クラスマッチ実行委員に決まったから、と知ったのは今日。

風邪で休んでいて、その間に決まってしまったらしい。

・・・最悪。

何も委員会に入ってない人の中で男女1名づつ選出っていうことだったらしいけど、

こんなのってあんまりだ。

休んでいる間に決めなくても・・・。

クジで決めたらしく、最後に残っていた私分のクジがアタリだったらしい。

去年もあったクラスマッチだけれど、その時は、他の委員会に入っていたから逃れられたこの実行委員。

他人事だと思ってたのに、まさか自分がやる羽目になるとは・・・。

クラスマッチは学年毎、体育委員会が中心になって行われるクラス対抗の球技大会。

しかし、クラスに二人居る体育委員だけでは人手が足りないらしく、クラスマッチ実行委員と称して雑用を手伝う人がこの時期にだけ選出される。

放課後、一緒に実行委員になった山村君ていう男の子と放課後に会議が開かれる教室に向かう。

山村君とは、2年になって最初の席で隣だったというだけで、特別仲がいいわけじゃなくて、

寧ろあんまり話したことないんだけど、一緒に行こうって言われたから断る理由も無いし、一緒に行く事になった。

「この前、湯口さんをみたよ。駅前のトコで。」

「え?」

「他の学校に友達多いの?」

「あー、うん、まぁ。」

「タイプ違うコと友達なんだね。意外だったかも。」

「え?」

タイプ違うって・・・どういうこと?

「天草さんと山科さんとは違うカンジのコばっかりだったよね。それとも二人とも学校の外ではあんなカンジなの?」

「さあ?天草さんと山科さんとは学校の外では会った事ないし。」

「へぇ。そうなんだ。・・・そっか、じゃあ湯口さんが、なんだ。」

「え?」

「学校と外では違うんだ?」

「・・・そんな風にしてるつもり・・・ないけど。」

急に山村君がぴたっと足をとめた。

ん?どうしたんだろう。

不思議に思って振り返ると、山村君はちょっと笑みを含みながら「湯口さん。ココだよ教室。」と。

「え・・・ここ?」

ココと言われたのは、二年B組。

・・・つまり、蕗のクラス。

「どうしたの?なんか嬉しそう。」

山村君にそう言われて、はっとする。蕗の教室に入るの初めてだって思ったら顔が自然に緩んでいたみたい。

「そ、そんなことないよ。」

顔をきゅっと引き締めて一歩踏み出して蕗の教室に入る。

入っちゃった・・・!

・・・なんか違和感があるかんじ。自分のクラスと違う雰囲気だから、だろうな。

ここの教室で、蕗が勉強してるんだ。

どこの席なのかな。

ちょっとキョロキョロ周りを見渡してみる。

でも、見回しただけじゃ分からない。

蕗の席って一目で分かるようなモノ無いんだもん。

でも、蕗の教室に入れただけでも、良かったと思う。

蕗と同じクラスになった気分を味わえるんだから。

えへへ。

一度は引き締めた顔だったけど、また自然と緩んでいたらしく、また「どうしたの?」って山村君に笑われた。

そして

「なんか可愛いんだけど。」なんて言われた。

か・・・可愛い!?

「な、何言ってんの?」

なんだかスゴク恥ずかしくなって、思わず俯く。

可愛いなんて言われたの初めてなんだもん。

言われ慣れない言葉を言われると、どう言葉を返していいか分からない。

「せ・・・席早く座ろ!」

焦って、机の角に身体をぶつけた。

イッ・・・たい。

ぶつけたところを擦っていると、山村君が声を出さないようにして笑ってた。

なんで笑うのぉ・・?

さっきから笑ってばっかりだよ、山村君・・・。

山村君てこんな人だったんだ?

黒板に指示されてるように、席に座っても、山村君はまだ笑っていて。

「もう。いい加減笑わなくても。」

「ごめん、ごめん。湯口さん、見てて面白いからつい。」

なんて、悪びれも無く言って、まだ身体を震わせていた。

まったく。

何が面白くて笑ってるのか本当に良く分からない。何かがツボに入ったんだろうね、きっと。

そっぽを向いて、はぁ、とため息を吐いていたら、

急に誰かが私の目の前に立って・・・それとほぼ同時に山村君の動きが止まった。

ん?誰?

