私の好きな人、森下真也。
身長178センチ。
顔も・・・わりといい。
スポーツ万能。
学力もトップから数えた方が早い程の秀才。
性格は優しくて、頼れる男と評判。

だけど・・・
実際は超が付くほどイジワルで、あたしが頼みごとしても、ヤダって即答。
その上、ニッコリ笑顔で一言。

「話しかけんな。」

・・・。
これが評判のいい男!?
酷すぎる。
皆、騙されてるよ。
本性はとんでもない男だよ。

昔はいい子だったのに・・・。

真也とは隣に住んでて、親同士も仲良しだったから、小さい頃からずーっと一緒に居た。
何をするにも一緒。
真也の男友達の家にも、面識が全く無いのに、真也にくっ付いて行ったりもした。
夏は花火、冬は雪遊び。
思い出は沢山ある。
・・・そんな楽しい思い出は中学に入る迄のことだけだったけれど。

中学に入り、急に真也は私のことを避け始めた。
名前で呼んでたのに、苗字で呼ぶようになったのも中学に入ってから。
そういえば、一度、あたしが真也って呼んだらものすごい勢いで怒られたっけ。
しかも、友達に私が隣の家の住人だってこと隠すし。
なんで?
聞いても返ってくる言葉は二言。
「うるさい。」
「話しかけんな。」

それでもやっぱり好きで、ずっと片思いしてた。
そして中学3年。
いい加減、あたしも疲れてきました。

もうやめた。
片思いなんてやーめた!!
真也のこと好きで居続けたっていいことないもん。
付き合える可能性、全くと言っていいほどないし。
第一、あたし、嫌われてる・・・。

自分で言ってて泣きたくなる。
でも、泣かないモンね。泣くもんか!!

すっぱり諦めて新しい恋へ向かうんだから!






スキナヒト。






登校して、一番最初に耳に入るのは友達のこの言葉。
「今日の森下君情報聞きたい?」
また来たよ・・・。
いつもは嬉しかったこの言葉も、今日はなんとも感じない。気分が滅入るだけ。
情報聞くのも、もう終わり。もう聞かないよーダ。
「別にー。もう好きじゃないし。」
「ど、どうしたの?熱でもあるんじゃないの?」
友達は慌てて私のおでこに手を当てる。
「熱は・・・ないみたいね。どうしたのよ?」
私は、はぁーとため息をひとつ吐き、机に突っ伏す。
そして、ぽつりと言った。
「好きで居たっていいことないし、付き合える可能性全くないもん。」
「・・・それでも好きでい続けるっていったくせに。」
「所詮こんなもんよ。他に好きな人見つけるんだ。カッコいい人見つけるんだもん。」
「・・・長年片思いを、そんなにすぐに諦められるもの?」
「諦めるんだよー!!」
「はいはい。」


その日から私は徹底的に真也・・・いや、森下君を避けた。
階段を下りるとき、廊下を曲がる時、ちらっと森下君が視界に入った時はすぐに逃げた。
しょうがなく遇ってしまった時は、気付かないフリをして通り過ぎる。
部活も違うし、同じクラスじゃないから、全く会えない日が増えた。
きっと、森下君は、私に会わなくなって喜んでいるだろうと思う。
私にとっては悲しいことだけど、彼が喜んでるなら良しとしよう。

それでも、長年の片思いの所為か、彼が校庭に居れば、目で追ってしまうし、体育館の全校集会でもそうだった。
何処に居ても見つけ出してしまう。
・・・そんな自分が少し悲しかった。

このままじゃダメだ。そう思った。
だから新しい好きな人を見つけようと努力した。
でもなかなかうまくいかなかった。
真也以上の人はいない。
こんな私のことを好きだと言ってくれる珍しい人も居たけれど、やっぱり、どうも好きになれなかった。
あたしはやっぱり真也が好きなんだ・・・。
諦めることなんて出来ないよ。
はぁ・・・。


