嫌だ、って言ったのに、蕗にB組の教室まで連れて行かれ、無理やり蕗の席に座らされた。
どうやらB組も自習らしい。
ざわついてるのはウチのクラスと変わりないけど、なんだか視線が周りから・・・チクチクと・・・突き刺さる。
む・・・無視っ!無視するしかない!
俯いて、スカートをぎゅっと握り締めていたら、
前に座っていたサワタリエイシが不思議そうに訊ねて来た。
「・・・それにしても、いつからそんな風になったわけ?」
「さっき。」
「さっきって・・・はぁ?」
「今まで絶交状態だったから、俺等。」
「絶交状態!?・・・てか、いつから知り合いなわけ?お前等接点なくね?」
「「は!?」」
思いっきり蕗とハモって、そう叫んでしまった。
何を今更。
「・・・影志。アキだよ、アキ。」
蕗が呆れながらサワタリエイシに説明する。
それでもヤツは理解して無い様子。
「は?アキって、オマエが好きだっていう女だろ。そいつ、湯口っていうんだぜ。」
「湯口明菜。・・・アキだよ。」
「え!?オマエがアキー!?アキって、湯口のことだったのかよー!!」
「・・・今頃気付いたのか。遅すぎ。今まで何度も話してたって言うのに。」
「だって湯口がアキだ、なんて説明なかったじゃねーか。」
「説明しなくたって分かるだろフツー。何度も昔から会ってんだし。」
「あ、どーりで。どっかで見たことある顔だと思ったんだ。」
なんかすっごいムカつく。なにこの態度。頬杖ついて、偉そうな体勢だし。
「ねぇ、ほっぺた思いっきりぎゅーってひっぱってもいい?」
私の突拍子も無いセリフに、サワタリエイシは豆鉄砲を食らった鳩のように驚く。
「は?」
「前からずーっと思ってたんだけど、あんたにはスゴク腹が立ってるの!
私は一度も蕗と同じクラスになったことが無いのに、あんたばっかり何度も蕗と同じクラスになっているし、蕗といつも一緒に居るし!」
「・・・クラス分けは俺、関係なくね?」
呆れた様子でこっちを見てる。そっ・・・そう言われれば・・・
で、でも!!
「遊ぶの邪魔されたときもあったんだから!」
「いつの話だよ、それ・・・。」
また呆れ顔。
ど、どうしよう。何て言ってほっぺたをひっぱらせてもらおうか、と考えていたら、
思いがけず蕗の声が降ってきた。
「アキ・・・超かわいい。」
蕗は嬉しそうに目をキラキラさせて抱きついてきた。
「ちょ・・・ちょっと!」
抱きつかないで、って言おうとしたら
「そんな風にいつも思ってたわけ?知らなかった。」
なんて嬉しそうに言うもんだから、言いそびれてしまった。
後ろでサワタリエイシが「蕗ー、可愛いって言うトコ間違ってるから!」って突っ込んでたけど無視。
「ここ・・・教室・・・だから。」
やっとのことでそれだけを言い、蕗から無理やり離れる。
顔が熱い。
「もう図書館戻りたいんだけど・・・。戻っていい?」
恐る恐る蕗にそう聞くと、「だーめ」って。
・・・蕗。
幸せすぎるんだけど・・・そろそろこの教室に居るの・・限界。
+++
帰りのSHRが終わって直ぐ、蕗がE組に勝手に入ってきて一緒に帰ろうって言ってきた。
なんだか、中学の時みたいだ。
直ぐに「うん。」て返事をする。
蕗、急いできてくれたみたいで、すごく嬉しかった。
さっき、B組で受けたように、視線がスゴク痛いのだけど・・・。
む・・・無視だ!無視!
信じられない、だとか、いやーな視線で見てくる人が居る中、
藍莉と桃香だけはニッコリ笑ってこっちをみていた。
さっき、二人に全部話したんだ。今までのこと。
二人とも、ビックリしてたけど、良かったね、って言ってくれた。
恥ずかしかったけど、うん、って頷いた。
杏にもちゃんと報告したんだよ。
一番蕗とのことで、一緒に悩んでくれた人だから。
メールで事情をさらっと報告して終わり、と思ったのに、すぐに電話が掛かってきて・・・
杏、電話の向こうで泣いてた。
それを聞いてこっちがもらい泣きしそうになったよ。
普通逆なのに。
私の周りには本当にいい子がいっぱいだ。
私は蕗に手を引かれて、帰路を辿っていた。
蕗と触れている左手に神経が集中する。
イキナリ、手を広げられて、手を絡めるような握り方に変えてきて、ドキッとした。
そして、今まで引っ張っていてくれたように歩いていたのに、歩く速度をほんの少し落として、私の隣に並んで歩くようになった。
傷つけて、傷つけて、もう駄目だって思ったけど、
また蕗と一緒に並んで歩けるようになった。
私はそれがすごく嬉しくて、泣きそうになりつつも、それを堪えて、その代わりに手を強く握りしめる。
ぎゅって、好きだよって意味を込めて。
ねぇ、伝わってる?
私、すっごく蕗が好き。
思ってること口に出すの、恥ずかしいけど、これからはちゃんと言う。
だって、蕗は私に思ってること口に出して欲しいって、そうした方が嬉しいって言ってたもん。
素直な子が好きなんだよね?
努力するよ、私。
「蕗。」
「ん?」
「大好き・・・だよ」
END
長かったというのにお付き合いありがとうございました。
本当はこの作品、当初8話だったのに、何故か倍に・・・。
完結しましたが、この話は続き・・・と、蕗の気持ちの話と山村君の話があったりします。
よろしかったら、また読んでみてください。
hurtは傷つけるとか、そういう意味です。
傷つけたら、傷つけっぱなしじゃなくて、謝らなきゃだめだよね、やっぱ。
その後。。
蕗の視点になります。
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