次の日、気分転換にと、葉と二人で買い物に出かけた。

そして、二人で他愛も無い話をしながら、参道を歩いていると、葉が急に立ち止まり、声を上げた。

何?何?

葉は、冷めた目でどこかを見てる。

何処見てるんだろう?気になって、葉の視線の先を辿っていくと、そこには一組のカップルが居た。

誰?知り合いなのかな?

そのカップルの女の子が葉と知り合いらしく、葉に気づくと、立ち止まった。そして、その子はすぐに私達の前に来た。

目の前に来ると、ジロジロ私と葉を交互に見た後、口を開いた。

「葉くん、もう彼女出来たの?それともあたし、二股されてたんだ?」

は?二股って・・・この子、私と葉が付き合ってると思ってるの?私達、血の繋がった姉弟なんですけどね。

「・・・そっちこそ、どうなんだよ。勉強に力入れたいとか言ってなかったか?へぇ、男が居たから、俺と切れたかったのか。」

あ。この子、葉の昨日別れた元カノさんね。

葉が、冷めた目でその子を見つめると、その子は一瞬たじろいだが、すぐに開き直って言った。

「そう。彼とは一年ぐらい付き合ってるの。葉くんとは遊び。分からなかった?」

今、なんて言った?よ・・・葉とは遊びとか言ってなかった?信じられない!

私は思わず目を見開いてしまった。

でも、葉はそれを聞いて、特別表情が変わることなく、淡々と喋っていた。

「否、なんとなく分かってたさ。でも、それを分かっててお前を利用させてもらってたよ。」

葉・・・アンタ、分かっててこの子と付き合ってたの?

唖然としている私と元カノをよそに、葉は、その子の彼氏に言い放った。

「コイツやめといたほうがいいよ。平気で男と浮気するようなヤツだもん。あんた、一年も付き合っててってわかんなかった?

