顔を洗ってから新しいクラスに足を踏み入れたら、そこには見たことのない顔ばかりが並んで居た。

黒板に書かれている座席表のとおりに、自分の新しい席に着くと、目の前に山科さんの姿があった。

「おはよう。」

「おはよう。」

いつもと変わらない挨拶で始まり、他愛も無い会話を繰り返したあと、ふと周りを見渡したら、さっきの・・・あの、綺麗な人の姿を見つけた。

さっき会った姿とはちょっとだけ違くて、ノンフレームのメガネを掛けて髪を一つに結んでいるけど、間違いなく、さっきの人だ!

年上だと思ってたのに、同じ年だったの!?

えっ、うそ!信じられない!

「どうしたの?」

私の慌てぶりに山科さんは驚いた様子。

「え、あ・・・あの人、知ってる?」

「知らないけど・・・。どうして?」

「さっきぶつかったの。あの人と。どんな人なのかな、ってちょっと思って。」

「そう・・・。」

山科さんは少し何か考えた後、にこっと笑って「話しかけてみようか。」って、提案してきた。

「えぇ!?な・・・なんて話しかけるの??」

「なんてって・・・普通に。ちょっと行ってこようかな・・・。」

そう言って、山科さんはすっと席を立ち、あの女の子の席に近づいていく。

そして、席の隣に立ち、何か話しかけてる様子。

うわ・・・

勇気あるなぁ・・・

山科さんは知り合った当初、いつもニコニコしているから、ほわわん、ていう雰囲気でのんびりしている子かと思っていたのに、

全然そうじゃなかった。

周りを結構見てて、たまに鋭い指摘をしてくるから、コワイ時もあったりする。

暫らくして、山科さんが戻ってきた。

「イロイロ聞いてきたよ。名前はね、天草藍莉サン。今年転入してきたんだって。

だから今まで見たことなかったんだね。

それでね、今日、一緒にお昼食べようって誘っちゃったんだけど、いいかな?3人で食べても。」

「そっ・・・それはいいけど。」

「よかった。じゃあ、また後でね。」

先生が教室に入ってきた所為でそこで会話が中断された。

それにしても、いきなりお昼を一緒に食べる事になるなんて思ってもみなかった。

な・・・仲良くなれるかな。



+++



最初は緊張して何もしゃべれなくて、言われたことに対してウン、とかいうのが精一杯な私だったけど、

だんだんと喋れるようになって、徐々に天草さんと仲良くなっていくことが出来た。

それでもやっぱり、本人目の前にするとどうも緊張しちゃって、いつもの自分っぽくなくなって口数少なくなっちゃうんだけど。

・・・で、仲良くなってみて、分かった。

天草サンは、すっごくいい人だ、って。

綺麗だけじゃなくて、頭もいいし、おしとやか。私とは正反対。

憧れている人も多いみたい。

私もその中の一人なんだけど。

・・・そんな天草サンだけど、不思議な部分もある。

時々、すごい寂しそうな顔で外を見つめてる時があったり、ふっと急に居なくなっちゃう時があったりするんだ。

お昼休みなんて、必ずといっていいほど、居なくなる。

どこに行ってたの?って聞くと、図書館って言ったり、ちょっと用事があって・・・とか言ってたり。

毎日のように居なくなるから、私も山科さんもなんとなく気になって後をつけてみたことがあった。

そしたら、職員室に寄った後に防音がしっかりしているピアノルームに一人入っていった。

その後、教室に戻ってきた天草サンにどこに行ってたの?って聞いたら、図書館って。

どうして嘘をつく理由があるんだろうと、私も山科さんも不思議でならなかったけど、

天草サンが隠しておきたいと思うなら、何か言ってくるまで黙っていようと、山科さんと話し合って決めた。

その不思議な部分があってか、私たちと天草サンの間には、見えない一本のラインみたいなのがあるっていう感じが時々する。

生活に支障があるわけではないんだけど、少し寂しい気持ちがするのは確か。

もっと色々話してくれてもいいんじゃないか、って思う。

・・・でも、そういう私も人のこと言えなくて、何となく二人に本音を言ってないし、相談とか乗ってもらいたいとかも思わないんだけど。

自分でも、何故そう思うのか分からない。

杏だったら、何でも話すことが出来るって言うのに。

私は、高校に入ってから、杏みたいな・・・何でも話せる、気の許せる存在の友人を作れてない気がする。

あるとき、ふと思った。

名前で呼び合ってない、って。

気付いた時にはもう苗字で呼び合ってた。

名前を呼んでもらいたいのに。

だって、名前を呼び合うことほど、親しくなったという実感が持てるものは無いと思うから。

でも今更、山科さんに「名前で呼んで」なんて言えないし、山科さんにも言ってないっていうのに天草さんに「名前で呼んで」なんて言えない。

なんで前々から言わなかったんだろう、と後悔している。

・・・後悔か。私は今までしてきたことについて後悔してばっかり。

蕗のことについてもそうだし、高校選択のことだってそうだ。



私は何度も、今通っている学校を選ぶんじゃなかった、って後悔した。

杏と同じ、隣の駅にある女子高に行ってれば良かったって、実は今でもそう思ってる。

杏の学校の友達と、よく仲間に入れてもらって一緒に遊んでいるんだけど、その子たちと一緒に居る時ほど楽しい時は無い。

時々、皆とは同じ学校の子なんじゃないかっていう錯覚に陥りそうになるけど、制服の違いだったり授業の話をされると違うんだな、って再確認させられる。

そういう時、スゴク寂しい気持ちになる。

あまり態度に出ないように心がけていたけど、杏は察したみたいで、授業の話が出てたりしたら他の話に変えたり、「こういう先生が居てね」なんて言って説明を加えたり、私にも分かるようにしたりと仲間に入れてくれようと努力してくれるのがすごく分かる。

私はそれがすごく嬉しくて、やっぱり杏と一緒にいるのは居心地がいいって感じる。

杏の心遣いもあって、学校の話を聞くのは楽しくなっていって、いつのまにか杏の学校が好きになっていった。

前なんて、杏の学校に潜入しちゃったこともある。

ドキドキしたけど、楽しかった。

こんな経験、誰にも話してない。

だって、こんな話したら、山科さんも天草さんも絶対引くもん。

二人ともワルイコトとか絶対しないタイプだもん。

いい家柄のお嬢様っぽくて、純粋そうな、そんな感じがするんだよね。



あ・・・でも最近、天草さんが自分が抱いてたイメージと違う人かもって思うようにもなった。

居眠りなんてしませんよ、したことなんてありませんよっていうカンジだったのに、

天草さんが授業中に、ガクってなったの。ほんの一瞬だけど。

あの天草サンが寝てる?!って思ったけど、その後すぐにペンを走らせてたから、寝てないのかなーって思ったけど、

後から思い返してみて、やっぱりあれは寝てたと思うんだよね。

あと、外を見ながら小さな声で「とりにく・・・」って呟いてたり・・・。

とりにくって何?!って不思議でたまらなかったけど、追求するのもどうかと思ってやめておいた。

他の誰も聞いてなかったみたいだし。

・・・でも、未だにあのときの「とりにく」発言が気になってたりする。

とりにく・・・食べたかったのかなぁ。。

天草さんがとりにくにかぶりついてる姿なんて想像できないんだけど・・・。








  


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