「ねぇ葉、由良ちゃんとまた付き合い始めた?」
俺が部屋で腕立てをしながら回数を数えている最中、
さくらちゃんは俺のやってることなんてお構いなしで、イキナリ部屋に入ってきたと思ったらそう訊ねてきた。
もちろん俺はそれを無視し、数を数え続ける。
「ねぇー、葉ってばー。」
何を言われても無視をし続け、さくらちゃんが腕立てしてる俺の背中に乗ってこようとも無視をし、
キッチリ100回終わらせた後、初めて数以外の言葉を口にした。
「邪魔しないでくれない?数えてんだから。」
「いいじゃん別に。ねぇ、付き合ってるの?」
「付き合ってない。」
さっきまで由良は俺の家に居て、一緒に夕飯を食べてから帰った。
本城はウチの親が戻るより少し前に家に帰り、由良も続けて帰ろうとしていたらしい時、
ちょうどウチの親が帰ってきて、久々に由良の姿を見て喜び、夕飯を食べていってと夕飯に誘ったんだ。
由良は遠慮して、しきりに断っていたけど、毎日のように由良が一人で夕飯を食べていることを知っている俺としては、
由良と夕飯の時間帯に一緒に居る時は必ずと言っていいほど一緒に夕飯を食べることにしていたから、
最初から帰らせるつもりもなく、強引に俺の隣の席に座らせて、一緒に食事をした。
「なぁーんだ。残念。」
さくらちゃんはそう言って、目線を落とした。
「なんで残念なの?」
「だって由良ちゃんいい子だし・・・。もっと一緒に話とか・・・したいもん。」
「・・・それって俺が由良と付き合う、付き合わないとか関係なくない?
メアド教えるし、二人で勝手に仲良くやれば?」
でも、俺がそう言っても、さくらちゃんはやっぱり沈みがちで。
「・・・私が良くても、由良ちゃんは嫌がるよ。だって元彼の姉だよ?あんまり関わりたくないんじゃないかな・・・。」
「別に気にしなくていいと思うけど。別れたけど、俺ら未だに仲良いいし。」
俺がそう言った途端、さくらちゃんは顔を上げ、怪訝そうな顔をした。
「それ。すごく不思議なんだけど。」
「何が?」
「別れたっていうのに、なんで二人ともそんなに仲がいいの?
葉も由良ちゃんもお互いの事好きだよね?なのに、なんで別れたの?
なんでもう一度付き合わないの?」
なんで、なんでって・・・質問攻め過ぎる・・・。
俺は答えるのが面倒くさくて、大げさにため息を吐いた後、「色々あんの・・・。」とだけ答えた。
「またそうやってはぐらかす!教えてよ。」
「また今度ね。」
「じゃあ一つだけ、一つだけ教えて?」
「何?」
「由良ちゃんと菜々ちゃん、どっちが好き?」
俺はそう言われて、ビックリして固まった。
何でここで津本の名前が出るのか、俺には全くの予想外だったし、由良と津本を比較するなんて考えもしなかったから。
「はぁ?」
「はぁ、じゃないよ!これはちゃんと答えて。」
「なんで由良と津本を比べるの?意味がわからない。」
「だって・・・菜々ちゃん・・・葉のこと好きだもん。」
「津本がそう言ってたの?」
「ううん。」
・・・呆れた。
「どこから来る自信?激ニブのくせに、人の恋心読めるわけ?」
「失礼ね!女のカンってやつよ!そういうことはわかるの。」
「ふーん。でも俺、津本のコト何とも思ってないし。っーか、由良と津本を比べるのはオカシイでしょ。」
俺が真面目にそう答えると、さくらちゃんは「そう?」と言った後、一人で勝手に何か納得したようで、ニッコリと微笑んだ。
何その笑み。何を思っての笑みか分からないけど、なんか軽くムカつくんですけど。
「何考えてるわけ?」
「べーつにぃー。」
「ムカつく。どうでもいいけど、俺のことはほっといてクダサイ。」
俺はそう言い捨て、後ろから何か言って来るさくらちゃんの声を聞こえないフリをし、風呂に入るために部屋を出た。
