「・・・洸希になんて言うんだよ。」

二人で廊下を歩いている最中、竜兎はこの先に待っていることが予測できず、

大きな不安を抱き、魁に、洸希と会う理由を何にするのか訊ねると、

魁はしれっとした顔で、「さぁ?その場のノリ?」なんて応える。

「ついてけねぇ・・・。」

頭を抱えてそう言うと、後ろから制服をぎゅっと引っ張られた。

なんだ?

不思議に思って振り向くと、そこには奈津の顔。

「どこいくの?」

「奈津も行く?竜兎のお兄様を見に。」

ニッコリ笑ってそう言う魁に、竜兎は怪訝そうな顔をして「誘うなよ。」と、制す。

すると奈津は、竜兎のその言葉を聞いてムッとし、

「行く。」と一言呟いて二人の間に入って歩き始めた。

竜兎はこうなったらしょうがないか、と諦めて奈津がついてくることに何も言わなかったが、

機嫌が悪いのがどうも気になって、思わず訊ねてみる。

「・・・なんで怒ってんの?」

「竜兎が私を仲間はずれにするから。」

竜兎はそれを聞き、呆れていたが、

魁は優しそうな顔をして、ポン、ポンと奈津の頭を撫でた。

暫らくして、3人が竜兎の教室の前に辿り着く。

「到着ッ。さーて、洸希はどこだ?」

ドアをガシっと掴んで、教室を眺める魁に、竜兎は待ったをかける。

「頼むから廊下で大人しくしてろって。呼んで来るから。」

「呼ぶ前に、俺が当てたいんだけど。」

「当てなくていい。」

竜兎と魁が廊下と教室の間で騒いでいるのを見て、

教室に居たクラスメートは何があったのかとざわつき、洸希がドアへ駆け寄ってきた。

「竜兎、何してんの?」

その声に、魁はピクッと反応して、竜兎が魁の前で延ばしていた腕の下から頭を出した。

「オマエが洸希?俺、大内魁。」

見ず知らずの相手から“洸希”なんて呼ばれて、驚いた洸希は思わず竜兎の顔を見る。

普通、初対面の相手から呼び捨てなんてされたら嫌な気分になるが、

驚いた気持ちの方が先行したからか、不思議なことに嫌だとは思わなかった。

明らかに不思議そうな顔をしている洸希に向かい、竜兎は二人を紹介する。

「二人とも俺のトモダチなんだ。同じ委員会になって・・・。」

「二人?」

一人しか居ないじゃんか、と洸希が言おうとした時、

魁の後ろから、奈津がちょっとだけ顔を出し、会釈をした。

奈津が自分のことを何も言わないから、竜兎が代わりに一言。

「コッチが伊東奈津。」

洸希はしばらく、珍しいものを見るように、二人を眺めた。

その後、ニコっと微笑み、竜兎の肩をがしっと掴んで、ヨシヨシと言いたげに叩いた。

「竜兎も友達作れるんだな。良かった良かった。

いつも、独りでいるか、俺と姫乃といるだけだから、心配だったんだ。

二人とも、竜兎と友達になってくれてありがと。」

それを聞いて、魁と奈津は一瞬、不機嫌な顔になった。

別に、善意で竜兎と友達になったつもりはない。お礼を言われる筋合いはない。

しかし、洸希はそんな不機嫌な二人の様子に気付くことなく、尚も続ける。

「コイツ、変な事言わなかった?たまに変な事口走るけど、仲良くしてやってね。」

洸希は二人に向けて満面の笑顔を向けるが、

魁は愛想笑いというべき曖昧な笑みを浮かべ、一方の奈津は笑いもしない。

更には「・・・言われなくても。」なんて、しれっとした態度でいい、不機嫌のままその場を離れた。

奈津の態度に、洸希は戸惑う。

「俺、何か変なこと言った・・・?」

困惑している洸希に、魁がフォローに回るのを見て、

竜兎は二人をその場に残し、奈津の後を追った。


+++


「おい、奈津。」

竜兎が何度呼びかけても奈津は振り向かない。

このままだと埒が明かないので、人気がなくなった廊下で、竜兎は奈津の腕を掴んで、自分の方を向かせた。

すると奈津はぷくりと頬を膨らませて、気に入らないという表情をする。

「何だよ、その顔。」

「別に・・・。」

「別にって顔してない。」

「・・・ちょっと、ヤナ気分になったの。」

「は?」

「小さい頃から一緒に居たのは、私や魁でしょ。

それなのに洸希って人、自分が一番竜兎のこと分かってるようなカンジでヤダったの。

姫乃ってコもそう。もうヤダ。

大声で言いたい。竜兎と昔からずっと一緒に居たのは、私だって。」

奈津はそう言いながら、キュッと握り締めた小さな手で拳を作り、竜兎の胸をドン、ドン、と叩く。

竜兎は、困ったような顔をして、暫らく奈津の好きなようにさせてから、奈津の手を掴んだ。

「痛い。」

「もう本当に帰りたい。ねぇ、皆で一緒に帰ろう?」

竜兎は奈津の頭を優しく撫でる。

「そんなこと言うなよ。折角コッチに来れたって言うのに。」

「だって、全然楽しくない。」

そう言われて、竜兎は苦笑いした。

(困ったヤツ。)

竜兎は宥めるように、奈津に声を掛ける。

「奈津、オマエ何しにコッチに来たの?

