smile




「別れて欲しいんだけど。」

なんだ、呼び出した理由はこれか。

ま、薄々そんな風に言われるような気がしてたけど。

別れ特有の、なんとも言えない嫌な空気感。

何度味わっても”めんどくさい”感じは変わらない。

メールで別れよ、うん、ってやる方が楽でしょ。

なんでソコを選ばないのか不思議でしょうがない。

俺を試してるわけ?

あいにく俺は、来るもの拒まず、去るもの追わず。

代わりなんていくらでもいるんだから、

目の前にいるこの女に固執する必要なんてないし。

どの位続いたんだっけ・・・

ボーっとそんな風に思い出してたら、

何も言わない俺に対して、目の前に居る女”湯沢サチ”は白々しく言葉を続ける。

「受験生だし、やっぱり勉強に力入れたいし・・・。

私から告ったのに・・本当にごめ・・。」

続きを聞くのもめんどくさくて、言葉を遮るように言う。

「あぁ、いいよ。別れよ。」

「葉くん・・・。本当にゴメン・・・。」

サチはそう言いながら涙を流した。

わざとらしい・・・。

俺は、サチを見ながらそんな印象を受けた。

たった今、また一つの恋愛が終わったわけだけど、

・・・いや、違うな。俺はサチに恋なんてしてなかったんだろう。

別れようが、何しようが、何の感情も抱かないのだから。。。

いつもそうだ。

誰かと付き合ったとしても、特別な感情が湧くわけじゃない。

俺は、何の為に、女と付き合っているんだろう。

暇つぶし?断るのがめんどくさいから?

でもま、最低のOKラインは決めていて、

誰とでも付き合うってわけじゃないけど。

自分でも自分がよくわかんない。

そもそも女だって、

こんな俺と何で付き合いたくて、何を求めてるのか謎なんだけど。


+++


「ただいま。」

家に帰って玄関の扉を開けると、ローファーが一組置いてあった。

さくらちゃんだけか、帰ってるの・・・。

階段を上がり、自分の部屋に入ろうとした瞬間、さくらちゃんの部屋へと連れ込まれた。

「何?急に。」

「葉、お願い・・・。話聞いて!」

さくらちゃんが真剣な顔して、俺の顔をじーっと見つめてくる。

何か、あったんだな・・・。

しかもこの雰囲気・・・。長くなりそう・・・。

「聞く。・・・聞くから、まず着替えさせてくんない?」

「今すぐ、聞いて欲しいの!!」

「・・・・・・。」

こうなったら諦めるしかない・・・。

何を言っても聞いてくれないから。。

「・・・わかった。で、何?」



さくらちゃんは俺の1コ上の姉ちゃん。

でも、時々俺のほうが年上なんじゃないのかって思わせるときがある。

今日もいつものように片思いのヤツについての話をされるのかと思ったら、違かった。

キスされた・・・って言ってた。

16年間、彼氏を作っていないのに、いきなりキスとは・・・。

弟の俺が言うのもなんだけど、さくらちゃんは可愛い。

そして純粋って言葉がすごく似合う。

穢れていないのだから、当たり前かもしれないのだけれど。。。

それに比べて俺は、穢れまくっているな。苦笑しながらいつもそう思う。

さくらちゃんのように、純粋な心の持ち主で居たかったよ。



結局、さくらちゃんの恋愛相談にのって、

俺なりのアドバイスをしてあげた。

さくらちゃんは俺の恋愛遍歴を知っているくせに、

自ら相談してくるなんて、変わってるなぁって思うけど、

結局は、自分の話を聞いてもらいたいだけなんだと思う。

いつもは素直に「ウン、ウン」って聞く俺だけど、

今日は自分でも気づかない内にイライラしてたらしく、

さくらちゃんに冷たい態度を取ってしまい、それを指摘された。

しかも反対に俺が恋愛相談のってもらう側になるなんて思ってもみなかった。

ま、誰とも付き合ったことない人に言われても参考にならない意見を貰っただけだけど。


+++


次の日、久しぶりにさくらちゃんと買い物に行くことになった。

これは珍しいことじゃないのに、結構周りから驚かれることが多い。

多分、俺たちは仲がいい姉弟なんだろうなと思う。

いつものように二人で他愛も無い話をしながら、参道を歩いていると、道の向こうから見慣れた顔が見えた。

昨日まで“彼女”という存在だった女、サチだ。

「あ。」

思わず、声を出してしまった。

それもそのはず、サチは男と居たのだから。

仲よさそうに、手を繋いでいる。

へぇ、男が居たのか。心の中で思わず笑ってしまう。

サチが俺に気づき、立ち止まった。

一瞬固まったその顔がなんとも言えないほど、面白い。

でもすぐに歩き出し、俺の前にやってきた。

怒ってるのか、戸惑ってるのか?よくわかんない。

別に無視すればいいのに、声かけてくるのがバカな所だな。

「葉くん、もう彼女出来たの?それとも、あたし、二股されてたんだ?」

ムカついた。

はぁ?なんで俺がそんな風に言われなきゃいけないわけ?

