藍莉の勇気ある行動のお陰で、私は藍莉と桃香とますます仲がよくなってきた。

今年最後のテストも終わって、穏やかな日々が流れていたある日。

先生が5時間目は自習にするから、好きなことしていい、っていうものだから、

藍莉と桃香と私は早めに昼食を終え、昼休みから図書館で本を読むことにした。

本を選び、さあ読もう、としたらメガネを教室に忘れてきたことに気付いた。

私は藍莉と桃香と違って常にメガネを掛けてるわけじゃなくて勉強の時とか、本を読むときとかにメガネを掛けているから、

時々移動の時に持ってくるのを忘れることがある。

折角読もうとしてたのに。。

「メガネ忘れたから取ってくる。」

そう二人に告げて、図書館を出て直ぐ、藍莉も後ろを追ってきた。

「明菜、私も教室行く。」

「うん。どうしたの?」

「レシピを写そうと思って。ノートとペン、持ってこようかなと。」

「そっか。」

藍莉は料理が好きらしい。

毎日お弁当を自分で作ってくるし、良く料理の本を読んでいる。

階段を上り、踊り場に差し掛かるとき、

ぶるぶる、と携帯が震える音がして、藍莉がポケットから携帯を取り出した。

そしてディスプレイをみて、はぁ、と落胆。

どうしたのかな?

「どうしたの?取らないの?」

「・・・うん。」

「長いね。」

「うん。」

携帯はまだ震え続け、藍莉はぴっ、と消した。

「え?いいの?」

「うん。」

少しして、また携帯が震えだす。

「出たほうがいいんじゃない?」

「・・・ごめん、じゃ、先に行っててくれる?」

「うん。」

藍莉をその場に残し、私は教室に戻る。

ざわざわしていて、ウルサイ。もう少しで5時間目が始まるのに。

ま、多分、授業が始まっても自習だからこの五月蠅さは変わらないだろうけど。

机からメガネケースを取り出し、藍莉が居るであろう階段に向かって歩いていた時、

段々と階段の下の方から、藍莉と・・・聞き覚えのある男の子の声が聞こえてきた。

ふ・・・き?

恐る恐る階段に近づき、見下ろす形で二人を見る。

やっぱり、蕗と藍莉だった。

どうして・・・どうして蕗と藍莉がそんなに親しそうなの?

接点なんてない・・・はず。

どうして?

その場で呆然としてしまい、動けなくなる。

何を話しているのかは聞き取れない。・・・けど、なんだか楽しそう。

藍莉は蕗が何かいう度にコロコロと表情を変えて・・・あんな姿、あんまり見たことない。

それだけ、蕗と親しいってこと?

ふと、藍莉が階段を見上げて、私に気付き、そして目が合った。

「あ、明菜。メガネ持ってきた?」

「う・・・ん。」

ぎゅっとメガネケースを握りしめて、足元に目線を向ける。

蕗が私を見て、目を逸らす姿を見るのが嫌だから、先に目を逸らす。

仮にこっちを見てるとしても、今、どんな表情で私を見てるのか、確かめるのが怖いから、蕗の顔は見れない。

・・・なんだか気まずい雰囲気が流れているような気がして、私はパッと顔を上げ、藍莉の顔だけ見るようにして、極めて明るく言う。

「あ・・・もうイッコ、教室に忘れたものがあった。取ってくる!」

早口で言って、階段を駆け上がろうとしたら、前に人が居るなんて気付かなくて、その人と勢いよくぶつかり、後方に押された。



え!?



落ちる感覚。

何かに掴まろうとしたけれど、掴まるものがなにも無くて。



コワイ。



オチル。



タスケテ・・・。



もう駄目だ、そう思ったときに背中に何か感触が。

そして、衝撃。


階段を背中から落ちたっていうのに、痛みは全くといっていいほど無かった。

その理由は・・・・・・

蕗が助けてくれたから。



「・・・大・・丈夫か?」

蕗の声が耳元で聞こえる。

そして、暖かい温もりが身体に伝わる。

私は蕗に抱きしめられていたんだ。

夢の中みたいな気がして、ぼーっとしてたら、

「逃げるなら逃げるで、ちゃんと前見て逃げろ。」

なんて蕗にぼそっと、呟くように言われて、私は現実に引き戻され、何も言えなくなった。

逃げるって・・・そんな・・・逃げた・・・けど。

階段の上の方から「悪いっ!」っていう男の子の焦った声が聞こえて、その人は階段を勢いよく駆け下りてきた。

蕗に手を緩められ、私は起き上がった。・・・続いて蕗も。

でも、蕗が起き上がった時、それを見てた私はなんだか違和感を感じた。

だって、立ち上がろうと左手をついた時、僅かに顔が歪んだ気がしたから。

私とぶつかった男の子が手を拝むように合わせて必死に謝ってきた。

「ホント悪かったっ。」

「あ・・・大丈夫だから・・・。私も前よく見てなかったし・・・。」

私に謝るんじゃなくて、とばっちりを受けた蕗に二人で謝るのが正しいと思うんだけどな。

私がその男の子とそんな会話をしている時、後ろにいた蕗が、藍莉にだけ「またね。」とだけ言って階段をトントンと降りていく。

え!

私は蕗の行動に気付き、慌てた。

だって、まだ蕗に謝ってないんだから。

男の子との会話を早々に切り上げて藍莉にちゃんとした話をしないまま、蕗を追いかけた。

藍莉は心配そうにこっちを見ていた。大丈夫?と訊ねられた気がしたけど、うん、って簡単に返事を返しただけ。

ごめん、後で話すから・・・今はちょっと・・。






  

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