不思議に思って、その人物を見たら・・・



固まった。



・・・だって、そこに居たのは、私がずっと会いたくてしょうがなかった相手。

蕗だったんだから。

「・・・ペン、取りたいんだけど。」

そう言われて、はっとする。そして、椅子を思いっきり引く。

蕗は、机の中からペンケースを取り出し、「どうも。」なんて言って、私の3つ前の席に座った。

ふ・・・蕗も実行委員になったんだ・・・。

・・・その前にココ、蕗の席だったの!?

一気に、顔が熱くなっていく。

この席で蕗が勉強して、

この席から蕗は色々なものをみていて・・・。

蕗と同じものを共有できたのが嬉しくて、しょうがなかった。

でも・・・さっきのあのセリフ・・・。

なんて冷たい声だったんだろう。

なんて、そっけないものだったんだろう。

・・・もう、昔の蕗じゃないんだな、ってハッキリと思い知らされた。

一瞬、幸せな気分になれたのに、それと共に悲しい気分も味わう事となった。

「・・・ねぇ、湯口さん。・・・あの人と友達?」

何故か山村君が恐る恐るそう聞いてきたけど、首を振った。



+++



蕗と接触したのは、蕗が机の中からペンを取り出そうとしたあの時だけで、二度と話しかけられることもなかった。

だからといって私から話しかけるなんて出来なくて、私は蕗の背中を見たり、蕗が誰かとしている会話を盗み聞きするので精一杯。

「剣持君はーどんなコが好き?」

蕗がそう女の子に聞かれてたときは一番真剣に聞いていた。

だってそんなの、聞いたことなかったから。

「んー。俺は、素直な子・・・かな。あ、でも素直って言ってもワガママばっかり言ってるのは駄目ね。

そういうんじゃなくて、思ってることをちゃんと言ってくれる子。あと、しっかりしたコだとありがたい。」

「ありがたいって・・・何それ。」

「ん?ま、希望だから。」

私はその言葉がスゴク心にずしんと来た。

全く私と違うタイプだ、って思って、落ち込んだ。

だって、私、素直じゃないし、しっかりしてもいない。前なんて、蕗に甘えてばっかり、頼ってばっかりいた。

今は、人に甘えるもんか、頼るもんか、って必死になって頑張ってはいるけど。



クラスマッチを明日に控えた放課後、同じ仕事を任されていた女の子達が急に言い出した。

「ごめーん、湯口さん。私たち用事あるんだわ。後、お願いしてもいい?」

後・・・って、これ全部?!

男の子達はコート整備だったり、ネット張ったり、器具の用意したりしていて、

女の子達は模造紙にそれぞれの種目の予定を書いたり、対戦表を書いたりと、そういう風に仕事が分担されていた。

模造紙にはまだまだ書くことがいっぱい残ってる。

それなのに、一緒に分担になっていた女の子たちが帰る、と言うのだ。

全部一人でやれって言うの?嘘でしょ?

