「こほん・・・。こんにちは☆わたくし、エルベショーンといいますの。エルって呼んでくださって結構ですわ。
以後お見知りおきを。」

グレーフィンとピィルは言葉を無くし、呆然とその場に立っていた。

「どうしましたの?どこかお加減が悪いのですか??」

エルは不思議がってグレーフィンとピィルの顔を交互に見た。

「?」

少し間を置いてから、ピィルが単刀直入にエルに質問をした。

「・・・お前って一体、何モン?人形じゃねえの?」

「私ですか?私はバラの妖精でございます。」

「よっ・・・妖精だぁ?そんなモンこの世に居るわけ・・・。」

「でも・・・今、ここにいるね。」

「・・・グレイ!!お前ってどうしてそう冷静なんだ!?」

「冷静じゃないよ・・・。結構戸惑ってる・・・。」

「戸惑ってるように見えねぇ!!」

「えっと・・こんにちは・・・。僕はグレーフィンといいます・・・。こっちは友達のピィル。」

「・・・あのお・・・。あなた・・・グレーフィン・・といいました?」

「うん。僕、グレーフィンだよ。ピィルは僕のことをグレイって呼ぶけどね。」

「あのお・・・。肩を見せていただけないでしょうか・・・。」

「いいけど・・・。」

(なんで?)

そう、思いながら

グレーフィンは肩をエルに見せた。

「・・・やはり!!ローズバースマークが!!」

「ローズバースマーク?」

エルはグレーフィンの肩にある、バラの形のアザを指差した。

「これ?このアザがなんなの?僕、生まれたときからあるみたいで・・・。」

「それは王家の紋章なのです!!あなた様が・・・。あの赤ちゃんだったグレーフィンさま・・・。こんなに大きくなられて・・・。まさか・・・こんなに年月が経っているとは・・・。」

エルは急に顔を曇らせた。

「王家?エルってば、何言ってんだよ?グレイにはちゃーんとお父さんとお母さんがいるの。
二人ともお城の人じゃないぞ。」

「確かにこれは王家の紋章でございます。ローザリィの・・・。」

「ローザリィ?」

「何?ローザリィって・・・。」

「えーっと・・・。ローザリィといいますのは・・・。」

エルは顔を伏せ、口ごもった。

「どうしたの?エル?」

グレーフィンがエルを見つめながら言うと、エルが照れて顔を真っ赤にしてしまった。

「そんなに見つめないでください・・・。グレーフィンさま・・・。」

「照れないで教えて。」

「はい・・・。あの・・・。
本来ならばピィルさまが居ますので、ローザリィについて、ここで言ってはならないと思うのですが・・・。
一刻も早くグレーフィンさまは自分の本当の世界の事を知らなくてはいけませんので・・・。」

「本当の世界?」

「あの・・・。単刀直入に申し上げますと、グレーフィンさまはこの世界の人間ではありません・・・。」

「どういうことだよ?グレーフィンがこの世界の人間じゃないって・・・。俺は小さい頃からグレイと一緒にいるんだ。グレイはこの世界の人間だ!!」

「ちょっと・・・落ち着いてピィル!!」

「落ち着いてなんかいられっか!!この化けモンめ!デタラメ言いやがって!!」

「ピィル!!化けモンなんて失礼だよ・・・。エルがかわいそう・・・。」

エルは、ぽたぽたと涙を流した。

「エルの話を最後まで聞こう。何か言うのはその後でもいいよ。」

グレーフィンはエルの涙を指で恐る恐る拭った。

「・・・グレーフィンさま・・・。」

「エル・・・。続きを話して。僕は本当に、この世界の人間じゃないの?」

「・・・は、はい。先ほど申し上げた通り、グレーフィンさまはこの世界の人間ではなく、ローザリィの人間でございます。
ローザリィとは、その世界全域に色とりどりの見事なバラが咲き誇る、素晴らしい世界で・・・した。
あの悪魔がやってくるまでは・・・。」

「悪魔?」

「そうです・・・。悪魔・・・ディザスターがやってくるまでは・・・。

ディザスターのせいで、あなた様はこの世界に避難させられたのです。」

「どういうこと?」

「ディザスターは、国王様、お妃様、そして貴方さまの命を狙っていたのです。ローザリィを支配するために・・・。」

(僕の命を・・・狙っていた・・・?)

