家に帰ると玄関には本城の靴が未だ置いてあった。

リビングからテレビの音が漏れているから

其処に居るのかもしれない。

由良が「お邪魔します。」と言った声も聞こえないようだ。

俺は由良に、「傷口洗うからコッチ来て。」と

風呂場に案内する。

湯船のふちに由良を座らせ、

シャワーから水を出して、傷口にかけると、

由良は小さく悲鳴をあげた。

由良は俺の腕に掴まっていたから、

水をかけると同時にその手に力が入って、俺も痛かった。

別にいいけど。

流れて固まった乾いた血も洗い流しながら、俺は由良に言う。

「携帯、学校で渡してくれても良かったんだけど。」

すると由良は、ぶっきらぼうに言った。

「やだよ。二日も持っているなんて。葉だって困るでしょ?」

「別にー。連絡取れなくなって困るヤツ居ないし。」

「・・・ふ、ふーん。」

あ、そういえば。

「電源切れてたけど、由良が切った?」

俺がそう訊ねると、由良は頷いた。

「ごめん。怖くなったから切っちゃった。」

「怖い?どうして?」

何で携帯が怖いの?怖い携帯の映画でも観た?

あれ、俺と同じ機種が出てきてたっけ?

不思議に思っていたら、由良がぽつりと言った。

「・・・いっぱい、電話くるんだモン。」と。

「誰から?」

「知らないよ。」

「別に見ても良かったのに。」

俺がそう言うと、由良はブンブンと顔を振る。

「見たくないからいい。」

俯いて、床を見続ける由良に、俺は思わず笑いそうになった。

そういう女なんだよね、由良って。

わかってて俺も言うんだけど。

女はよく、メールとか電話帳とかチェックしたがるけど、

由良は絶対に人の携帯の中身を見たりしない。

由良曰く、見たくないものを見ちゃいそうだから、だって。

だから俺は安心して・・・

ってか、単に忘れただけだけど、

携帯を由良の側に置いておけるってわけ。

ま、常にマナーモードで、鳴ったりはしないようにしてるけど、

液晶とか、光ったりはし続けるから、気になるのかもしれないな。

「ごめんね。」

「別にいいけど・・・。」

「ヨシ。終わりっ。」

足を洗い終わって、タオルそこら辺の使っていいから、と言って、

先に脱衣所に由良を出したところで、

由良が濡れた自分の足の所為で滑ってコケそうになった。

俺が慌てて抱き留めようにも、俺も足が濡れていて、結局二人してコケた。

痛ぇ。

・・・ダサすぎ。

情け無いと思いつつも何故か笑いがこみ上げてきて、

二人同時に笑い出してしまった。

「なにやってんだよー。」

「葉だって。」

大声で笑ってたら、脱衣所の扉をそーっとさくらちゃんが開けて

俺たちの姿を見ると、ビックリしたような顔を見せた。

「な・・・にしてんの?」

確かに、不思議な光景だったと思うけど、

そんなに驚かなくても。

そんな中、由良は慌てて立ち上がり、

またしてもコケそうになりながらも、

「お邪魔してます。」と礼をした。

「あれっ。由良ちゃんだ。久しぶりだね。」

さくらちゃんはニコっと笑みを浮かべて、由良を歓迎する態度を見せた。

勝手にさくらちゃんが由良と会話を進めている間、

俺は立ち上がり、バスマットを敷き忘れてた自分のミスに気付いて、

遅すぎだなぁと思いつつもマットを敷くと、

乾いたタオルを由良に渡して、自分も足を拭いた。

さくらちゃんと由良との会話が盛り上がってはいたけど、

俺は「また後で。」と強引に二人の話を中断させ、

由良に「俺の部屋行ってて」と指示した。

由良はもう何度も家に来ているから、俺の部屋がどこかなんて、

説明しなくてもわかっているはず。

薬箱を手にし、俺の部屋に行くと、ちゃんと由良はそこに居て、

ボーっと何かを見ながら突っ立っていた。

「何見てんの?」

「何ってわけじゃないけど・・・。

あんまり変わらない部屋だなぁって思って。」

「そうか?ホラ、其処座って。」

「あ。うん。」

ベッドに由良を座らせて、傷の手当てをする。

傷口に消毒薬をつけると、由良は悲鳴をあげた。

「痛っ!痛いって。葉!」

由良は、風呂場の時と同じようにまた俺の腕に掴まっていて、

さっきみたいに痛みと同時に俺の腕を強く掴むから、

俺もまた痛い。

一応、手当てが終わったところで、

俺は廊下に気配を感じて、音を立てずに立ち上がってドアに近づき、

勢い良く扉を開けた。

すると、なだれ込むように、さくらちゃんと本城が俺の部屋に入ってきた。

「・・・何してんの?」

「・・・あ。な・・・にしてんのかな、って思って。ね、本城君。」

「え?」

急に振られた本城も慌てて、うん、と。

「楽しそうだね。オネエサマたち。」

冷めたようにそう言うと、二人して、後ずさり。

俺は部屋から二人を追い出すと、勢い良くバタンとドアを閉めた。

