案の定、家に戻った俺は、さくらちゃんに遅いって怒られた。

「葉、イジワルしてる。あたしが困ってるの見て、楽しんでるでしょ。」

「はぁ?何言ってんの?」

俺は、買ってきた牛乳を袋ごとさくらちゃんに押し付けたあと、冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出して、グラスに注ぐ。

ゴク、ゴクと音を鳴らし、あっと言う間にグラスを空にした。

あー、美味しかった。

・・・あ、なんかまたアイス食べたくなってきた。

でもこれじゃ、悪循環だな。我慢しよう。

麦茶のボトルを冷蔵庫に戻し、グラスをステンレスの流し台に置いて、リビングへ移動する。

いつの間にか、リビングから父さんの姿が消えていた。二階かな?

テレビ見ようかな、そう思って、ソファに思いっきり横になると、さくらちゃんが、わざとか分からないけど俺の目の前に立ちはだかってきた。

「なんなの?早くグラタン作れば?」

「ホワイトソース作りはママに任せたの。」

「あー、もうこれ以上材料を無駄に出来ないもんね。」

厭味を言って、ぐいっとさくらちゃんを横に押しやる。

テレビ見ようかなって思ってたのに、邪魔なんだもん。プチっとリモコンでテレビのスイッチを入れ、次々とチャンネルを回していく。

でも、面白い番組は、やってなかった。つまんないな。

テレビを消して、目を閉じた。

暇・・・。

「葉、本城君のこと嫌い?今日、家に呼んだの怒ってるの?」

またさくらちゃんが何か言って来た。

正直うんざり。

もうどっか行って欲しい。

「ねぇ、どうなの?家に呼んだの怒ってる?」

「別に・・・。」

怒るも何も、俺には関係ないでしょ。

「・・・葉は、私と本城君が別れればいいと思ってる?」

「は?」

そんな言葉を急に言われて、驚いて慌てて目を開けた。

俺、誰かと誰かが別れて欲しいなんて望んだ事、一度もないよ。

・・・ていうか、ちょっと待って、なんでこんな展開になってるの?

「なんでそうなるわけ?わけわかんないんだけど。」

それにさ、俺が別れればいいなって思ったところで、さくらちゃん、本城と別れるわけ?

別れないでしょ?

俺、さくらちゃんに対して色々やってるっていうのに、その言い草はなんなんだよ。

牛乳だって、文句の一つ言わず・・・あ、言ったか。

言ったけど、ちゃんと買ってきてやったじゃんか。

・・・よし、こーなったらイジワル言ってやろ。

丁度、暇を持て余してたところだし、いい時間つぶしになりそう。

「そっか。さくらちゃんは俺が『さくらちゃんと本城が別れればいいなー』って思ってると思ってたんだ?

ショックだな。俺は誰よりも二人がウマクいくように願ってたっていうのに。

あ、もういいよ。これからずーーーっと、二人が別れればいいなーって思うことにする。

あ、そうだ。別れればいいな、じゃなくて、別れさせよう。

さくらちゃんと本城を別れさせるのなんて簡単そーだし。」

一気に俺がそう言ったとたん、さくらちゃんは目を見開いて、必死になって答える。

「そ・・そんなこと出来もしないくせに。」

「そう思う?それが出来ちゃうんだよねー。不思議な事に。」

「・・・なに・・・それ。」

さくらちゃんてば、思いっきり動揺してるよ。

面白いんだけど。

「例えば知り合いのナイスバディーーvな、おねーさんに協力してもらって本城を誘惑してもらってー、浮気の証拠を掴んでー、それをネタに・・・。」

「ほ・・本城君は浮気なんて・・・そんなことしない!絶対しないもん。」

「どうだか。」

「そ・・・そういうこと・・・しない人だもん。」

さくらちゃんは自分が言った言葉に自信がなくなってきているのか、複雑そうな表情をし始める。

俺ってすごいかも?

とっさに考えたシナリオでこんなにさくらちゃんを騙せるとは・・・。

さてと、さくらちゃんをからかうのにも飽きてきたし、もうやーめた。

部屋の掃除でもしようかな・・・。

すっと立ち上がり、リビングを出ようとする。

すると、キッチンの方からなんか、いい匂いが漂ってきた。

今朝とは大違い。

キッチンに顔を出し、母さんの手元を覗く。

「ホワイトソース?」

「そうよ。味見する?」

「ううん、別にいい。あ、そうだ、忘れてた。俺のお客も来ることになったんだけど、メシ、一人分追加してくれない?」

「もう!そういうことは早く言って。」

「ごめん、もうダメ?間に合わない?」

「いいけど、お客さんてだあれ?伊地くん?」

「違う。オ ン ナ ノ コ。」

意味深な言い方をして、キッチン、ダイニングを後にし、階段を上り、部屋に向かう。

するとさくらちゃんが慌てて俺の後を追ってきた。

「葉、誰なの?誰が来るの?女の子って誰?」

必死でそんなこと訊ねてくる。

そうか、さっきの話のこと本気にして、俺が本城の浮気相手になるような人を連れてくるのかと心配してるんだ?