エルのその一言で、グレーフィンの顔は強張った。

「・・・やがて、ローザリィの城はディザスターに乗っ取られ、国王様は・・・。
国王様は・・・お妃様とグレーフィンさまを守られて・・・永遠の眠りにつきました・・・。
お妃様は、生まれたばかりのグレーフィンさまを乳母とその夫に預け、3人をこの世界にお送りになったのです。」

「どうしてお妃様は、この世界に避難しなかったの?」

「国王様がいなくなった後、自分しかこの国を・・・世界を守る人が居ないとおっしゃり・・・。
お妃様はご自分の偉大な力をすべて使い、ディザスターに抵抗しました。

しかし、ディザスターには打ち勝つ事が出来ず、お妃様は・・・・・・・水晶の中に閉じ込められてしまったのです・・・。」

「僕の本当のお母さんは・・・生きているの?」

「私にも分からないのです・・・。
ロージーさまが生きているか、死・・・んでしまったかは・・・。
ただ、水晶の中に居る事は確かです・・・。私は、この眼で・・・見ました・・・から・・・。」

エルはそう言うと、言葉を詰まらせ、涙を流した・・・。

「すみません・・・ちょっと・・・思い出してしまって・・・。
続けますね・・・。
そして・・・そして私は、有力な魔法使いたちの力によって、グレーフィンさまにこの事実を伝えるためにこの世界に送られました。しかし、それをディザスターに感づかれ・・・。呪いをかけられ、眠らされてしまいました。

けれど今日、グレーフィンさまは私にかけられていた呪いを解いてくださったのです!!」

「ディザスターはエルが、僕に事実を伝えるためにこの世界に送られた事を知った・・・ってことは、僕がこの世界に居るということも分かったはず・・・。でも何でこの世界まで僕を殺しに来なかったのかな?」

「そこから先は・・・私たちが話そう・・・。」

洞窟の入り口の方から声が聞こえた。

「父さん・・・!母さん・・・!」

グレーフィンとピィルが振り向くと、そこにはグレーフィンの両親が立っていた。

「おじさん、おばさん・・・。本当なの?本当にグレイは・・・おじさんたちはこの世界の人間じゃないの?」

「ピィル君・・・。そうだよ・・・。グレーフィンは・・・グレーフィン ソニアさまは・・・ローザリィの王子なんだ・・・。」

「お久しぶりでございます・・・。プラムさま・・・メリナさま・・・。」

「久しぶりだね・・・エルベショーン・・・。」

「私・・・。私・・・お妃様を・・・ロージーさまを守れませんでした・・・。」

エルの頬に、また涙が伝った。

「エル・・・。」

「・・・やっぱり・・・やっぱり父さんたちは、僕の本当の両親じゃなかったんだね・・・。
いつも心のどこかで、二人の子供じゃないような気がしてたんだ・・・。」

「グレーフィン!どうして?」

「なんとなくだけど・・・。妹、弟と、僕との接し方が違うような感じがしていたんだ・・・。僕は二人に・・・。大切にされすぎていたから・・・。」

「・・・そっ・・・そんな・・・。平等に接していたはずよ!!私はあなた達には差別などしないで育ててきたわ!グレーフィンもモニカもランドラも・・・3人とも私たちの大切な子供よ!」

