津本の家の前に立って、インターホンを押す。

インターホンでの返事が返ってくる前に、津本が玄関の扉を開けて出てきた。

津本の姿を見て、俺は正直ちょっとだけ驚いた。

だって、朝会った時とは違う格好。

確か朝は、Tシャツにジーンズ姿だった気がする。

だけど今はいかにも女の子っていう格好。ピンクのふわふわしてそうなワンピースにジーンズを重ねてて・・・

俺がじーっと見つめてたからか、津本が少し照れてて「な・・・なに?」って聞いてきた。

「着替えたんだなーって思って。」

俺がそう言うと、「あ、うん。散歩で汚れちゃったし。」って言ってから、自分の姿をちょっと見て、「・・・変?」って不安そうに聞いてくる。

「ううん。可愛いよ。行こっか。」

俺はそう言って、結構上機嫌で、歩き出す。

当然津本もついてきてると思ったのに、後ろを振り返ったらさっきの位置のまま、ボーっと突っ立っていたからビックリした。

なんで動いてないんだ??

「おいてくよー」って言うと、はっとして、慌てて小走りでこっちに来た。

「ご、ごめんなさいっ。」

肩にかけてた白くて大きめの鞄の取っ手をギュッと握りしめ、少し俯いて謝ってくる。

そんな、謝らなくていいのに。

持っていた鞄が重そうだったから、「鞄、持つよ。」って言って手を差し出すと、

「いい、いい」って必死になって首を振る。

なんでそんな必死になってエンリョする??

ラッキーとか思って、持たせればいいのに。

首を勢い良く左右に振ったからか、前髪を留めてたピンが外れかけた。

すっと髪に手を伸ばし、ピンを手に取る。すると津本がビクっと身体を震わす。

その大げさな反応に、ついつい笑いそうになる。

笑いを堪えて「ピン、外れかけてたから・・・留め直すよ。」って言うと、「う、うん。」って。

かーわいい。

「出来た。」

ピンを留め直し、ニッコリ微笑んでそう言うと、「ありがと。」って。

すっげぇ可愛い顔されてお礼を言われた。

俺がほのぼのとした気分に浸ってると、後ろから思いっきり五月蠅いクラクションを鳴らされ、邪魔された。

誰だよ、ったく。

チッと少し舌打ちして、音のした方を向くと、そこには見慣れたウチの車が。

車には、父さんと母さんが乗っていた。

「あれ?もう出かけんの?」

俺がそう尋ねると、母さんが助手席の窓から顔を出して

「うん。本当は葉の帰りを待ってたんだけどね。」って。

多分、俺の「お客さん」ってのを見たかったんだと思う。

その証拠に、今、スゴイ津本を見てるし。

運転席の方からも、父さんが興味津々って顔して見てくる。

「お友達?」

母さんが聞いてくる。

こんな道の真ん中で話してるのなんて、友達以外にあり得ないでしょ。何言ってんの?

そうは思っていても、口に出しては言わないでおく。

「うん。同じクラスの津本菜々さん。本城の妹さんだよ。」

俺が父さんと母さんに津本を紹介すると、津本は慌ててペコリとお辞儀をする。

そんな津本を見て、母さんはふふっと笑って、「可愛いわねー。」と言った。

「ねー。」

俺も同意見。

「そっ・・・そんな・・・。」

津本はブンブンと手を左右にふる。

「本城君の妹さんが来るなら来るでそう言えばいいのに。葉ったら、イジワルして。」

母さんのその声を聞いて、べぇ、と舌を出し、そっぽを向く。

ふん。

誰が言うか、っての。

「もうこのコは!