+++


ある日、部活が終わり、帰ろうとすると、目の前に真也が居るのが見えた。

(あ、真也だー。)

ボーっと彼の背中を見つめながら歩く。
なんか今の私、ストーカーっぽいかも。

・・・でもしょうがないじゃん。
帰る方向一緒なんだから。

相変わらずボーっとしてたら、突然、誰かに肩を叩かれた。

「ひゃっ!!」

思わず悲鳴に近い声を上げてしまった。

「ご、ごめん、驚かせるつもりじゃなかったんだけど・・・。」

恐る恐る後ろを振り向くと、見覚えのある人が立っていた。
たしかこの人、真也と同じ部活の人だ。
真也のことを目で追っていると、よく視界に入ってくる。
名前は知らないけれど。

「えっと・・・話すのは初めてだよね?俺、3−Bの山口博史。」
「ど・・・どうも。」
「・・・良く目が合うよね?」
「え?・・・あぁ・・・まぁ・・うん。」
「・・・もしかして・・・俺のこと、好きだったりする?」

(はッ?何この人。自惚れてんの?バっカじゃない!?
なんであたしがアンタのこと好きにならないといけないわけ?)

「否、別にそういうわけじゃ・・・。」
「ウソ!だって目が合うってことは、俺のこと見てくれてんでしょ?」

(いいえ、あたしが見てるのは森下真也ってヒト。決してアンタじゃないです。)

俯いて、なんて言おうか迷っていると、山口という男が下から覗き込んでくる。

「恥ずかしがらなくていいのに。」

(別に恥ずかしがってるんじゃないわよ!ったく、この勘違いヤローめ!)

「・・・ホント、何とも思ってないんで・・・さよならっ!!」

あたしがそう言い、走り去ろうとしたら、山口が私の腕をがっしりと掴んだ。

「・・・そういうことにしといてもいいけど、俺、君のこと好きだから。付き合ってくれない?」

「!」

(告白・・・。これが真也だったらなぁ・・・即オッケーなのに。
・・・って、今、そんなコト思っている場合じゃない。断らなきゃ!)

「えーと・・・。あたし、好きなヒトがいるので・・・ごめんなさいっ!」
「別に付き合ってるわけじゃないんでしょ?じゃ、いいじゃん。」

(付き合っていないけどさ・・・ってか、付き合う望みなんて全くないんだけどさ・・・。)

そのとき、急に、私の腕をがっしり掴んでいた山口の手が放れた。
結構強く掴まれていて、痛かったから、放してくれて助かった。
腕をさすっていたら、いつのまにか横に誰かが立っていたことに気付く。
そして耳を疑うような言葉が聞こえてきた。

「山口。コレ、俺の。」

まさか・・・。
でも、この声・・・。

恐る恐る顔を上げると、いつも遠くから見ていたあの顔。
コレ、と私に向かって指を指していたのは、真也だった。

「・・・え?」
「コレ、俺のだから。付き合うの無理。」
「・・・森下の彼女?」
「そう。」

え?か・・・彼女!?
この場をしのぐ為のウソだと分かっていても、彼女なんて言葉、嬉しすぎる。

「マジかよ。」
山口が困ったように苦笑いしてガシガシと頭をかく。
「・・・そういうことだから。オイ、帰るぞ。」
「え・・・?あっ・・は・・・ハイっ!」

真也は一度も後ろを振り向かず、ただ沈黙を守ってあたしの数センチ前を歩いていた。
でも、しばらく経って、急にピタリと足を止めた。
急すぎて、あたしが真也にぶつかってしまったほどだ。

「礼の一つも言えねぇのかよ。わざわざあそこまで戻ってってやって、助けてやったってのに。」
「あ・・・ありがとう。」
「オマエも、迷惑なら迷惑ってはっきり言え。」
「・・・はい。」
「オマエが思わせぶりな態度とるからあっちだって勘違いするんだよ。」
「・・・思わせぶりな態度なんて取って・・・ないもん。」
「あ゛?」