二股してたのはお前だろ。

「・・・そっちこそ、どうなんだよ。勉強に力入れたいとか言ってなかったか?へぇ、男が居たから、俺と切れたかったのか。」

俺は、冷めた目でサチを見つめると、一瞬たじろいだが、すぐに開き直って言った。

「そう。彼とは一年ぐらい付き合ってるの。葉くんとは遊び。わからなかった?」

「否、なんとなくわかってたさ。でも、それをわかっててお前を利用させてもらってたよ。」

俺は彼氏持ちの女と付き合ったことあるから、なんとなくわかったんだよね。

こいつがどんな女かって。

俺さえ、めんどくさいことに巻き込まれなければ、

遊びたい時に遊べる便利なヤツとして、相手してやってたのに。

ムカつくから、俺は、サチの彼氏らしい男に一言言った。

「コイツやめといたほうがいいよ。平気で男と浮気するようなヤツだもん。

あんた、一年もつきあてってわかんなかった?

ま、セフレには丁度いいかもしれないけどな。いい声出すし。」

「・・・。」

そいつは、かなり戸惑っていた様子だった。

当たり前だろうな。彼女がこんなことしてたなんて思いもしなかったみたいだから。

さ、いこう。そう思って、歩き出そうとしたら、さくらちゃんが俺の手を掴んだ。

「ねぇ、葉。アンタ、この子のこと、顔はまぁまぁ良かったけど、性格サイアクって言ってなかった?」

「あー、言ってたかも。」

「別にたいしたことないじゃん、顔だって。」

うわ!!さくらちゃん、もしかしてキレてます?声のトーン低いし・・・。

俺は、苦笑しながら、さくらちゃんを宥めるように はい、はい、と言った。

「さくらちゃんの方が可愛い、可愛い。ほら、もう行こ。時間のムダ。」

さくらちゃんは、サチを軽く睨み、俺の腕に手を絡ませてきた。

「アンタに葉は似合わないわよっ。」

そんな捨て台詞を吐いて、腕を引っ張って俺を促し、歩き始めた。

少し歩いたところで、俺はまた苦笑しながらさくらちゃんに言った。

「可愛い顔して酷い事言うね。オネエサマ。駄目だよ、折角の美人が台無し。」

「ムカつく。あの女、あたしの可愛い葉を何だと思ってるのよ。」

「もういいから、いいから。

それより、美味しいものでも食べて帰ろう。さくらちゃん、なに食べたい?」

「あたし?えっとねー、うーん、何でもいいよ。」

「じゃあ、ここに入る?」

俺が指したお店は、美味しいと結構有名なお店だった。

「混んでない?」

さくらちゃんが窓から店内を覗いて見ると、急に、さくらちゃんの様子が変になった。

一点だけを見つめて、ボーっとしている。

「・・・?さくらちゃん?どうしたの?」

「・・・葉、ここのお店、止めよう。・・・もう帰りたい。」

さくらちゃんは、俺の服の裾をキュっと掴んだ。

「なんで?」

「・・・ヤダから。」

さくらちゃんの視線の先では、高校生ぐらいのカップルが仲よさそうに食事をしていた。

もしかして・・・あのカップルの男の方、さくらちゃんの知り合い?まさか・・・あれが昨日さくらちゃんにキスしたっていう本城じゃないだろうな?

・・・さくらちゃんの反応からみて、それっぽい。

なんだか、ムカついてきた。

彼女が居るのに、さくらちゃんにキスしたのかよ。

このヤロウ。

俺は本城らしき人に指を指して言った。

「アイツが本城?・・・一発殴ってきていい?」

「・・・駄目。葉、もういいから・・・帰ろう?」

「さくらちゃん・・・。」

さくらちゃんは、涙をぽろぽろ流し始めた。

俺は思わず、さくらちゃんを抱きしめ、頭をぽんぽん、と軽くたたいた。

さくらちゃんが可愛そうだ。

俺は、そう思い、本城の方を見た。

相変わらず、笑ったまま、二人で楽しそうに話しをしてやがる。

ムカつく。

今すぐ、一発殴りてぇ。

あれ?

あの本城と一緒にいる女・・・見覚えがある・・・。

もしかして・・・。ウチのクラスの津本じゃないか?

化粧してるから、パッと見、わからなかったけど、そうだ、津本。津本菜々。

いつも暗い顔してて、男とは無縁だと思っていたのに、意外だな・・・。

笑っているのも、今日、初めて見たし・・・。

・・・それにしても、津本って、結構可愛く笑えるんだな。

あいつ、ホントに本城の女?

ボーっとそんなことを考えていると、さくらちゃんが顔を上げて言った。

「葉、アリガト。ちょっと、すっきりした。」

さくらちゃんは目を真っ赤にしていた。見れば見るほど、可愛そうに思えてくる。

「帰ろっか。牛丼でも買って家で食べる?」

「牛丼?もっと、色気のあるものにしてよ。」

「じゃあ、何?」

「・・・ラーメン。」

「ラーメン!?アレこそ、色気ないでしょ。ま、いいけどね。」

「ラーメン食べにいこ。めちゃくちゃ美味しいトコに!!」

「はいはい。美味しいトコね。」

さくらちゃんは、元気なフリしてまた、俺の腕に手を絡ませてきた。

悲しいんだろうな。

夢見てたファーストキスをあんなカンジで取られて、その上、そいつには彼女が居たなんて・・・。

本城・・・。ぜってぇ殴ってやるからな。覚悟しとけ。




  

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