結局、本当に蕗はその告白してきたという女の子と付き合うことになった。
何度か、そのコと蕗が廊下で親しそうに話してるのを見たから、一応彼女の顔は知ってる。
一度も話したことないけど、そのコとは仲良くなれそうもないって直感で思った。
雰囲気からして、なんかヤダ。
ウマク説明は出来ないんだけど・・・。
とにかく、嫌なかんじのコが蕗の彼女だ。
彼女が出来たら蕗は変わると思ってたけど、全くと言っていいほど蕗は変わらなかった。
相変わらず一緒に帰ろうと言って来るし、家に出入りをする。
本当に彼女が居るのかと、疑ってしまうほどだ。
一度、不本意ながら「彼女と一緒に帰れば」と気を使って言ってあげたら、平然な顔して、「家、逆方向だし。」とか言われた。
家が逆方向だからって言っても、蕗が遠回りしてでも一緒に帰るんじゃないの?
・・・って、そんなのどうだっていいじゃない。
何を考えているんだか。
蕗と彼女のことなんて、私に関係無いことなのに。
はぁ・・・
なんか、ムカムカする。
イライラする。
でも、少し、泣きたくもなる。
最近の私はなんだかオカシイ。
自分が自分じゃないみたい。
蕗に彼女が出来て変わったのは私の方。
最近、なんだか一緒に居る事が苦痛にさえ思えてきて、段々と蕗を避けるようになった。
一緒に居るとなると、何を話したらいいのか、とか色々考えなきゃいけなくなったのも、避ける原因の一つかもしれない。
今までは、何を話したらいいのかなんて考えたことも無かったけれど
“彼女が何かした”とか“彼女と何かした”とか、そういうの聞きたくないから、“彼女”以外の話題を必死に考えなきゃいけなくなった。
蕗は特別、彼女の話を言ってきたりはしないけど、いつかは出てくると思うとそれが怖くて。
一緒に帰ろうと誘われても何かと理由をつけて逃げることが増えていった。
今日もまた、一緒に帰ろうという蕗の誘いを断る。
「また?」
断った後、蕗はいつも悲しそうな顔をする。
その顔をみて、やっぱり一緒に帰ろうかって言いたくなるけれど、そう思うだけで絶対に声に出して言うことは無い。
だって、そんなことしたら後悔するに決まってるから。
「うん。ゴメン。杏と勉強してから帰ろうと思って。」
嘘じゃない。ホントに杏と勉強してから帰るつもり。
ただし杏との勉強はほんの少しで、その後は一人で図書館に行って勉強をしようと思っているのだけれど。
「んー、じゃあ俺も一緒にやろうかなー。」
イイコト思いついた、って顔をしながらそんなこと言ってくるけど、そんなの全然イイコトじゃない。
ハッキリいって困る。
「だ、だめ!」
「なんで?」
「蕗は早く帰りなよ。バイバイっ。」
「はぁー?」
会話を強制終了させ、蕗を無理やり教室から追い出してドアを閉めた。
今日は、残っている生徒はあまり居なくて、蕗を締め出したことで教室の中には杏と私の二人っきりになった。
席に戻ると、杏が頬杖をつきながらじーっとコッチを見てくる。
「な・・・に?」
「変だなーって思ってさ。」
「・・・何が?」
「急に蕗君を避けるようになったよね。」
・・・バレてた。
まぁ、いつかは気付かれると思ってたけど。
私が何も言わずに黙りこくっていると、杏は相変わらず頬杖を付いたままでじーっとコッチを見て言う。
「前はあんなに蕗、蕗ってベッタリだったのに。」
蕗にベッタリ?何それ。
「・・・そんなことしてません。」
「してた。」
杏があまりにもキッパリとそう言うのだから、周りからはそう見えてたのかもしれない。
確かに、私は、蕗に甘えて、頼ってばっかりいたから。
でも・・・もうそれはオワリにするんだ。
「もう、蕗に甘えるのは卒業したの。蕗には頼らないの。」
何となく自分の中で思ってたことだけど、口に出していうのは、そのときが初めてだった。
これで、もう後には引けなくなった。
キッパリ宣言してしまった以上、実行するつもり。
「どうして?」
どうしてって・・・。
「彼女が出来たから?」
「・・・。」
何も言えないのは当たってるから。無言は肯定の意味だ。
「彼女が居たって、蕗くんは明菜には特別優しくしてくれるのに。」
・・・うん。そうなんだよ。
不思議なことに、彼女が出来たって、蕗は変わらずに私と接してくれる。
優しくしてくれたりするんだ。
でも、私はそれを素直に喜べない。
いつまで、変わらずに私と接してくれるのか、優しくしてくれるのか、“特別”が続くのかっていう不安があるから。
・・・ずっと、蕗に“特別扱い”して欲しい、側に居て欲しいって思うけど、それは無理なことだし。
もしかしたら明日、態度が急変・・・まぁ、蕗に限ってそんなことは無いとは思うけど、そんなことがあったら、私は、今以上にオカシくなりそうだ。
「はぁ・・・。彼女なんて作って欲しくなかったな・・・。」
どうやら私は無意識のうちに、そんなことを口走ってたらしく、それを聞いていた杏は大きな目を見開いて更に大きくし、バンっと机を叩いた。
「やっぱり!!明菜、蕗くんのこと好きだったんだ!!」
私は杏の迫力に圧倒され、目を丸くして「え?」としか言えなかった。
「彼女作って欲しくなかったっていうことは、明菜が蕗くんの彼女になりたかったんでしょ?」
「・・・か・・かのじょ?」
「独り占めしたかったんでしょ?蕗くんのこと。」
「独り占めって・・・え・・・あ、まぁ、それは・・・そうかもしれない・・けど・・・。」
「それって好きってことじゃないの?いい加減に自覚しなって。」
杏は笑いながら、からかうように言ってくる。
自覚しな、って言われても、そんなこと考えた事も無かったし。
ていうか、私には恋愛なんてまだまだ先だ、って思ってたし。
・・・でも、そうだとすると、納得がいくことが多かったりする。
蕗が私以外の女の子と仲良くしているのを見ると、腹が立つし、
意味無く、ふっと蕗のこと考えちゃうときある。
ずっと、蕗に“特別扱い”して欲しい、側に居て欲しいって思うのだって、好きだからかもしれない。
私、気付いてなかっただけで、蕗のこと、ずっと好きだったのかも・・・。
そう思ったら段々と顔が熱くなっていって、なんだかスゴク恥ずかしくなってきた。
「どうしよう、杏。私、蕗のこと、好きだったのかもしれない。」
「うんうん♪」
杏は笑顔で頷く。
でも・・・
「もう遅いんだよネ。蕗、彼女出来ちゃったし。」
エヘへ、と作り笑いをしながら言ってみた。
すると杏は、笑顔をパタリと止め、反対に泣きそうな顔をする。
「どうして杏が泣きそうな顔するの?」
無理に笑って、そう訊ねると、杏は両手で目頭を押さえる。
そして、「明菜の気持ちになってみたの・・・そしたらツラくて・・・。」って言う。
ツライ・・・か。
うん、そうだね。
ツライよ。
自分の気持ちに気付いたと思ったら即失恋だもん。
もうちょっと早く、私が蕗へのキモチに気付いていたら、
告白されたと言われた時、素直に「蕗が誰かと付き合うなんて嫌だ」と言っていたら、
何か変わっていたのかな。
そんなの、今となっては誰にも分からないんだけど。
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