私は、葉の家を初めて訪れてから、

頻繁に葉の家にお邪魔するようになった。

でも、葉の家族は嫌な顔なんて一つしなくて

いつでも笑顔で、温かく迎えてくれた。

私をまるで家族の一員のように振舞ってくれる。

その優しさが本当に嬉しかった。

さくらちゃんは、葉が側に居ない時でも、話をしたり、勉強を教えてくれたりした。

おかげで、ちょっと感覚が似てきて、

葉が「由良がさくらちゃん化してて怖い。」「あんまり影響されないで」と止めに入ったほど。

でもそんなことを言ったって、葉だって最初の頃は、

由良もさくらちゃんみたいにすれば、なんて言うことだってあったのに。

私が「さくらちゃんて、家族と居る時は自分のこと“さくら”って呼ぶんだね。可愛いよね。」

なんて言ったら、「じゃあ由良もさくらちゃんみたいに、自分のこと“ゆら”って呼べば?」なんて言って、

“ゆら”って呼ぶことを強制してたり・・・。

でも、私はそれを苦だとは思わなかったけど。

私が葉の要求に応えると、葉が喜ぶから。

葉が喜ぶことなら、何だってしたいと思う。

出来るようになりたいって思う。

葉が喜んでくれると、私も嬉しくなるから・・・。

反対に、葉が悲しむ事は絶対にしたくない。

だから“死にたい”なんて思わないと誓った。

「由良が死んだら俺は泣くよ。カッコ悪くたっていい。人前でもすげぇ泣く。

俺が一番悲しいって思うよ。だから、約束して。自分から死ぬとか思わないで。」

そう言った葉の顔を、私は二度と忘れない。

葉は私にとって、とても大切な存在で、

一緒にいるのが当たり前で、

これからもこんな風に続いていくんだろうなぁ、なんて思っていたけれど、

終わりは突然訪れた。

「別れよう。」

突然言われた葉の提案。

あまりに突然すぎて、頭の中が真っ白になった。

付き合って、半年。

いくら彼氏と彼女らしいことをしたって、

楽しい日々を過ごしたように思えたって、

所詮、葉にとっては好奇心だけの恋愛ゴッコだったってコト?

私だけが本気になってた?

錯覚してた?

葉も私を好きでいてくれているんじゃないかって。

・・・そうだよね。葉は一度だって私に好きだとはハッキリ言ってくれなかった。

“嫌いじゃない”、“由良は特別だ”、その言葉しか聞いてない。

それだけで私が勝手に、好きってことだって思ってた。

「誰か・・・好きな人出来たの?」

何か言わなくちゃと思って、絞り出すようにそう言ってみたけれど、

葉は首を振った。

「・・・そうじゃない。」

「・・・由良のこと、キライになった?」

「キライになったわけじゃない。」

じゃあ、どうして・・・?

「由良は葉が好きだよ。」

真剣な眼差しでそう言ったけど、

葉は私から目を逸らし、

「・・・俺、由良の彼氏でい続けるの、ちょっと無理。

一緒に居るのが辛くなる前に終わらせたい。」

辛くなるって何?私、葉を苦しめてた?

そんなつもり、全く無いのに。

葉と一緒に居るだけで、私は幸せだったのに。

たとえ葉が、私が想っているより、好きじゃないとしても・・・。

・・・でも、何を言ったって、もうどうしようもないみたい。

葉とは一緒に居られなくなるみたいだ。

そう思ったら今までの葉との思い出が一気に溢れ出てきて、目が潤んできた。

葉は言った。

「普通の友達になろう。

彼氏と彼女の関係で居るのは辛いけど、由良とこのまま会えなくなるのは嫌だ。

由良が嫌じゃなければ、友達として付き合って欲しい。」

自分勝手だな、葉は。

・・・でも私は、その、葉の提案を受け入れた。

私だって葉と一緒に居られる理由が欲しかったから。

どんな形であれ、葉と繋がって居られるなら私は何だっていい。

「分かった。友達になろう。」

私はそう言いつつ、精一杯笑顔を作った。

でも、笑ったつもりなのに涙が零れた。

慌ててコートの袖で目を擦ると、葉がその手を掴んだ。

そして、私を力いっぱい抱きしめた。

・・・なんでそういうことするかな。友達になろうって言ったばかりなのに。

でも、抱きしめる葉の手は優しくて、私は葉に甘えて、暫らくそのままにしていた。

「ねぇ・・・友達になる前に、最後に、一つだけお願いしてもいい?」

「俺が出来ることなら。」

「・・・キスしてもいい?」

私が恐る恐るそう言ったら、葉が私を抱きしめたまま、耳元で笑って言った。

「いいよ。」

え?いいの?

私は思わず、葉から身体を離し、

ちょっとびっくりしながら葉を見たら、葉は怪訝そうな顔して、私の頬を軽く突付いた。

「自分から言っといて、何その顔。」

「・・・ダメって言われるかと思った。」

私が素直にそう答えると、葉は笑みを浮かべて、

「なんで?だって俺、由良のこと嫌いになったわけじゃないんだよ。」

そう言うと、屈んで私の唇にキスをした。

一回目は短く、次に来たキスは最後のキスを味わうかのような長めのキス。

唇を離して、私の顔をじっと見た葉はみるみるうちにまた怪訝そうな顔になっていき、

急に私のほっぺたを軽く引っ張った。

「何その顔は。キスしたかったんでしょ?泣くな。」

嬉しがれ、笑え、とでも言いたいの?

でも、無理だよ。・・・だって。

「最後のキスかと思ったら泣けてきたんだもん。しょうがないじゃん。」

「・・・最後なんて考えなくていい。またしたくなったらすればいいよ。」

葉は平然とそう言う。

でもそんなの、おかしいよ。

「友達なのに?」

「うん。友達だけど。」

それって、普通の友達じゃないじゃん、って突っ込みたくなったけど、

その関係性が気に入ったから、私は黙っていることにした。

葉はズルイと思ったけど、

私だって、相当ズルイと思う。

どっちもどっちだ。



葉と握手をして「またね。」と、いつものように分かれてから、

私は葉と初めて会った、橋の上に立った。

流れる川を見て思う。

ここから始まったんだよな、と。

目を瞑ると、瞼の裏に葉と過ごした日々が、次から次へと

映像となって、流れていく。

何もかもが初めての経験だった。

どれも、一生忘れることはないと思う。

涙が溢れてきて、頬を伝って零れた。

冷たい鉄の柵を掴んで、崩れるようにしゃがみ込んだ。

本当に私、葉のことが大好きだった。

もう二度と、やり直せることって出来ないのかな?

・・・もう付き合えないのかな。

・・・でもそれでもいい。

付き合っていたって、いなくたって、

私が葉のことを大切に思う気持ちは変わらない。

葉と私は生きている限り、話が出来て、“友達”として繋がっていられるんだから。

多分私はずっと葉を好きでい続けると思う。

もしも、葉の他に好きな人が出来たとして、付き合うことになったとしても、

私にとって葉はやっぱり特別だから、どんなに好きな人がいても、

葉に対する想いは心の一部にずっとあり続けると思うんだ。

私はいっぱい、いっぱい葉に助けてもらった。

だから、次は、私の番。

葉が困ったとき、辛いとき、力になりたい。

私に出来る事なんて、あるかわからないけど、

自分の出来る事を精一杯しよう。

それが葉に対する恩返しだ。

私は涙を拭い、立ち上がった。

・・・もう泣くのは終わり。

葉とは別れたけど、一人ぼっちになったわけじゃない。

大丈夫。

私はもう、一人じゃない。

だから、頑張れる。



END





  


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