じゃ、葉、本城君にイジワルしちゃダメよ。いい?仲良くね。」

母さんはそう俺に念を押してから、津本に笑顔を見せた後、その場を後にした。

・・・イジワルしちゃダメって、そんなこと言われたら余計にしたくなるじゃん。

ま、今日のトコロはしないつもりだけどね。

多分。

「友季くん?お兄ちゃんにイジワルって?」

「あ?あぁ・・・なんでもないよ。さ、行こうよ。」

津本は不思議そうな顔をしつつも、歩き始めた。



+++



家に着くと、玄関のドアを開け、津本を先に入れた。

「おじゃまします。」

緊張した声で、小さくそう言い、玄関でちっちゃくなりながらキョロキョロと周りを見回している。

「面白いモノでもある?」

ドアを閉め、笑いながらそう訊ねると、津本はハッとして急に下を向いた。

「ご・・・ごめん。ジロジロ見て。失礼だよね。」

「いいよ別に。さ、どーぞ。」

靴を脱ぐ時、津本が本城の靴に気付くかなって、思ったけど、全く気付いていない様子。

普通分からないモンかな?

俺だったらさくらちゃんの靴があったら分かる気がするんだけど。

ま、一緒に住んでないわけだし、分からないのも無理ないか。

リビングのドアを開ける前、ちょっと考えて、津本を俺の後ろに隠した。

このまま津本を先に歩かせて、先に部屋に入れたら、面白くない気がして。

「ちょっとここで待ってて。」

小さな声で津本の耳元でそう言って、リビングのドアを小さく開けて身体を滑り込ませる。

後ろ手でドアを閉めてリビングに居た二人に「ただいま。」と言った。

さくらちゃんはリビングの床にペタンって座ってて、俺に対し、不機嫌な様子を露わにしていた。

本城はソファーに座っていたから、俺の位置からは後姿しか見えなかったけれど、振り向いてくれて、笑顔なのは分かった。・・・けど、

俺は、本城の顔を一目見て、爆笑しそうになった。

慌てて後ろを振り返り、笑いをかみ殺す。

だって、本城の額、大きな絆創膏が貼られいて、カッコ悪すぎ。

一応、絆創膏を貼ることになった原因が俺にもあるってことで、本城の前で笑うのは我慢し、

心配している、という顔を装って、クルリと振り返り「おデコ、大丈夫?」と言ってみる。

「うん、あー、大丈夫だよ。」

そう言って本城は、額に手を当てつつ、俺に笑顔をみせた。

俺はそれを見て、こいつってすげぇヤツかもって思えた。

俺だったら自分に怪我させたヤツに笑いかけるなんて出来ない。

自分に出来ないことを、さらりとやってのける人はちょっと尊敬する。

悔しいから口に出しては絶対言わないけど。

「ホントごめんね。俺がもっと注意してドアを開ければよかったよ。

お詫びにさ、本城サンが喜ぶような子連れてきたから、それで許して。ネ?」

「ちょ、ちょっと葉君・・・。」

マズイよ、って顔してさくらちゃんと俺を交互に見る。

さくらちゃんは、頬をぷくっと膨らませて思いっきり俺を睨む。

ハイ。無視、無視。

「すっごい可愛い子だよ。」

俺はそう言ってドアを開け、津本の腕を掴んで中に引き入れた。

「え??」

本城が津本を見て、目を大きく開いた。

「な・・・菜々!!」



+++



4人揃ってダイニングのテーブルに着き、この暑い中、熱いグラタンを口に運んでた。

イライラして、カリカリのチーズをスプーンでガシガシと砕く。

なんでこの暑い中、熱いグラタンなんて食べなきゃいけないわけ?