「じゃあどうしていつも僕がどこにいるのか把握しようとしていたの?
モニカとランドラがどこかへ出かけていても、そんなに気にも留めないのに・・・。」

「それは・・・。」

「・・責めている訳じゃないんだ・・・。心配してくれていたんだもの。嬉しかったよ。」

グレーフィンは、とても寂しそうに・・・笑った・・・。

少しの沈黙の後、ピィルが言った。

「おじさん、おばさん、どうして、今までグレイにローザリィ・・・?のことを教えなかったの?」

「それは、ロージーさま・・・グレーフィンの本当のお母さんとの約束だったんだ。
もしも、ローザリィが滅び、ローザリィに戻ることなく、この世界でずっと生きていくのなら、ローザリィのこと、自分のことを知らずに生きていくほうが幸せだといって・・・。」

「さっきも言ったけど、僕、不思議に思うんだ・・・。ディザスターはどうして僕がこの世界に居ると知りながら、この世界に侵略してこなかったんだろう?」

「それはな、お妃様が、ローザリィとこの世界の間に、強力なシールドを張ったからなんだ・・・。」

「シールド?」

「そう、この世界にディザスターがグレーフィンを追って来られないように・・・。
グレーフィンは最後の・・・ローザリィの最後の希望の光なんだ・・・。絶対に死んではいけない。」

「希望の光?どういうことなの?」

「お妃様はローザリィの中で国王様の次に・・・もしかすると国王様以上に力がお強い方でした。グレーフィンさまはそのお二人の血を受け継いでいるので、多分、ローザリィで一番強力な力の持ち主だとおもいます・・・。だからグレーフィンさましか、もうローザリィを救える人はいないのです・・・。」

「・・・今の言葉・・・どこかで言われた・・・。」

「え?」

「・・・今日の夢の中だ・・・。今日、夢の中で言われたんだ・・・。
『お願い・・・。青いバラを一刻も早く・・・。あなたしかこの世界を救える人は居ない。』って・・・。青いバラを・・・って・・・。」

「青いバラ?どういうことなのでしょう?私にはそれがどのような意味なのか・・・。」

「私たちにもわからない・・・。青いバラは存在しないと言われているからな・・・。」

「しかし実際には、青いバラは存在しているそうです・・・。確かロージーさまが昔、私に話してくださりました。」

「本当なのか?エル。」

「はい・・・。ロージーさまは『青いバラは、ローザリィと関わりがあった、ある異世界に存在している。』と言われました。ローザリィとこの世界が昔、つながっていたという事は知っていましたか?」

エルはプラムの方に向かって聞いた。

「それは、お妃様から聞いた。
『古い書物から、ローザリィと異世界が昔、つながっていた事を知った。』と。
ローザリィとこの世界がつながっていたのは、だいぶ昔で、その事実を知っているのは、私たちの他にお妃様と書庫を整理している老夫婦しかいなかったはず・・・。エルはお妃様の妖精だったからこの事実を知っていたんだね。」

「はい。」

「グレーフィン・・・。丁度この洞窟が二つの世界を結んでいたところなんだよ。
グレーフィンがここの洞窟を遊び場にしていると知ったとき、メリナと私は、とても驚いた。
グレーフィンには、この洞窟に、なにか惹きつけられるモノがあったんだろうね・・・。」

(だからいつも父さん達は・・・僕がココに遊びに行くというと、悲しい顔をしていたんだ・・・。)

「エル、他に青いバラについてお妃様から聞いたことはないか?」

「『青いバラを手にしたものは、偉大な力を手にすることが出来る・・・。』といわれました・・・。
青いバラには『不可能』という意味があります。だから、青いバラを手にしたものは不可能なことが無くなるということなのでしょうか?」

