最近、亮と一緒に歩くのが嫌になってきていた。

亮のことが嫌いになったわけじゃない。

絶対、前よりもっと好きになってる。

でも・・・一緒に歩くのは嫌。

なぜなら、亮と歩いている姿を人に見られたくないから。

自分たちがお店のショーウィンドーに写る姿を見るのも嫌になった。

前はそんなこと思ってもいなかったのに。

あんなことがあってからだ。



It matches well.



数日前、響はクラスの女子達のある会話を偶然聞いた。

「会長さんって、本当に恩田さんと付き合っているのかな?」

「そうらしいよ。」

「何で会長って恩田さんと付き合ってるんだろ?恩田さんよりも、斉藤先輩と並んでた方が絵になると思うのに。」

「言えてる!あの二人ってお似合いだもんね。」

「なんていうかさ、大人の男と女って感じがして、憧れちゃうんだよなぁ。」

「分かる!高校生ってカンジがしないんだよねぇ・・・。」



(・・・お似合い。

あたしと並んでいるよりも、斉藤先輩・・・つまり椿さんと並んでいた方が絵になる・・・。

あたしと亮はお似合いじゃない・・・。

あたしたち二人が歩いている姿を見て、皆そう思っているのかな。

・・・やだな。

あんな会話、聞かなきゃ良かった。

聞きたくて聞いたわけじゃないけど。

あのコトバが頭から離れられない。)



+++



亮太は、最近の響の変化に気付いていた。

だからちょうど今、友達の司に相談していたところだった。

「二人で歩くのを極力避けているように思えるんだ。

一緒に歩いていても、僕の前や、後ろをわざと歩くことが多くなってきたし・・・。

こんなこと、今まで無かったのにな・・・。」

司は、ちゅーっと音を立て、ストローでパックのオレンジジュースを飲みながら遠くを見ている。

(聞いてなさそう・・・。)

「ふーん、響ちゃんが亮太と歩くのを嫌がってる・・ねぇ・・・?」

「・・・あっ・・・うん、なんかそんな気が・・・。」

(あ、聞いてたか。)

「でもさ、この前、すげえニコニコしながら一緒に歩いてたじゃん。」

「その時はそうだったんだけど・・・。最近、急に。」

はぁ・・・とため息を一つ吐く。

司は亮太の肩に手を置き、ポンポンと軽く叩いた。

「まぁ、まぁ、そんなに落ち込むなよ。ジュース飲むか?」

「ううん、いい。

どうしていいか良く分からない。何かしたかな・・・?」

司はズルズルと音を立てジュースをすべて飲みほすと、ぎゅっと握りつぶし、ゴミ箱に投げ入れた。

「・・・分からないなら聞いてみるのが一番だな。よし、亮太、行くぞ。」

司はそう言うと、亮太の腕をぐいっと引っ張った。

「おっ・・・おい待て!!」

司は亮太の声を聞き流し、強引に響のクラスのある階まで引っ張って行った。

そして、さあ行けとばかりに後ろから押し始める。

「なんて聞けばいいんだよ・・・。」

「なんで一緒に歩くの嫌なの?って。」

「ストレートすぎだ!・・・まだ一緒歩くの嫌がっているっていう確証もないし。」

「・・・じゃあまずはそれから聞くか。『一緒に歩くの嫌?』って。はい、決定。」

「ち・・・ちょっとまて。なにが『はい、決定』だよ。」

「さっさと響ちゃん呼べって。ホラ。」

「わかったよ・・・。」

亮太は教室を見回し、響の姿を見つけると、響を呼んだ。

「響っ。」

その声に響の身体がビクッと反応し、そして恐る恐る亮太の立っている教室の入り口に目を向けた。

響だけじゃない、響のクラスメイトのほとんどが声に反応し、亮太に一瞬、目を向けた。

亮太は響が自分の姿を確認したと分かると、軽く手招きをする。

響は困ったような表情をし、のろのろと亮太の側に寄ってきた。

「ど・・・どうしたの?珍しいね、亮がここに来るの。」

「・・・あぁ。」

「よっ!ひーびきちゃん。」

司が亮太の後ろから出て、響の頭をポンポンと叩いた。

「あれっ。司さんも来てたんだ。」

響は司を見て明らかにほっとし、ニコリと微笑む。

亮太は、そんな響の様子を見て、顔には出さないが不機嫌になる。

(なんで司の姿を見て、ほっとするんだよ・・・。僕に対して、なんだかよそよそしいし・・・。)