しかも、本城が斜め向かいの席でチラチラとこっちをずーっと見てくるし。

ムカつく。

別に会話が面白いわけでもないし、この場にいることが退屈でしょうがない。

もう昼食を終わりにして、部屋に行きたい。

でも、津本はまだご飯食べてるしなぁ・・。

横に座っていた津本の手元を見てみるけど、まだいっぱい残ってるし、終わりにする気配は無い。

はぁ。ま、いいけどね。

俺の視線に気付いて、津本がえっ?というようにこっちを見てくる。

俺は、なんでもない、と言い、微笑んでおいた。

津本の方をじーっと見ていると、斜めからの視線がイタイ。斜め・・・つまり本城の視線。

なんか言いたいことがありそうだ。

そう思っていたら、案の上、本城が躊躇いがちに声を掛けてきた。

「よ・・葉君は・・・」

「はい?」

本城の方に目を向けると、恐る恐る何かを聞こうとしいるのが伝わってくる。

「ナンデスカ?」

丁寧にそう言ってあげたら、意を決したみたいで俺に聞いてきた。

「その・・・菜々と・・・付き合ってる・・・の?」

それを聞いて思わず笑いそうになる。

面白い。

ふと津本を横目で見ると、彼女は驚き、スプーンを持っていた手を止めていた。

・・・で、1テンポ遅れて、焦って言い返す。

「お兄ちゃん!!何言って!!そんな・・・」

まだ何か津本の言葉が続きそうだったけれど、それを遮った。

からかってやろう、って思って。

「・・・想像にお任せしますよ。ね、菜々。」

そう言って津本を見たら、津本はえぇ!?と言いたいような顔をして言う。

「なっ、菜々って!友季くん!?」

「葉って呼べっていつも言ってるだろ?」

津本は、目を大きく見開いた。

くくっ!

そーっと本城を見ると、ヤツは固まってた。

ショック受けてンの?まさかね。

「葉!」

急に、さくらちゃんが立ち上がって、怒ってきた。

「変なこと言って二人を動揺させないの!」

「動揺?何が?俺、変なこと言ってないけど?」

ふっと笑いながら言ったから、それを見たさくらちゃんは更に怒ってきた。

あれ、マズかった?

ちょっとヤバメの雰囲気になってきたから、ここらで謝ることにした。

「ごめんなさい。嘘です。」

心の中でペロって、舌出しつつ、謝った。

それから・・・

「・・・津本、もうそろそろ部屋行かない?」

にこって笑ってそう津本を誘うと、津本はえ?って首を傾げる。

「勉強しよ。二人っきりで・・・さ。」

俺としては、普通に誘ったつもりなんだけど、さくらちゃんと本城は慌ててそれを制した。

「だ、だめ!勉強するなら、リビングですればいいじゃない。」「そうだよ、一緒にしよう」って。

この二人は・・・。

「俺、一応気を使ってンだけど?二人になりたいでしょ?」

それを言うと、二人は一緒になって顔を赤くし、首を振る。

別にいい、だから此処にいろ、と言いたげな顔をする。

なんだそれ。

俺だって、津本ともっと話をしてみたいし、二人になりたいんだけど・・・と思いつつも、

結局、二人に説得され、リビングで勉強することになった。

場所をリビングに移し、テーブルに4人が向かい合わせになって座る。

俺としては普通に勉強してるつもりなのに、さくらちゃんと本城は自分達も勉強しつつ、チラチラと頻繁にこっちを見て、

俺が何かやらかさないか監視している様子だった。

だから、俺がちょっとでも津本に近づきすぎると、ピーピーと警笛を鳴らすような勢いで邪魔してくる。

そんなことされて、本当にたまんない。

はっきり言って、やりにくくてしょうがなかった。

何だかんだあったけど、宿題のプリントは分からないところはお互いに相談したり、

ちょうど目の前にいた監視員の二人に聞いたりして、短時間で終わらせることができた。

宿題が終わったからといって、帰るには早い時間だと思ったから、津本をゲームに誘う。

俺の部屋でゲームしよう、って。

そしたら、まーた監視員が大騒ぎ。

「4人でやろう!」だって。

・・・自分達の勉強はいいのか!と突っ込みたくもなったけど、

何言っても無駄っぽかったから、わかった、わかった、とリビングにゲームを持ってきて、4人でゲーム大会を始めることとなった。







  



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