一人でやるには、多すぎる量。

「みんなが・・・用事あるの?」

「そうなんだよ、塾あったり、ピアノあったりしてどうしても無理で・・・。ごめんね。よろしく。」

私の困ってる姿を見ないフリして、皆、私を残して帰ってしまった。

全員で帰るか?普通。

絶対にイジワルされてる気がする・・・。

泣きそうになりながらも、こうしては居られない、と必死にペンを走らせる。

だって、ボーっとしていたって、その間に誰かがやってくれるってわけじゃないんだから。

・・・全く、こんなことならどうして前々からやっておかなかったのか。

切羽詰ってまでやらないなんておかしすぎる。

黙々と作業を進めていたら、いつの間にか日は落ちていって、あたりが暗くなってきた。

まだ終わりそうに無い。

学校に残ってる人がもう少ないらしく、心細くなってきた。

急にガタっと大きな音を立てて、教室の扉が開いた。

びくっと身体を反応させて、驚きながらも扉の方を見ると、そこに立っていたのは、山村君。

知ってる人だったから、ちょっとほっとした。

山村君とは最近、ちょっと仲良くなってきて、よく話すようになってきたんだ。

一緒に実行委員になったからだと思う。

「お疲れ。まだやってたんだ。」

「うん。」

「電気がついてるし、もしかしてって思ったけど、ホントにいるとは・・・。

一人?他の皆は?」

「・・・用事あるんだって言って帰った。」

「そうなんだ。・・・手伝うよ。」

山村君はそう言って、荷物を床に下ろす。

それを見て、私は慌てて断る。

「いい、いい!自分で出来るから!!」

「自分で出来るって言っても・・・。まだこんなに残ってる。」

「いいの!!」

山村君は呆れた様子。

「なんでそう一人で全部やろうとするの?出来るわけ無いって自分でも分かってるでしょ?」

「・・・出来る!・・・出来るから・・・ホントに帰っていいから。」

何で泣きそうになってるの私。

出来ないって、自分でも認めてるから?

でも、だからって山村君に頼りたくないんだ。

彼だって、自分の任された仕事をこなしてきたっていうのに、それが終わったから今度はこっちを手伝ってなんて・・。

嫌だ。

絶対に嫌だ。

負担掛けたくない。

「・・・ホントにいいから。」

山村君は、はぁ、と小さくため息を吐いてから、説き伏せるように言う。

「湯口さんてさ・・・、時々そういうトコあるよね。

誰かに頼りたくないって気持ち、分からなくは無いけど、状況によっては人に頼ることだって必要なんじゃないの?」

でも・・・でも・・・。

「でも、頼ったら駄目なんだもん・・・。私、誰かに甘えたくない。しっかりした人になりたいから!」

「・・・でもさ、そんなに気を張って頑張っても、疲れるだけじゃない?

辛いでしょ、そんなの。

しっかりした人って・・・誰かに頼らず自分で何でも出来る人ってわけじゃないと思うけどな。」

そうかも・・・しれないけどっ・・・。

その時、またガタっと大きな音を立てて、教室の扉が開いた。

そこに立っていたのは、私を残して帰ってしまった女の子たち。

「湯口さん・・・。」

「用事・・・終わったの?」

私がそう訊ねると、女の子達は気まずい顔をしながら、うん、と頷いた。

そして、「ごめんね。」と謝られた。

何で戻ってきたのか、話を聞くと、最初は口篭っていたけれど最後には正直に、友人に怒られたんだって話してきた。

任された仕事を最後までやらないなんて最低だ、と言われたらしい。

私は嬉しかった。

きっかけなんてなんでもいい、戻ってきてくれたのだから。

友達に怒られたからって、そのまま学校に引き返さないことだって出来たはずなのに。

それから私達は黙々と仕事をこなし、思ったよりも早く終わらせることが出来た。



片づけを終え、皆で帰ろうと昇降口に向かう途中、

何気なく交わされてた女の子達の会話の中で、私は思ってもみなかったことを耳にした。

「それにしてもさ、意外だったよね。」

「何が?」

「剣持君。」

蕗の名前が出て、私の身体はビクリと反応する。

「あー・・・うん、ちょっと怖かったね。」

苦笑いをしてる子達に恐る恐る「どうしたの?」と訊ねると、女の子達は気まずそうに言う。

「・・・さっき、友達に怒られたって言ったでしょ?彼なんだよ、怒ったの。」

「え・・・?」

「今何してる?って聞いたら、逆に聞かれて仕事終わったの?、って。」

「・・・で、湯口さんに任せちゃったって話したら・・・ね。」

「うん、すごい怒られた。」

・・・蕗ってそんなに怒らない人だと思うんだけど。

基本的に優しい人だもん。

私が知ってる蕗は・・・だけど。

「・・・でも、あーいう一面も持ってるんだ、って知ったらなんか・・・惹かれた。」

「バカだー。」

ふざけてるように、笑いながら話してるけど、本当のところどうなんだろう。

蕗のこと、好きなのかな?

やだな・・・なんか。

私は段々と、憂鬱な気持ちになっていった。







  


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