ま、セフレには丁度いいかもしれないけどな。いい声出すし。」

葉はそう言うと、スッキリしたような顔つきで歩き出したけど、私は納得がいかず、思わず、葉の手を掴んだ。

このまま帰るなんてヤダ。

あたしの可愛い弟をバカにされて、黙ってるほど私は大人じゃないわよ。

「ねぇ、葉。アンタ、この子のこと、顔はまぁまぁ良かったけど、性格サイアクって言ってなかった?」

「あー、言ってたかも。」

「別にたいしたことないじゃん、顔だって。」

私のその発言に、葉は、苦笑して言った。

「さくらちゃんの方が可愛い、可愛い。ほら、もう行こ。時間のムダ。」

私はその子を軽く睨み、葉の腕に手を絡ませた。

「アンタに葉は似合わないわよっ。」

そんな捨て台詞を吐いて、腕を引っ張って葉を促し、歩き始めた。

少し歩いたところで、葉はまた苦笑しながら言ってきた。

「可愛い顔して酷い事言うね。オネエサマ。駄目だよ、折角の美人が台無し。」

「ムカつく。あの女、あたしの可愛い葉を何だと思ってるのよ。」

あー、まだ気がすまない。ムカつく。

「もういいから、いいから。

それより、美味しいものでも食べて帰ろう。さくらちゃん、なに食べたい?」

「あたし?えっとねー、うーん、何でもいいよ。」

あたしって単純・・・食べ物のコト考えたら少しは気分が良くなった。

「じゃあ、ここに入る?」

葉が指したお店は、美味しいと結構有名なお店。

一度行ってみたかったんだよね。でも、有名だから、混んでそう。

「混んでない?」

窓から店内を覗いて見ると、一つのテーブルに見慣れた顔が・・・。

それを見て、思わず放心状態になってしまった。

見慣れた顔とは、本城君。

一人じゃない。女の子と一緒にそこに居た。

「・・・さくらちゃん?どうしたの?」

呆然としてしまった私に、葉は声を掛けてきた。

「・・・葉、ここのお店、止めよう。・・・もう帰りたい。」

葉の服の裾をキュっと掴んだ。

「なんで?」

「・・・ヤダから。」

葉は本城君に指を指して言った。

「アイツが本城?・・・一発殴ってきていい?」

「・・・駄目。葉、もういいから・・・帰ろう?」

「さくらちゃん・・・。」

あの子が本城君の好きな人なんだろうな・・・。

告白する前に、失恋しちゃったよ・・・。

涙がぽろぽろ流れ始めた。

とまらない。

葉は私を抱きしめ、頭をぽんぽん、と軽くたたいた。

なんか、安心する。葉・・・優しい。

少しの間、葉にそうしてもらってから、私は顔を上げて葉に言った。

「葉、アリガト。ちょっと、すっきりした。」

葉は少し困ったような顔をして、ポツリと言った。

「帰ろっか。牛丼でも買って家で食べる?」

「牛丼?もっと、色気のあるものにしてよ。」

「じゃあ、何?」

「・・・ラーメン。」

「ラーメン!?アレこそ、色気ないでしょ。ま、いいけどね。」

「ラーメン食べにいこ。めちゃくちゃ美味しいトコに!!」

「はいはい。美味しいトコね。」

葉、心配してるんだろうな。そんな顔、してたもん。

心配かけちゃ駄目だ。葉だって、今日はあんなことがあったんだもん、辛いはずなんだし・・・。

私は精一杯笑顔を作って、また、葉の腕に手を絡ませ、歩き出した。



+++



翌朝、自分の部屋の扉を開けたら葉が廊下に座り込んで歯を磨いているのが見えた。

私が部屋から出たのに気付き、歯ブラシを咥えたまま葉は、オハヨウ、と言った。

私も、オハヨ、と返しながら洗面所に入り、鏡の中の自分を見て、思わずため息が漏れた。

目が真っ赤。しかも、腫れてるし・・・。

呆然としながら鏡を見続けていると、どいて・・・、と葉がモゴモゴ言いながら私を横に押しやり、口をゆすいだ後、鏡越しに私を見た。

「泣いてスッキリした?」

「・・・あんまり。」

葉は、はぁ・・・とため息を吐くと、腕を組んで壁に寄りかかり、今度は私を直に見てきた。

「本城のコト、本気で好きなんでしょ。」

「・・・ぅ。」

「好きだから、ショックだったんでしょ。」

「・・・ぅぅ。」

「ホントはあんまり勧めたくないけど・・・さくらちゃん、本城に告白したら?」

「・・・フラれるって分かってても?」

「・・・うん、そうしなきゃ次の恋愛なんて出来ない。イッコ、イッコの恋愛に、ちゃんと区切りを付けていかないとダメ。」

「・・・・・・うん。」

「これでオワリじゃないんだから、気楽にキモチ伝えて、フラれてスッキリしてきなよ。」

「葉・・・。」

「じゃ、俺、学校行ってくる。さくらちゃん、いつまでも本城如きに悩んでてもしょうがないから、今日告白してきなよ。」

葉はそう言うと、洗面所から出て鞄を持ち、階段を下り、玄関に向かって歩き出した。

「い・・・今、今日とか言わなかった??」

私が葉の後を追いかけて聞きなおしても、葉の答えは変わることなく、今日、と言った。そして私の方を見ず、言葉を続ける。

「悩んでいる時間がムダだよ、ムダ。結果が分かっているんだから、さっさと言えばいいんだよ。ホラ、早く支度したら?遅刻する。」

「・・・今日なんて、イキナリすぎるよぅ・・。」

「今日言わなかったら、金輪際さくらちゃんの悩み相談は受けないからそのつもりで。じゃーね。」

「・・・ヤダよ!!葉っ!!」

バタンと、玄関のドアが閉まり、葉の姿は消えた。

酷いよ・・・。

「葉のバカー!!」

玄関に私の声が響いた。

ドアの向こうで葉の「うるさい。」って声が聞こえたような・・・。



  


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