クラスメイトの視線が気になり、響は亮太を思いっきり押し、ドアからなるべく離れた位置まで連れて行く。

「で、なに?どうしたの?」

(あ。普通になった。)

先ほどまでよそよそしかったのがウソのように、響は微笑んで亮太にじゃれ始める。

「・・・響、僕と一緒に歩くの嫌?」

「へ?」

亮太にじゃれていた手がピタリと止まり、響は顔面蒼白になる。

「だから・・・僕と一緒に歩くの・・・嫌なのかと思って。」

「・・・・・な・・・んでそんなこと聞くの?」

「・・・最近、変だから。」

「そんなこと・・・ない・・・よ?」

響はそう言いながら、目を泳がせる。

嘘をついていることが明らかだった。

亮太はため息を一つ吐くと「うそだね。」ときっぱりと言い切った。

そして、「そんな嘘、僕が見抜けないと思った?」とも。

「え・・・っとー・・・。司さんっ助けてっ。」

響はさっと司の後ろに隠れた。

この、響の予想外の行動に一番驚いたのは司だ。

「えっ?俺っ!?」

司は、困ったな・・・と苦笑いして、ハハッと言いながら亮太を見つめるしかなかった。

亮太は不機嫌なオーラをあからさまに出し、司をも睨む。

「お・・・俺に怒ったってしょうがないだろ・・・。」

それは亮太だって分かっていた。

しかし、先ほどから響の司に対する態度を見ていて、司に対しても段々腹が立ってきていたのだ。

嫉妬・・・というやつ。

司にしてみれば、いい迷惑だ。

「響。なんで司に隠れるの?」

亮太の声のトーンが低いことで、怒っているということが嫌でも伝わってくる。

「だって・・・亮・・・怖い。」

「あっそ。司は怖くないもんね。・・・そんなに司が好き?へぇ。あ、そう。じゃあね。」

亮太は感情の篭ってない冷たい言葉でそう言い捨て、自分の教室へと帰ろうと歩き出した。

「え・・・そういうんじゃなくてっ!!」

亮太は響のその言葉を聞き入れようとせずに、構わず歩き出す。

響は慌てて亮太の側に駆け寄り、彼の腕を掴む。

「待って。」

泣きそうな響の言葉に、亮太の足も止まる。

「僕と一緒に歩くの嫌なんでしょ?ってことは僕のことキライなんじゃないの?」

「ち・・・チガウ!違うよ!!」

「・・・じゃあなんで一緒に歩くの嫌なの?」

「そ・・・それは・・・。」

「言えない?・・・別にいいけど。授業あるし、行くよ。」

亮太のその言葉を聞き、響はゆっくりと掴んでいた手を放した。

腕を開放され、亮太は歩き出す。

司は、その場で下を向き続けている響の頭を軽く撫で、亮太の後を追った。

響から大分離れた場所で、司は亮太に声を掛ける。

「おい、亮太。どうしたんだよ。らしくないんじゃねーの?」

「・・・。」

「・・・全く、大人気ないねぇ。」

「・・・うるさい。」

「もう終わりにする気?響ちゃんとのこと。」

「関係ないだろ!」

イライラが最高潮に達し、壁に思い切り拳を打ちつけた。

でも、そうしてからすぐに冷静になり、司に謝る。

「・・・悪い。お前にあたったってしょうがないよな・・・ごめん。嫉妬。」

しゅんとした亮太に向かって、司は手を伸ばす。

亮太が不思議そうに司の手を見ていると、ピシッといい音と共に、額に激痛が走った。

「っー・・・。」

司が亮太にデコピンを一発食らわせたのだ。

亮太はあまりの痛さに、額に手をあて、その場に蹲まる。

「いい音したなぁ。痛かったか?」

「痛い。」

亮太の目には薄っすらと涙が滲んでいた。

司はそんな亮太を見てニヤリとし、「そっか。んじゃーもういいや。」とだけ言い残し、歩き始めた。

亮太も額に手を当てながら、司の後に続く。

「ちょっとは手加減しろ。」

「デコピンに手加減もあるかよ。」

司のデコピンのお陰でいつもの二人に戻った。

「・・・で、どうするんだ?これから。」

「・・・どうするって言っても、響が僕と一緒に歩くのを嫌ってる理由を聞かせてもらわないことには・・・。」

「別に亮太のことを嫌ってるようには見えなかったけど、どうして一緒に歩くのが嫌なんだろう?」

「オンナノコの考えることは分からない。・・・ここは同性の意見を聞いてみた方がいいかな。」

「・・・椿に聞くか。」

コクン。二人で見合わせて頷いた。








  


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