私は蕗への気持ちに気付いてからも、特別、蕗の前で態度が変わることは無かった。

叶わない恋だ、と自分に言い聞かせ、今までと同じように過ごす。

下手に蕗に好きだとかバレて、今の関係がギコチナクなるのは絶対に嫌だったから。



放課後、またいつものように蕗が「一緒に帰ろう」と誘ってきた。

当然、いつものように断り、蕗を先に帰して、杏と一緒に勉強をしていたら、急にクラスメートの男の子に声を掛けられた。

「湯口さんを呼んでって言われたんだけど。」

彼はそう言って、教室の入り口の方を指差す。

「誰が?」

「さぁ・・・?」

僕に言われても、と言うように困ったような顔をした彼に「わかった。」と返事をした。

今日は、ぽつり、ぽつりだが、生徒がまだ残っている。

誰だろう、蕗では無いと思う・・・蕗はウチのクラスに勝手に入ってくるし・・・それにもう帰ったはずだ。

「ちょっと行ってくるね。」

そう杏に声を掛けて、席を立つ。

誰かなぁ?と思いつつ、廊下に出て、私を呼んだであろうその人物を見たら、ビックリして声が出なくなった。

其処にたっていたのは、蕗の彼女。

そのコを見ただけで、すぐに教室に引き返したい気分になった。

でも、すぐさま話しかけられて、逃げられなくなった。

「あ、アキさん・・・だよね?」

初対面だけど、アキなんて呼ばれてちょっと嫌な感じ。

「・・・明菜なんだけど、うん、まぁ、そう呼ばれてる。」

蕗にだけ、だけど。

「私、山崎エリ。あの・・・蕗の彼女・・・で・・・。」

長い髪を耳にかけながら、少し照れつつそう言う。

・・・“蕗の彼女”ってわざわざ言わなくてもいいんじゃないの?って思う。

そんなこと、言われなくても知ってるし。聞きたくないし。

多分『彼女』って言いたいから、そう言ったんだろうとは思うけど。

「うん。知ってる。蕗に聞いたから。」

微笑みながら、ちょっと余裕を見せつつ言う。

もしかしたら多少、笑顔が引きつってたかもしれないけど。

私の言葉を聞いて、彼女は一瞬だけ顔を崩したけど、また元の顔に戻って「一度会って話してみたかったの。蕗が言う、“アキ”さんに。」って言った。

私は別に会って話してみたく無かったんだけど。

なんで一度会って話してみたかったの?話す話題も無いくせに。

無言が続いて、こうしている時間が無駄、と思ったから、「じゃあ。」って言って、教室に戻ろうとした。

そのとき

「どうして、蕗とアナタはそんなに親しいの?二人はどんな関係なの?」

彼女が不安そうな眼差しで、そう訊ねてきた。

何を疑っているんだか。

「蕗はなんて言ってたの?」

そう聞き返したら「蕗には聞いてない」っていう、小さな声が返ってきた。

どうして蕗に直接聞かないんだろうと、不思議でならなかった。

その理由を訊ねようかとも思ったけれど、正直、もう彼女とこれ以上一緒に居たくなかったから、

早くその場から去りたくて、「蕗と私は友達だよ。」って答えた。

すると、彼女の目から涙がぽろっと零れる。

指で次々と零れていく涙を押さえながら、「そんな・・分かりきった嘘言わないでよ。ただの友達なわけないじゃない。」って涙声で言われた。

・・・そんなこと言われても、本当のことなのに。

ただの友達なわけない、って、何それ。

友達以外のなんだっていうの?

私たちの関係を表す言葉なんて、他にはない。

でも、彼女は信じなくて

俯いて、相変わらず泣いていて・・・。

私はどうしたらいいのかわからなくて、ただ、そのコを見ているだけだった。

数人の生徒が、私たちを見ているようで、視線が痛かった。

傍から見れば、私が彼女を苛めて泣かせているようだったと思う。

泣いている者とそうではない者が居たら、当然、泣いてる方が何かされてる、って見えるだろうし・・・。

私、泣かせるようなこと、言ってないのに、なんで泣くんだろう?

泣きたいのは、こっちだっていうのに。

ふぅ、とため息を短く吐いた後、静かに彼女に言った。

「・・・何を勘違いしているのか分からないけど、本当に蕗とはただの友達なんだけど。

あなたは何ていう答えを期待してたの?」

少しの間の後、ぽつりと彼女が答えた。

「・・・恋人か、前に付き合ってた、とか。」

「恋人って・・・蕗は今、あなたと付き合ってるんでしょ?二股って意味?」

彼女は何も言わず、ただ、コクリと頷く。

蕗が二股だって。そんなことするわけがないのに。

「蕗がそんなことする人だと思ってるの?蕗はそんなことしないでしょ・・・。」

呆れてそう言うと、どうやら彼女も納得したようでその考えは捨てたようだった。

「じゃ・・じゃあ、前に付き合ってたんじゃないの?」

「付き合ってないです。仮にもし付き合ってたとしたって、今はあなたと付き合ってるんだし、そんなこと関係ないじゃない。」

「だって、元カノと親しくしてたら不安になるんだもん。ヨリを戻すんじゃないかって思って。

お願い、蕗を取らないで。本当に私・・・蕗のことが好きなの!」

・・・取らないでって何それ。

ムカつく。

頭もガンガンしてきた。

何で私は、このコとこんな話をしているんだろう。

どうして私がこんな目にあわなくちゃいけないんだろう。

なんだか無性に泣きたい衝動に駆られたけど、その場で泣いたら蕗の彼女が変に思う、って思って堪えた。

このコの前で涙を流すなんて、したくもなかったし。

それ以前に、私は人前で泣けない性質なのだけれど。



人前で泣けなくなったのは、いつからだったか。

いつのまにか、泣くのはお風呂場だけ、と決めつけた。

お風呂で泣けば、涙はお湯に紛れ、消えていく。

声を出さずに泣くのならば、両親にも気付かれることもない。

そうしていくんだ。これからも、ずっと。







  


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