「・・・見た?アイツがさくらちゃんの彼氏。」

「オデコに大きい絆創膏貼ってた人が?」

俺は由良が目を丸くしてそう言うから、おかしくて笑ってしまう。

「そ。俺が今朝やっちゃったの。」

「殴ったの?」

「違う。ドアでぶつけた。

ま、今後のアイツの行動次第で、殴ることがあるかもしれないけど?」

俺はわざとドアの外に聞こえるように、そう言うと、

バタバタと階段を駆け下りる音が聞こえた。

居なくなった・・・かな。

俺が一息つくと、由良はくすくすと笑い始めた。

「葉、相変わらずだー。」

「え?」

「“さくらちゃん大好き”は変わってないね。

羨ましいなぁ。由良も葉とキョウダイだったら良かったなぁ。

由良、キョウダイ居ないし。」

由良はそう言いながら、ニコニコと笑っていた。

「葉がお兄ちゃんだったら、由良はブラコンになっちゃうだろうなぁ。」

「俺はヤダね。由良はお守りが大変そうだし。面倒見きれなーい。」

「ひっどーい。お兄ちゃーんって、甘えさせてよ。」

「やだ。」

俺がそっけなくそう言うと、由良はぷくって、頬を膨らませた。

可愛さに思わず笑って、指で頬をちょっと突付いたあと、

薬箱を片付け始めると、

由良はバタっとベッドに倒れこんで、天井を見つめていた。

そして唐突に「この部屋に何人くらいの女の子が入ったことあるの?」と聞いてきた。

「そんなこと、知りたいわけ?」

俺が少し笑ってそう言うと、

由良は、「べ・・・別に。ちょっと聞いただけだよ。」と言う。

俺はそれを聞いておかしくてたまらなかった。

だって由良、バレバレなんだもん。

全然、気にしてませんっていうフリをしてるけど、

気になってしょうがないって。

俺は由良の横に座って、わざと「えーと・・・。」なんて言って、思い出してるフリをして、

指を一つ一つ折っていった。

段々由良の顔が曇っていってるのを横目で見ながら、

「さくらちゃん入れて?」と訊ねると、

由良は「入れないで。」と弱弱しく答える。

そろそろ苛めるのもやめようか。

「・・・じゃあ一人だな。」

それを聞いて由良は起き上がって、真剣に俺を見た。

「・・・一人?誰?」

冷静になって考えれば直ぐ分かることなのに、

バカな由良は大きな目を更に大きくして、

俺の次の言葉を待っていた。

俺は指を指す。由良に向けて。

そして一言。

「由良。」

俺の予想だと由良はそれを聞いて喜ぶと思っていたけれど、

実際は違かった。

その場で少し固まって、そして、騙されないぞ、って思ってるみたいで、

「う・・・そだ。彼女連れて来てたでしょ?」なんて言う。

俺はため息を一つ吐く。

なんで信じないかな。

嘘言ってないんだけど。

「ホントだよ。」

「さっきの子とか、連れて来たんじゃないの?」

「あー。津本ね。家には来たけど、部屋には入れてないし。」

由良に言われるまであんまり気にしてなかったけど、

俺、自分の部屋には由良以外の女を入れたことなかったんだ。

さっき津本を入れていれば、違う結果になってたけど、

さくらちゃんたちに邪魔されたからな。

・・・でも、それはそれで良かったのかも。

「俺ね、基本的に彼女は家には連れてこないの。

一番最初の彼女だけは特別に連れて来てたけど。」

そう言って、俺は由良の頭をポンと叩いて立ち上がった。

「何かCD聞く?」

オーディオデッキの前に立ち、CDを選び始める。

「由良何が好きだっけ?」

俺がそう尋ねて振り返ろうとしたら、

後ろから由良に抱きしめられた。

俺の背中に顔を埋めてるから、表情はわからないけど、

何となく思ってることは分かる。

「嬉しいの?」

そう訊ねてみたけど、由良は何も言わなかった。

由良に抱きしめられたまま、しばらく俺がいいキモチに浸っていたら、

急に、勢い良く俺の部屋のドアが開いた。

音にビックリして由良は俺から離れ、

俺は一気に機嫌が悪くなり、ドアを開けた人物を睨んだ。

ドアを開けた人物・・・さくらちゃんは、お盆を手に固まってる。

「飲み物・・・持って・・・来たんだけど。」

俺はさくらちゃんの手からお盆を受け取り、

「ありがとう。」と言うと、バタンとドアを閉めた。

全く。入るならノックをして欲しい。

俺が呆れていたら、由良はあはは、と声を出して笑い始めた。

「彼女を連れて来ない理由がわかった。

さくらちゃんが気になって、チュウも出来ないもんね。」

「いや、出来るよ。」

俺は真剣にそう言うと、直ぐに由良の唇にキスをした。

しばらくして唇を離し、「ネ。」と微笑みつつそう言うと、

由良は、「う、うん。」と、頬を少し赤くして答えた。









  



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