魁が行きたいって言ったから来たいと思ったの?

違うだろ?

話で聞いただけの過去を実際に見てみたいって言ってたじゃんか。」

「・・・うん。」

「来たくても来れなかった人が居るんだから、

そいつ等の分まで、コッチの生活楽しんで、勉強するのが礼儀ってモンじゃないの?」

「うん・・・。」

ヨシヨシ、と撫でられて、奈津はさっきよりも落ち着いたみたいだった。

そこに、突然、明るい声が響き渡る。

「ズルイなー奈津は。俺の竜兎を独り占めするなんて。」

ワザと拗ねたフリをして、魁が近づいてきた。

「・・・別に独り占めなんてしてない。・・・それに、いつも独り占めにしてるのって魁の方じゃん。」

「いーや。奈津だろ。」

まるで自分の取り合いのような会話に、竜兎は思わず苦笑いする。

そして「恥ずかしいからやめろ」と二人の会話を制した。

すると、魁は思い出したように言う。

「一番のズルイヤツは洸希ってヤツだな。」

「洸希?なんで?」

竜兎が不思議そうに訊ねる。

魁は言わなくても分かるだろ、というような顔をする。

「今、一番竜兎の近くに居るのってアイツじゃん。」

その発言に奈津もうんうん、と頷く。

「ホントズルイ。」

二人の会話を聞いて、竜兎はまたしても苦笑いする。

(さっきまで言い合いしてたくせに。)

心の中で毒吐き、二人に向かって洸希を庇う言葉を自然と発していた。

「・・・でも、洸希、悪いやつじゃないから。

俺のホストファミリーだし・・・、悪く思わないで欲しい。」

そう言って真剣な顔をする竜兎を見て、魁はちょっと驚いた。

冗談で言ったのに、真顔で返されるなんて思ってなかったからだ。

(何だかんだ言ったって、洸希ってヤツのこと好きなんじゃん。)

魁は少しだけ洸希に嫉妬したが、そう思ってることを隠して、冗談っぽく言葉を返す。

「分かってるって。さっきの言葉だって、竜兎のことを想っての言葉だったと思うし。

それだけ竜兎が愛されちゃってるってことだろ。」

うげ。

男に愛されても嬉しくない、竜兎はそう思い、怪訝そうな顔をする。

「いーじゃん。喜んどけ。植えつけられた設定だけじゃ、あんな風に親しくなれないって。

竜兎がコッチに馴染んでる証拠じゃん。」

「竜兎はズルイ。」

奈津はま再び、ぷくりと頬を膨らませて、気に入らないという表情をする。

今度は俺に矛先が向いたか、と竜兎はため息を吐き、

奈津の額をピシッと、軽く小突く。

「ズルイズルイばっかり言ってんな。」

「いたッ!ジンジンする・・・。」

額を手で押さえて痛みに耐えているような素振りを見せている奈津を、

竜兎は横目で見つつ、「そんなに強くやってない。」と言う。

しかし、奈津は痛かった!と言い張り、

魁に向かって、珍しくちょっとだけ甘えたような口調で

「魁。ココ、赤くなってない?」と訊ねた。

魁が奈津の頭を撫でつつ、笑顔で「大丈夫。」と答えると、

奈津は「ホント?すっごい痛いんだけど。」と、

竜兎の方を見ながら、酷い事をされたと言わんばかりにアピールを続けた。

まるで子どもの頃に戻ったような、懐かしい雰囲気の中、

午後の授業の開始を告げる予鈴が鳴った。

「戻るか。」

竜兎のその声を合図に、3人は歩き出した。

ふと、廊下の一角で、魁が指で窓の外から見えた向かいの建物にあった一箇所を指した。

「なぁ・・・あの部屋。何だっけ。図書館の隣の部屋。」

それを見て、奈津が答える。

「図書館の隣の部屋・・・検索室のコト?」

「検索室・・・か。」

ふーん、と言いながら、魁は何かを考えてる様子。

「何かあったのか?」

「いや、森本教授が頻繁に出入りしてるの見るんだ。

教授の研究室じゃないのに、何でかなって思ってさ。

今もまた入っていった。」

「何か調べてるんじゃない?」

「だったら、自分の研究室のパソコン使えばいいじゃん。なんでわざわざ?」

確かに、教師達には教科毎に研究室が設けられており、

各研究室毎に教師用のパソコンがある。

それ以外でも、パソコンを使用したいと言うならば、

情報ルームと称した何十台ものパソコンが並ぶ部屋に行けばいい。

しかし、教授はあえて数台しかない検索室のパソコン使用を選んだ。

その意味は・・?

「・・・興味深いな。」

竜兎がぽつりと呟いた言葉に、魁はニヤリと笑って応える。

「だろ?」

「調べてみるか。」

竜兎と魁が、検索室へと向かって歩き出そうとしたが、奈津が慌てて二人の制服を掴んだ。

「ちょっと待って。もうすぐ授業始まる。しかも、今はマズくない?

教授が入っていったんでしょ?あの教授が正直に教えてくれると思えないし。」

教授の行動パターンを思い起こしてみると、確かに質問を素直に応えてくれる人物ではないことを、

竜兎も魁も充分分かっていた。

「そうだな。」

「放課後にするか。」

「うん。」

「じゃあ放課後、図書館で。」

3人はその言葉を合図にして別れ、それぞれの教室へと向かった。





  


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