心配しなくても大丈夫なのに。

・・・でも、面白いから、津本のことはナイショにしておこ。

「なんで教えなきゃいけないの?教えなーい。」

「え!そんなのヤダ!!ね、一つだけ、一つだけ教えて?」

さくらちゃんが俺の前に立ちはだかり、俺の両腕を掴んで真剣に聞いてくる。

「そ・・・そのコって・・・ナイスバディ?」

さくらちゃんのその言葉に俺は思わず噴出して笑った。

一つだけ教えてって言って、なんでそんなのを選ぶわけ?

しかも、な・・・ナイスバディって・・・!!

俺、さっきその言葉使ったけどさ、わざと『ナイスバディーーv』なんて言ったんだよ?

『スタイルいいの?』とか聞けばいいじゃんか、やっぱり俺が言ったさっきの言葉気にしてるんだ?

くくっ!!

あー可笑しい。

「葉、笑ってないで、真剣に答えて!!」

さくらちゃんが真剣な顔でまた言うから、更に笑いを誘う。

「葉!!」

「はいはい、うん、ナイスバディーーvだと思うよ。」

「!!

・・・そうなんだ。わかった。」

さくらちゃんは沈んだ様子で階段を降りていった。

ちょっとイジワルしすぎたかな?

ごめんね。

でも・・・面白かった!


+++


もう直ぐ津本との約束の時間の11時になる。

そろそろ迎えに行こうかな。

「ちょっと行ってきまーす。」

リビングに向かってそう言って、勢い良く玄関の扉を開けたら、ゴン!っていう鈍い音と、その後から悶えている声が聞こえてきた。

「ん?」

そーっとドアの向こう側を覗くと、其処には、額を押さえてうずくまってるヤツが一人居た。

「・・・なにしてんの?」

俺がそう言うと、そいつは涙目で俺を見上げてきた。

「よ・・・葉君・・・。」

そこに居たのは、俺があんまり好きじゃない相手。

本城だった。

「当たった?」

そう聞くと、コクコク、と本城は額を押さえつつ首を縦に振る。

「ごめんねっ。」

心の中でペロって、舌出しつつ、謝っておく。

俺も悪いかもしれないけど、そこに居た本城も悪い。

「さくらちゃーん、ここにデコを思いっきり打ち付けたヤツがいるよー。」

家の中に向かってそう言ってあげると、さくらちゃんは、不思議そうな顔して、リビングの扉から顔を出した。

「何?デコ?」

「ほら、ここに。」

そういうと、本城は這った状態で、ドアの横から顔を出した。

「おはよう。・・・友季。」

にこやかにそう言ってるけど、笑ってる場合じゃないんじゃない?

正直、かっこ悪いって。

「き・・・きゃー!ど・・・どうしたの?ほ・・・本城くん!血っ!血出てるよ!!」

さくらちゃんが慌てて駆け寄ってくる。

「血ィ?」

あれ?血なんて出てたっけ?

本城の顔を見ると、さくらちゃんが言うとおり、ホントに血が出てた。

あー・・・血だ。

痛そう。

「ど・・・どうしたの?葉にやられたの?」

「やられたの・・・って、ヤな言い方するね、おねーチャン。」

「いや、違うんだ。俺がボーっとドアの前に立ってたから・・・。」

そうそう、それが一番悪い。本城、エライじゃん。良く分かってる。

「・・・ううん、そんなことないよ。葉がいけないんだよ。ごめんね。」

・・・ムカつく。

もういいや、これ以上この二人を見ていたくない。

「俺、出かけてきまーす。とーってもいい子連れてくるから、お楽しみに。

本城サンもお楽しみにね。」

俺が本城に向かって、ニッコリ笑って見せると、本城は目をくりくりさせてた。

「え?いい子?」

なんのこと?っていうカンジで不思議そうな顔してる。

それを見てさくらちゃんが慌ててる。

「本城君。ダメだよ、葉が連れてくる子に騙されちゃダメだよ。」

「だ・・・騙される?誰・・・?」

「きっと魔性の女なんだよ、ナイスバディで、本城君を誘惑するんだと思う。」

さくらちゃんが真剣にそういうから、おかしくておかしくて・・・。

俺は大爆笑。

本城は、さくらちゃんが言ってることが良く分からないから、混乱気味。

「え?誘惑?」

くくっ!!何それ。津本が本城を誘惑?

ありえないから!!

あー苦しー。

「迎えにいってくるね。」

俺はそう言い残し、笑いすぎて涙目になりながら、玄関を出た。







  



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