竜兎は立ち入り禁止と書かれている屋上に入っていった。
本当は、この屋上の扉には鍵が掛かっていて、あかずの扉と言われているのだが、竜兎がちょっといじるだけでこの扉は開くのだった。
この学校の校内を色々調べていて、見つけた、竜兎のお気に入りの場所。
誰も知らない、竜兎だけの秘密の場所
・・・のはずが、すでに屋上には先客が居た。
(誰だよ?普通の奴は入って来れないはず・・・。)
竜兎が少し警戒しながら、先客の姿を見た。
すると、竜兎はそいつの顔を見るなり、その場に立ち竦んだ。
「お前かよ・・・。魁・・・。」
「よぉ、竜兎。久しぶりだな。」
そこに居たのは、竜兎の親友である本道 魁だった。と言っても今は大内 魁という名前なのだが・・・。
つまり、魁もまた、竜兎と同じで未来からホームステイに来ているメンバーの一人だ。
「なんでお前がここに居るんだ?」
「居たっていいだろ。俺はここの生徒だ。」
「そういう意味で言ったんじゃない。ここには鍵が掛かってたはずだぞ?」
「あー・・・。掛かってたな、そういえば。でもあんな鍵、俺の敵じゃない。」
「・・・もういい。」
(もうコイツにこれ以上聞いても無駄だ・・・。)
「竜兎―。1本いるか?」
魁は笑ってタバコを一本竜兎に差し出した。
「いる。」
カチッと音がして、すぐに竜兎のタバコに火が点いた。
「この時代にもタバコがあったって竜兎は知ってたか?俺は知らなかったな。最初、煙管の時代かと思ってたし。」
「煙管?あんなモンはもっと昔だろう。」
「そうだったか?」
「魁は昔から歴史が苦手だったからな。でもよく煙管なんて知ってたな。」
「まぁな。それより、この時代では俺らがタバコ吸ってると捕まるって知ってたか?」
「捕まりはしないんじゃないか?」
「そうか?ま、どーでもいいか。」
「魁、授業は?」
「サボり。竜兎もそうだろ?」
「あぁ。」
竜兎は遠くを見ながらタバコの煙をゆっくりと吐き出し、そしてまた魁の方に目線を戻した。
「・・・なぁ、お前って何組なんだ?今、何の授業?」
「俺はD組。で、今は生物。実験だからサボってもバレないはず。
あ、そういえば竜兎。」
「ん?」
「1週間しかもたなかったな、璃麻とのこと。
竜兎と璃麻が付き合ってるって、ウチのクラスまで伝わってきたぜ。」
「お前はどうなんだよ?奈津とは。」
「奈津ねぇ・・・。奈津とはすれ違いのままですよ。」
「よくお前は平気で居られるな。」
「平気で居られる・・・か。うーん・・・。」
「?」
「奈津はもう俺のこと好きじゃないみたいだからさ。俺も奈津のことはそれほど気にしていない・・・かな。
相手の気持ちが冷めてんのに、俺がこれ以上奈津のこと思い続けてもそれは無駄だろ。」
「無駄?そうかな・・・。
俺だったら、璃麻が俺のことどうでもいいって思うようになったとしても、璃麻を好きでいつづけるけるかもしれない。」
それを聞いて、魁は、ふっと笑みを漏らした。
「竜兎らしい答え。俺は駄目だ。竜兎みたいになれない。」
「ならなくていい。・・・魁は魁らしく生きろ。」
「・・・あぁ。」
「それに、魁が俺みたいになったら気持ち悪い。」
う゛ぇ、と小さく言いながら、竜兎は魁に向かって、大げさに気持ち悪そうな顔をして見せた。
「・・・言ってくれるぜ。まったく。」
そして二人は同時に笑い出した。
こんな風に笑ったのは久しぶりだった。
仰向けに倒れ、空を見つめる。
背中にあたるコンクリートが冷たい。
「竜兎―!空見てみろよ!」
「空ぁ?」
「空っていつの時代も同じだな。」
「そうだな。」
急に、魁が沈んだ声で呟く。
「俺、急にホントの家に帰りたくなってきた。」
それを聞き、竜兎もつられて呟いた。
「俺も・・・。帰りたい・・・かも。」
「待っていてくれる人なんていないのに変だよな。」
「どうしてだろうな・・・。家には機械しかいないんだぜ?」
「心のどこかで家族・・・が家に居るかもしれないっていう期待があるからかも。」
「家に居たことなんて一度も無いのに・・な。」
「俺のホストファミリー・・スッゲーいい人たちなんだ・・・。」
「俺のトコも・・・。」
「だから、本当の家庭?も、こうなのかなって思ったから、家に帰りたくなったのかも。」
「・・・俺たちって周りの皆を騙して生活してんだよな・・・。そう思うと辛くなる。」
「・・・そうだな。」
「魁の本当の両親は、どんな人だったんだっけ?」
「知らない。知る必要がないだろ?竜兎は?」
「まったく知らない。顔も、今、どこにいて、何の仕事をしているかということも。」
しばらく、二人で仰向けになり空を見つめていると、急に魁が起き上がった。
「・・・?どうした?」
「やば・・・。」
「?」
「俺、ちょっと急用。」
「は?」
「また今度、話そ。じゃあな。」
「あ・・・あぁ。」
竜兎の返事に耳を傾けようともせずに、魁は屋上から急いで出て行った。
(なんなんだアイツ・・・。
ま、いっか。アイツがおかしいのは今に始まった事じゃないし・・な。
さてと、そろそろ授業も終わるな。教室に行くとするかな。)
竜兎はそう思い、魁の後を追うように屋上から出て行った。
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