+++
「あ、あのっ!友季君!昨日はありがとう。」
翌日、学校へ行くと津本に開口一番にお礼を言われた。
「また遊ぼうな。」俺がそう言って、席に着こうとしたら、
「ねぇ、あの子・・・大丈夫だった?なんか、泣いてた・・・よね。」
津本はそう言って、心配そうな顔をした。
あの子・・・あの子?泣いてた子・・・あぁ!由良ね。そういえば、昨日由良泣いてたっけ。
「あーゴメンネ。気にしなくていいよ。」
俺が苦笑いしてそう答えると、津本は言おうか、言わないか少し迷った様子の後、
「・・・彼女?」と恐る恐る聞いてきた。
全く、皆して同じことを聞くんだから。
「違う。違う。由良には彼氏居るし。仲のいい友達。」
俺が笑いながらそう答えていると、後ろから誰かが俺の背中に飛び乗ってきた。
「葉おはよ。」
飛び乗ってきた人物は伊地だった。
「重ッ!」
俺がそう言うと、伊地はするりと俺の背中から降りて今度は津本の前の席に座った。
「また仲良しじゃん。今度は何が起こった?」
「別に何も起こってない。昨日一緒に勉強しただけ。さくらちゃんと津本の兄貴も一緒に。」
俺がダルそうにそう言うと、伊地はそうなの?と驚いた表情。
「珍しい組み合わせだ。どうしたの?」
そっか。伊地に言ってなかったっけ。さくらちゃんと本城のこと。
「付き合ってるんだよ・・・。」さくらちゃんと津本の兄貴が・・・と言おうとしたけれど、
周りのざわつきの所為で言えなくなった。
皆・・・俺たちの会話盗み聞きしてたな。
一気に俺と津本に注目が集まる。
伊地は周りを気にしつつ、「葉と津本さんが?」と、言って俺等を交互に見た。
津本はブンブンと手を振り、俺も呆れて、「違う。」とはっきり言った後、
「俺の姉ちゃんと津本の兄貴が付き合い始めたの。」と、わざと皆に聞こえるように言った。
全く、こうでもしないと直ぐに噂が広がるんだから。
俺はため息をひとつ吐いて、ポケットに手を入れ、一番後ろにある自分の席に座った。
伊地が俺の前の席に座り、後ろを向きながら聞いてくる。
「さくらちゃんに彼氏出来たのがそんなに嫌?」
「違う。そんなのはもうどうでもいい。」
「じゃあ何で機嫌悪いんだよ。」
「・・・津本と俺が付き合うなんて有り得ない話、噂されたら困るんだよ。」
「何で?今まで噂とかされても全然平気だったじゃん。」
「・・・確かに。でも・・・なんか嫌なんだよ。今はそういう気分。」
「・・・好きな子でも出来た?間違った噂知られたら困るような・・・。」
「違う。」
俺は即答する。
好きな子なんて居ないし。
ただ・・・噂とか勘違いで・・・誰かに嫌な思いをさせたくないだけ。
急に目の前の伊地が真面目な顔をした後、俺の耳元に近づいて聞いてきた。
「・・・ホントに津本サンと付き合うとか無い?」
俺は真剣な伊地とは正反対で、頬杖をついて、ちょっと笑いながら、
でもキッパリと「ないね。」と言い切った。
何、伊地ってば津本に惚れたの?
確かに可愛いモンね。
いいんじゃない?二人きっとお似合いだよ。
俺はニッコリ微笑んで、「協力する。」と伊地に向かって言った。
伊地は咄嗟に俺から離れ、「俺未だ好きとか言ってないし!」と津本を好きなことを否定した。
「・・・でも気になるんだろ?」
「・・・気になってる程度。」
俺から視線を外してそう言う伊地はすっげぇ可愛くて。
伊地に可愛いなんて言ったら怒られそうだから言わないけど。
誰かのことが気になってしょうがないとか、あんまりない俺にとって、今の伊地はなんだか羨ましくも思う。
俺は心から、二人がうまく行きますようにと願った。
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