逆らうと怖いんだよね・・・真也。
ここはひとまず素直に頷いておこう。

「・・・はい、そうです。その通りです。」
「ったく、ヤダヤダ、バカオンナは。」

ムカつく。
そりゃ、真也より頭良くないけど、バカって言うことないじゃない。

「バカって言うな・・・。」
「あ゛?バカにバカって言ってなにが悪い?」

しまった。
つい本音が・・・。
怖いから、ここでもひとまず素直に頷いておこう。

「・・・悪くありません。」
「オマエが好きなのは俺・・・なんだろ?」

え?なんで知ってるの?
あたし、態度バレバレだった?
それとも誰かから聞いたのかな?
そうだよ、悔しいけど、あたしはアンタが好きなんです。
・・・でも、正直に言うのも癪だからウソをつく。

「・・・チガウ。もうやめたもん。」
「は?なんでだよ?」
「アンタのこと好きでいたってイイコトないし。
第一、アンタ、あたしのこと嫌いでしょ?」
「・・・キライじゃねぇよ。」
ポツリと小さな声で呟く。
なんか信じられなくて思わず聞き返してしまった。
「はぃ?」
「キライじゃねぇって言ってんの!バーカ。」
「・・・はッ?どういうこと?もしかしてあたしのこと好きでいてくれてたり・・・して?」
「うるせー。」
「・・・なんなのよ一体。」
「普通分かるだろ。バカ。」
「分かんないわよ。」
「キライの反対。」
「・・・好きってことね?」
「・・・さあなー。」
「またそうやってはぐらかす・・・。」

素直じゃないんだから・・・。
でも、正直、嬉しい。
真也があたしのこと好きでいてくれたなんて思いもしなかったから。

でも疑問も浮かんでくる。
なんで、両思いだって分かっているのに、どうして告白してこなかったんだろう。
結果が分かっているんだから、告白してきてくれてもいいと思うんだけど・・・。

頭ん中で悩んでもしょうがない。
正直に聞いてみよう。

「なんで両思いだって分かってて、好きって言って来なかったの?」
「そんな恥ずかしいこと俺が言えるか!」

え?

「何それ!?」
「オマエこそ、何で俺に告白してこねぇんだよ。好きなら好きって直接俺に言いに来い。
友達伝いに知るなんてすっげーむかつく。オマエが好きって言いにくればいい話だろ?」
「・・・告白なんて出来るわけないじゃない。アンタ、あたしのこと嫌がってたんだし・・・。」
「だーかーら、嫌がってねぇって。ダチとかに、あることないこと色々言われるのが嫌なだけ。」
「あたしは色々言われても平気だけど。」
「俺は嫌だね。」

はぁ・・・そうですか。

あーあ、折角両思いだって分かったのに、言い合いばっかだよ・・・。

落ち込んで下を向いてたら、急に手を取られた。
手・・・繋いでる。

「帰んぞ。」
「う・・・うん。」
「なに急に大人しくなってんだよ?」
「・・・別にー。」

なんか嬉しくて自然と笑みが漏れる。

「・・・ちいせぇ手。オマエの手、こんなんだったっけかな。」
「アンタの手が大きくなったのよ。」
「そうか?ま、どうでもいいけど。」
「・・・ねぇ、好きって言ってよ。」
「やだね。」
「言ってよ。」
「今度な。」
「・・・今度っていつ?」
「10年後ぐらい。」
「・・・サイアク。」




私の好きな人、森下真也。
身長178センチ。
顔も・・・わりといい。
スポーツ万能。
学力もトップから数えた方が早い程の秀才。
性格は優しくて、頼れる男と評判。
でも、あたしの前では超が付くほどイジワルで、頼みごとしても、ヤダって即答。

だけど・・・何だかんだ言いながら、結局は手伝ってくれたり、前より優しくなったかな。

相変わらず素直じゃないし、口は悪いけど・・・

やっぱり私は彼が好き。

ずーと、ずーっと、スキナヒト。



END





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