「だから僕に青いバラを探せというのかな?ディザスターに対抗するために・・・。」

「そうかもしれません・・・。」

「・・・・・・青いバラを探しに行く。僕一人で。」

「グレイっ!!お前、本気かよ!」

「本気だよ。僕は、青いバラを探さなきゃいけないんだ・・・。」

「どこにあるか分からないんだぞ!」

「エル。この世界にあることは、確かなんだよね?」

「はい。お妃様は、そうおっしゃっていました。」

「・・・だからって・・お前・・・そんなのって・・・。」

ピィルは、泣き声に近い声を出して、グレーフィンの肩を掴んだ。

ピィルは分かっていた。もしかしたら、グレイと二度と会えなくなるかもしれないということを。

嫌だった。グレイと離れたくない。

「ピィル・・・。」

「・・・俺も行く。」

「え?」

「俺も行く。俺も青いバラ・・・探す。」

「ピィル?・・・大丈夫だよ。ちゃんと戻ってくるから。ココで待ってて?」

グレーフィンは、ピィルに向かってにっこりと笑った。

「俺も行くったら行く!!俺、この島以外のところにいつか行ってみたいと思ってた。行くのが早くなっただけだ。」

「危険な旅になっちゃうかもしれないんだよ?」

「分かってる。それでも・・・行く。」

「・・・じゃあ・・・一緒に行こう!」

「・・・本当にいいのですか?ピィルさま。」

「あぁ。」

「グレーフィンさま、私もご一緒させていただきたいと思うのですが、良いでしょうか?」

「もちろん、いいよ。」

「それでは、コトは一刻を争うので、直ぐに出発するとしましょう。」

「ち、ちょっと待って!僕はいいけど、ピィルは家族に言わなきゃいけないこともあるだろうし・・・。
明日の朝、出発するっていうのは駄目かな?」

「はい、わかりました。」

「じゃあ、俺は家に戻って、支度をしてくる。グレイ、エル、また明日。」

ピィルはそう言い残し、走って行った。








「じゃあ、私たちもそろそろ家に戻ろうか。」

「あのっ!ちょっと待ってくださいっ!私とした事が・・・。」

「どうした?エル。」

「グレーフィンさまにこれを・・・。」

エルは、目をつぶった。そして、両手を胸の前で組み、念を込めると、目の前に赤いバラを出現させた。

「えっ?どこから出したの??」

「そうか、それがなくては、な・・・。」

「どういうこと?そのバラには何かあるの?」

「グレーフィンさま・・・。すみません・・・。少々我慢してくださいませ。」

「え?何?我慢て?」

グレーフィンの言葉を聞かず、プラムとメリナはグレーフィンを仰向きに寝かせ、両腕を押さえた。

「ちょっと・・・。なにっ??」

エルは、グレーフィンの肩にある、ローズバースマークに、先ほどの赤いバラを突き刺した。

「いっ・・・。」

グレーフィンの肩には激痛が走った。

「グレーフィン・・・。辛いのは、これからのはず・・・。頑張って・・・。」

メリナがグレーフィンを励ますが、グレーフィンの耳には聞こえていなかった。

だんだんローズバースマークが赤く、浮き出てくるようになった。

そして、グレーフィンの肩のローズバースマークが完全に赤く色づくと、バラが煙のように消えてなくなった。

バラが消えた後、グレーフィンは、激しい吐き気と身体全体のだるさを感じた。

「ヴッ・・・。はぁっ・・・はぁっ・・・。」

「グレーフィン!?」

「はぁっ・・・はぁっ・・・。気持ち悪いよぉ・・・。」

グレーフィンは、目に涙をうっすら浮かべて体調の悪さを訴えたが、誰も、どうする事も出来ない。

メリナは、痛みを代われるものなら代わってあげたいと言いたげに、目に涙を浮かべた。

そうしているうちに、グレーフィンの身体には、また異常が起こった。

(何かが・・・。何かが僕の身体の中から・・・襲ってくる・・・。)

グレーフィンがそう感じた瞬間、身体全体に激痛を感じ、グレーフィンは気を失ってしまった。

「しっかり・・・!」

メリナは精一杯の祈りを込め、言ったが、グレーフィンにその言葉は届かなかった。




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