その夜、私はずっと蕗のことを考えていた。

久しぶりだ、蕗のことを想ってて眠れないのは。

多分、蕗のことを好きな女の子を間近で見た所為だ。

あの子と蕗、何れ付き合うことになるのかな・・・

蕗が、誰かと付き合うのは、やっぱり嫌だ。

今まで、何人もの女の子と蕗が付き合い始めたって話を聞く度に、いつも嫌な気持ちになっていたけど

最近、そういう話を聞かなくなってきたから、忘れていた。こんな気持ちになることを。


もういっそ、蕗のこと、忘れたい。


楽だろうな。蕗のこと忘れられたら。

こんな嫌な気持ちになることもないだろうし。

記憶喪失になったりしたら、いいなー

嫌なことぜーんぶ忘れちゃって・・・

気分新たに・・・

なんて、そんなの良くないに決まってるのに。

ただ、逃げるだけなのに。

私が蕗を傷つけた事実っていうのは、消えない。

今でもまだ鮮明に覚えてる。

蕗の、傷ついた、っていう表情。

あんな悲しい顔、今まで見たことなかったから・・・。


あぁ、蕗と話したい。

蕗に謝りたい。

蕗の側に行きたい。

昔みたいに一緒に居たい。


実行委員会になってから、関係を修復できるチャンスは何度かあったはずなのに、どうしてそれを逃してたんだろう。

仕事に託けて、蕗に話しかけて、謝って、、って。

そうすればよかったのに。

私はいつも『たら、れば、』ばかりだ。

いつもそう。事が過ぎた後で、気付く。


一番の関係修復のチャンスは帰りが遅くなった時だった。

女の子達が、「暗くて怖いから途中まで一緒に帰らない?」って蕗に誘ってた時、

私だって怖かったんだから、蕗に素直に言えばよかった。

「一緒に帰らない?」って。

隣の家なんだし、イイって言ってくれる可能性が高いのに・・・。

それなのに私ってば、強がっちゃって、蕗に言うどころか山村君が「送ろうか。」って言ってくれたのにさえ、断って帰ったし。

あーもう!自分が嫌だ。

素直なコになりたい。


明日のクラスマッチが終われば、蕗と会う接点なんて全く無くなる。

勇気を出して話しかけてみようか。

多分明日は片付けがあったりして帰りも遅くなりそうだし。

「暗くて怖いから一緒に帰ってくれない?」って、言おう。

言えるかな。

・・・言えるよね。


そんなことを考えていたら、いつの間にか朝になっていて、全然眠る事が出来なかった。

緊張のあまり食欲も無くて、牛乳を飲んだだけで家を出て、

クラスマッチのバレーに参加したら・・・



顔面にボールを受けて、そのまま倒れた



らしい。

・・・らしい、というのは、記憶が無いから。

気がついたら家の自分の部屋のベッドに寝ていた。


授業もないことだし、早退した方がいいという保健室の先生の勧めもあって、母が迎えに来たのだと言う。

ふとベッドから窓の外を見やると、外はもう暗くて・・・一日が終わるのだということが嫌でも分かった。

最後まで実行委員の仕事をやり通したかったのに出来なくて、

片付けまできちんとやることが出来なくて、

蕗に話しかけようと思っていたのに出来なくて、、

・・・私は自分自身が情けなくて、少しだけ布団に隠れて涙を流した。

クラスマッチが終わったら蕗と会えなくなっちゃうのに。

もう接点なんて、ないんだよっ・・・。


+++


翌日、学校に行くと、皆が心配そうに様子を窺ってきて、すごく恥ずかしかった。

だって、顔面にボールが当たって、そのまま寝ちゃって・・・なんて、恥としか言いようが無い。

実行委員の仕事のこと、最後まで出来なくてごめん、って山村君に謝ったら、全然いいよ、って笑って言ってくれた。

・・・でも、あんまり嬉しくないんだよな、そういうの。居なくても大丈夫だった、って言われてるようで。

それに、山村君の態度、いつもと違くて、なんかよそよそしい感じで、嫌だった。

どうしちゃったんだろう。私、何かしたっけ?

クラスマッチの前日は普通だったのにな・・・。

てことは、クラスマッチ中に私、何かした?

そう思って、自分のしたことを思い出してはみたけれど、全然思い当たる節がない。

それに私は午前中しか居なかったんだし・・・。

ボーっと考え事をしてると、トントン、と肩を叩かれ

山科さんが急にノートの端に『山村君と何かあった?』って、書いて、それを見せてきた。

「?何も無いけど。何で?」

不思議そうにそう訊ねると、山科さんが意外というような顔をする。

「最近親しいから何か進展あったのかなぁ、って思ったの。」

「進展??」

「付き合うとか、そういうの・・・ないの?」

はぁ?

何それ。

何で山村くんと付き合うの?考えられないんだけど。

「そんなの、全然無いけど。願っても無いし。」

「え!そうなの?」

なんでそんなに驚くの?

変なの。

「・・・そっか、そうなんだ。昨日湯口さんが倒れた後、山村君が心配そうにして保健室行ったから。」

「え!?そうなの?」

意外な事実を知って驚く。

そっか。そうだったんだ・・・。

・・・ってちょっと待って、

私が倒れて、記憶がない間に山村君が私のところにきたんだよね、

で、今日、山村君の様子がオカシイ。

となると、その時に何かあったとしか考えられない。

私、何をしたんだろう。

ヘンな事口走っちゃったとか?

蕗のこととか、色々喋ってたとか?

私の頭、蕗のことばっかりだもん。

どうしよう。

恥ずかしい。

慌てて山村君の所に行き、詳細を訊ねる事にした。

「昨日、倒れた後に山村君保健室に来てくれたんだって?」

「え?あっ、う・・・うん。」

「ありがとう。・・・で、私、何か寝言とか言ってた?変な仕草でもしてた?」

「え!?」

山村君の顔が一気に複雑な顔になる。

どうして・・・?

「何でもない。何にもなかった。ただ寝ていただけだったよ。」

「そう?」

「絶対にそうだから。」

「でも、なんか様子・・いつもと違って・・・。」

「そんなことないよ!!」

なんでそんなにムキになるの?

・・・変なの。

でも、あんまり問い詰めるのもどうかな、って思ったからその場は納得したフリをして戻ったけど、

やっぱり気になる。

何があったんだろう。






  


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