「あーっちーッ!」
静かな屋上で、魁は大きな声で叫んだ。竜兎はすかさず魁の額を叩く。
「うるさい。」
昼休み。一週間に一度の頻度で自主的に行われていた、
竜兎と魁による二人だけのホームステイ報告会をしていた屋上で、
いつものように二人並んで硬いコンクリートの上にゴロリと横になり、
ボーっとしていた際に、魁がイキナリ叫んだのだ。
竜兎は呆れつつ、言葉を続ける。
「見つかったらどうするんだよ。」
「飛び降りる?」
「勝手にやってろ。」
ぷいっと向こうを向いて、片腕を枕にして寝ている竜兎を見て、
魁は小さくため息を吐いた。
なんだかいつもの竜兎と様子が少し違う。機嫌が悪いようだ。
「何怒ってんの?」
少しの沈黙の後、竜兎は魁の方を見ないまま、小さい声で呟いた。
「・・・洸希がムカつく。」
「洸希?・・・あーオマエの所の?まぁ、ずっと一緒にいれば、ムカつくことも出てくるよな。」
「そうかもしれないけど・・・。」
竜兎がガバッと上半身だけ身体を起こして、魁の方を向く。
「なぁ、本当に兄弟ってこういうものか?洸希と俺って、なんかさー、こう、違うんだよ!」
理想の兄弟と自分と洸希が違うことに、竜兎は苛立ちを覚え、両手で頭を抱え込んだ。
魁はそんな竜兎の様子を不思議そうに眺めていた。
こんな竜兎の姿は、あまり見たことがなかったからだ。
ホームステイの影響かな、と思いつつ、暫らく眺めた後、悩ましげな友に少しばかりアドバイスを捧げる。
「竜兎がどんな兄弟を思い浮かべてたかは知らないけど、それぞれの家庭でキョウダイって違うんだし、諦めて今の生活を楽しめば?」
「楽しめって言ったって・・・アイツがムカつくようなこと言うし・・・。魁はキョウダイにムカつくことないのか?」
魁は少し考えこみ、「ある。」と答えた。そして言葉を続ける。
「でも俺、ムカついてもすぐに忘れるからな・・・。」
「・・・そういえば、魁は昔からそうだったよな。」
竜兎は昔のことを思い出し、納得した。
魁は昔から、言い合いやケンカをしても、数時間後にはケロリとして何事も無かったように接してくるのだ。
「ずっとムカついてても、しょうがないだろ。疲れるし。それにさ、ここに居られる時間は限られてるんだ。仲良くしとけ。」
「俺が仲良くしたいって思ってたって、アイツが・・・。」
竜兎は拗ね、子どものようにそう言った。
竜兎の姿を見て、魁は思わず顔がニヤける。
でも、そんな顔をしていたら竜兎が怒るのが目に見えているので、
必死で唇をかみ締めて笑いを堪えた。
「愚痴、聞いてやるから話せよ。スッキリするかもしれないし。」
竜兎は魁にそう言われても、グチを言うことに少し躊躇した。
別に、洸希のことが嫌いってわけじゃない。不満があるが。
でも、それを口にしたことで、魁が洸希のことを悪く思ってしまうのは嫌なのだ。
・・・でも、少し考えた後、話すことに決めた。
このままずっとこの嫌な気持ちを持っているもの嫌だな、と思ったから。
とにかく今、魁に話して、スッキリして忘れたかった。
「・・・いつも、ゲームやろう、ゲームやろうってしつこいから、昨日は珍しく相手してやったんだ。
そしたら、俺がずっと勝ち続けたから、洸希は卑怯だとか散々文句言ってキレて・・・。
どうしようもねぇ負けず嫌いなんだよ、アイツ。それでさ・・・。」
ぷっ!
竜兎が真剣に話しているというのに、魁は噴出した。そして笑い転げる。
「・・・なんだ、竜兎とそっくりじゃねーか。」
「はァ?俺は負けず嫌いじゃない!!」
「・・・自覚ないのか?竜兎も負けず嫌いだぞ。」
「あ?」
「勝ちにこだわるよ、竜兎は。」
「別にそんなこと・・・。」
「似てんじゃない?お前等。」
くくっと笑いながら、魁は横目で竜兎を見やる。
竜兎は軽く舌打ちしながら、面白くない、という顔をした。
でも、口にしたことで、大分気分はスッキリした。
魁がよっ、と言いながら勢い良く立ち上がる。
「・・・じゃ、行こーぜ。」
竜兎は相変わらず上半身だけ起き上がった体勢のままで、下から魁を不思議そうに見上げる。
「どこ行くんだ?」
「決まってるじゃん、噂の人物、“洸希”に会いに。」
「はっ?」
驚く竜兎に、魁は大真面目で言う。
「何の為にわざわざ図書委員になって、竜兎と接点持ったと思ってるんだよ?こういうときに利用しないと・・・。」
「だっ・・・だからって理由もなく洸希に会えるわけないだろう。」
「理由あればいいんだ?じゃ、適当に作ればいいだろ?よし、行こーぜ。」
魁はそう言うと、竜兎の腕を無理やり引っ張って立たせると、
そのまま引きずるように竜兎を連れてドアに向かって歩き出した。
「ちょ・・・待てって!!」
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||