翌日、俺は、学校に行くとすぐに津本に話しかけた。
「津本、オマエって可愛く笑えるんじゃん。」
「な、なに?急に・・・。」
津本は、少しおどおどして身体を後ろに引いた。
なんだこの反応・・・。俺のこと嫌いなのか?ま、いいけど。
「昨日、オマエが男とメシ食ってたの見たんだ。なぁ、アイツって・・・本城ってオマエの彼氏?」
俺がそういうと、津本は笑って否定した。
「違う、違う。彼氏じゃないよ。お兄ちゃんだよ、お兄ちゃん。」
「お兄ちゃん?だって、アイツ、本城って・・・。苗字違うよな?」
「ウチの両親、離婚してお兄ちゃんはお父さんに、私はお母さんに引き取られたから。」
「そ・・・そうだったんだ、兄妹か・・・。」
よかった・・・。昨日、間違えて殴らなくて・・・。
ほっとして津本の前の席のヤツの椅子に座ると、津本がじーっと見つめてきた。
「ん?・・・なに?」
「なんで本城・・・って知ってたの?あたし、誰にも話したことなかったんだけど。」
「あぁ、さくらちゃんと本城、仲いいんだ。あ、さくらちゃんて俺の姉ちゃんね。」
「さくら・・・。」
津本はそう小さく呟いて、何か考えている様子だった。
「・・・どうかした?」
「あ、ごめん。・・・なんでもない。」
明らかになんでもないって顔してない・・・。
「気になるだろ!言えって。」
津本は困ったような表情を見せて、小さな声で、
「ウチのお兄ちゃんの好きな人・・・友季君のお姉さんかなぁって思って・・・。」
「え?」
「もしかしたら違うかもしれないけど!!中学の時から好きって・・」
「・・・中学から?ち、ちょっとまて、本城とさくらちゃんて高校で知り合ったんだけど。どうして中学の時からって・・・。」
「じ・・じゃあ、やっぱり違う人かも。お兄ちゃん、中学の時、一回告白してふられたし。」
「・・・ふられた?」
「そう、雨の日にね、傘を貸してあげたんだって。それで、その時、告白したんだけどふられたって言ってた気がする。」
「傘!?え?アイツ、本城だったのか?」
「え?」
さくらちゃんには、ずっと想い続けていた片思いの男が居た。
いつも同じ電車の同じ車両に乗る人らしく、そいつはさくらちゃんが初めて好きになった男。
雨の日に傘を貸してくれたからってことで、“傘の人”って呼んでた人だ。
そいつのことで何度も相談というか、話を聞いてあげてたから知ってる。
さくら、傘、告白、・・・そんなキーワードが揃う偶然て普通あるか?
傘のヤツって本城じゃないのか?
確か、傘のヤツは眼鏡かけていたはず・・・。
「なぁ、津本。本城って中学時代、眼鏡かけてた?」
「うん。さくらさんって人に告白して以来、かけてないみたいだけど。
なんかね、眼鏡の所為で振られたとか、友達にからかわれたみたいで、心機一転のつもりで眼鏡を止めたって・・。」
あー。もう絶対、傘のヤツって本城だ。
さくらちゃんてば、なんで気づかないかな?普通、会った時に声とかで分かるだろ?もう。。。
「友季くん?どうしたの?」
「あー、ありがと。お陰でよく分かったよ。さくらちゃんと本城、両思い。」
「え?だって、お兄ちゃん、昨日、友季さくらさんて人が彼氏と居るの見て、ショック受けてたみたいなんだけど。」
「昨日?昨日さくらちゃんはずっと俺と一緒に買い物してたけど。」
「え?・・・もしかしたら、お兄ちゃん、また得意の勘違いしてるのかも。」
「・・・あーあ、心配して損した。多分、今日、二人付き合うことになるんじゃないかな。さくらちゃんに告白しろって言ったし。」
「今日?」
「そう、今日。」
あーあ、とうとう、さくらちゃんにも彼氏が出来ちゃったか。
正直、面白くない気がしなくも・・・ナイ。
「本城ってどんなヤツ?」
「お・・・お兄ちゃん?」
「一応、弟としては・・・心配なわけ。姉ちゃんの彼氏になる人がどんな人なのかって。」
「普通の人だと思う。なんのとりえも無く・・・。真面目・・・かな。」
ふーん・・・真面目ねぇ・・・。
「浮気は・・・?」
「・・・しないよ。出来ないと思う。もう・・・妹にそんなこと聞かないでください。」
「・・・でも、手は早いよな。」
「へっ?」
「・・・すでにさくらちゃんのファーストキス奪ったし。」
「う・・・うそ。お兄ちゃんてば・・・。でもなんか、身内のそういう話、恥ずかしくて聞きたくない。」
あーあ、顔真っ赤にしちゃって・・・。可愛い。
「ま、また情報頼むよ。」
俺がそう言うと津本は、ふふっ、と笑った。
可愛い・・・。
こんな風に笑えるんだ。
いつも俯き加減で居るから気づかなかったけど、結構可愛い顔してるんだな。
じーっと見つめていたら、津本が、何?って聞いてきた。
「昨日、本城と居たときみたいに、いつも笑ってればいいのに。」
すると、津本はいつものように俯いて小さい声で話し出した。
「人付き合いって苦手で・・・。なんか緊張しちゃって笑えない・・・。」
「今、俺と普通に話せたじゃん。」
しかもいつになく饒舌。
「う・・・ん・・・。でも・・・最初、緊張・・・した。」
「いつも、俯いてばかりだな・・・。ホラ、背筋伸ばして。顔上げて。」
俺は、津本のあごをもって、ぐいっと顔を上に上げた。
「うわっ。」
「ホラ、可愛い顔してんだからさ、もっと自信持てば?」
「・・・可愛くなんかない・・・よ。」
「可愛いよ。」
俺がそう言うと、津本は顔を真っ赤にした。
「そ、そんなこと真顔で言わないで・・・。照れる・・・。」
か・・可愛い!!
なんだ、この照れた顔。マジで可愛いし。
「急に仲良しだな。」
急に手が伸びてきてガシっと掴まれた。
友達の伊地だ。
「びびった・・・。イキナリ出てくるなよ。」
「おはよ、津本さん。」
伊地がニコリと笑って、そう言うと、津本は軽く会釈しながら小さい声でおはようと言う。
さっき二人で話していたときと様子が違う。
緊張しているのだろう。またいつものように俯き加減になっている。
「まーた俯いてる。」
「・・・あ、うん。ごめんなさ・・・。」
俺の声に反応して、慌てて顔を上げる。
うんうん、それでよし。
「なんか、津本さんの顔、しっかり見たの、初めてかも。」
伊地がじーっと津本の顔を見つめる。
その視線に気付き、また俯く。
はぁ・・・またか。このままじゃこの俯き癖は治りそうもないな・・・。
ま、なんか面白くていいけど。
これからが楽しみだな。
「これからもよろしくな、津本。」
俺はそう言い残し、伊地と共に、自分の席へと戻っていった。
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