「竜兎、遅かったな。璃麻ちゃんトコに行ってたのか?」
「あー。」
竜兎が教室に戻ると、いつもの様に窓側の指定席で、洸希と姫乃がご飯を食べていた。
(姫乃、教室に戻ってきたのか。)
「姫乃、身体はもう大丈夫なのか?」
「あーウン。もう平気。竜兎は?」
「俺は、寝たらすぐ良くなった。」
「そっか、ねぇ、さっき、洸希に聞いたんだけど、竜兎、彼女居たんだって?
知らなかったから驚いたよ〜。いつから?」
姫乃は、なるべく自然に、いつものように竜兎に話しかけてみた。
傍から見れば、笑顔が多少、引きつっていたのが分かったのだが、竜兎と洸希には、それが分からなかった。
「えーっと・・・。」
(設定によれば、俺と璃麻は、1年前に市立図書館で出会って、それから仲良くなり、付き合いだしたことになってたっけ。
これって、ホントに璃麻との付き合いだしたエピソードと似てんだよな・・・。
正確に言えば、付き合いだしたのは二年前で、出会ったのは学校の図書館だったけれど。)
「何考え込んでんだよ?隠さないで言えよ〜!!」
「一年前。市立図書館で逢った。」
「へぇ、そうなんだ・・・。」
姫乃は平静を装って、食事を続けようと、弁当箱に入っていたタコウインナーをフォークで刺そうとするが、なかなか上手くいかない。
(最近じゃないんだ・・・。1年も前から・・・。)
姫乃の頭の中では、竜兎の言った言葉、一言一言が頭の中を駆け巡る。
(もういい。キキタクナイ。)
そんな姫乃の心境を、まったく知らない洸希は、相変わらず、竜兎に質問攻めをしていた。
そして最後に、
「・・・それにしても、よく1年も騙してたな。」
と一言言った。
洸希は笑いながら軽い気持ちで、『ダマシテイタ』と言ったのだが、竜兎には、その言葉が重く感じられた。
(騙している・・・か。
そうだった。俺は、皆を騙しているんだよな・・・。
ホントは、この時代の人間じゃなくて、
神童家の一員じゃなくて、
洸希と双子じゃなくて、
身内なんて呼べるヒトは、一人も居なくて、
ずっと、一人ぼっちで・・・。)
なぜだか分からないのだけれど、涙が出そうになった。
でも、涙なんて流さない。
いや、流せない。
涙を流せばきっと、理由を聞かれるだろうから。。。
「なー洸希。次の時間、居なくてもへーきだよな?」
「はぁ?」
「ちょっと、サボる。」
「おい、竜兎!」
「頼むな。」
竜兎は、そう言い残し、教室を出た。
向かう先は、竜兎のお気に入りの場所。
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