抱きつかれた。

「!!」

その人物は、魁の首に自分の手を絡ませながら言った。

「何、見てるの?」

(この声・・・。奈津!?)

そう、抱きついてきた人物は奈津だった。

「別に何も・・・。」

「・・・そう。」

(なんで奈津はここに来たんだ?別れ話をしにきたのか・・・。

・・・そうだよな。そうじゃなきゃ、奈津が俺のところに来るなんてありえない。

規則を破ってまで俺に話しかけにくるなんて・・・。

奈津らしくない行動。。)

少しの沈黙があり、その沈黙に耐えられなかったらしく、魁は話し出した。

「奈津、オマエ、6限、何してた?」

「社会科準備室っていう密室に友達と居た。」

(だから、グラウンドに居なかったのか・・・。ち、ちょっと待てよ。今、密室って・・・。)

「・・・・・・・・・男と居たのか?」

「・・・・・・・・・否定はしない。(だって、竜兎も居たし。)」

魁は、急に黙り込んだ。

(男・・・・・・・・・。男と密室って・・・。)

魁は、小さくため息をついた。

「なぁ、奈津。俺のこと、どう思ってる?」

「好き。」

「・・・俺には、それが本心とは思えないんだけど。」

「・・・本心。」

「じゃあ、どうして、男と密室なんて行く?」

「どうしてって・・・ちょっと付き合えって言われたから。」

「・・・ち・・ちょっと付き合えって言われたからって付いて行くのか!お前は!?」

「・・・一応、ヤダって言いました。でも、断りきれなかった。」

「こ、断りきれなかったって・・・。それで・・・。」

「それで、気づいたら授業始まっちゃって、6限中ずっと社準にいた。」

「マジかよ・・・。」

「うん、ホント。」

「なんでオマエはそう冷静なんだよ。一応まだ俺達、付き合ってるんじゃないのか?

・・・・・・・・・俺に罪悪感とか無いわけ?浮気しといて・・・。」

「浮気!?だ、だれが?魁が?」

「バカ。何で俺になるんだ。オマエだろ?」

「あたし、浮気なんてしてない。」

「じゃあ、社準で何してたんだよっ!?」

「話。」

「・・・話だけで終われるわけねーだろ!!っーか俺ならそれだけじゃ済まねぇ!!」



「くくっ。」

「あはっ!!」

突然、入り口のドア方から、笑い声が聞こえた。

「「!?」」

魁と奈津は驚いてドアの方向を向いた。

すると、竜兎と璃麻が腹を抱えて笑っているのが見えた。

二人とも、隠れて二人の会話を聞いていたのだ。

「・・・お前等、面白すぎ。」

「ホント・・・。」

「竜兎、璃麻!!何でお前達がココに居るんだよ?」

「ちょっと気になったからさ。」

「二人とも、教室に帰ったんじゃ?」

「・・・まさかとは思うけど、さっき奈津と一緒にいたっていう友達って・・・。竜兎と璃麻?」

「うん。」

「くくくっ!!」

「あははは!!」

「奈津!!お前、誤解を呼ぶような表現の仕方止めろ!」

「事実を述べただけなんだけど・・・。」

魁の頬は、うっすらと赤くなっていた。

「魁、赤くなってるぞ?」

「うるせぇっ!!」

「何が、『奈津の事はもうそれほど気にしてない』だよ。明らかに気にしているな。」

「黙れっ!つーか、教室戻れ。」

「分かった、分かった。もう戻る。だから思う存分二人で話ししろよ。」

「バイバーイ!」

そういうと、竜兎と璃麻は、音楽室から出て行った。

「・・・サイアク・・。」

「何が?」

「俺、かなり馬鹿・・・。一人で勝手に・・・。」

「?」

「なぁ、奈津・・・。俺、やっぱ奈津のコト好きだ。

奈津の気持ち、冷めてるの分かって、諦めようとしたんだ。でも、気づいたら、いつも目で奈津を追ってた。」

「冷めてるってどうして決め付けているの?私は、魁のこと好きだよ。多分、魁が私を想う以上に。」

「・・・ち、ちょっと待てよ。奈津そんな態度、全然取ったことないじゃねぇか!」

「・・・だって恥ずかしいし。」

「・・・なんで恥ずかしがる必要があるんだよ。もっと、素直に何でも言ってくれよ・・・。奈津はもうちょっと、ワガママになってもいい。」

「・・・わかった。じゃあ・・・・・今から言うこと、聞いてくれる?」

「・・・何?」

「キスして。」

奈津らしくない大胆な発言に、魁は、驚いた。

・・・が、魁は、少し微笑むと、奈津の頬にキスをした。

「ほっぺだけ?」

「・・・。」

魁は、顔を薄っすらと赤く染めた。

(奈津が、こんな風に言ってくるなんて、初めてだ。

いつも俺から強引に・・・なのに・・・・・・。ウワ。めちゃくちゃ嬉しい・・・。)

魁は、恐る恐る、奈津の唇に自分の唇を近づけていった。

あと数センチ。

そう思ったところで、奈津の方から、魁の唇に、自分の唇を押し当ててきた。

「!!」

しばらくキスをした後、奈津は、魁を軽く睨んで言った。

「焦らさないでくれない?」

「・・・・・・・・・焦らすって・・・。」

奈津は、珍しく顔が赤い顔の魁を見て、少し笑い、魁の耳元で囁いた。

「ねぇ、魁、今から愛を深めに行こ?」

「あ・・・愛を深めに?」

「嫌?」

「否、・・・むしろ歓迎?」

「それは良かった。じゃあ、さっそく行こ?」

「行くってどこへ?」

「社会科準備室っていう密室。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」



+++



「奈津たち今頃、うまくいってんのかなぁ?」

「だろうな。」

「良いなぁ・・・奈津。」

「何で?」

「なんとなく。」



「良いなぁ・・・魁。」

「何で?」

「なんとなく。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」






  


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