一方通行



僕は恋愛なんて、全く興味が無かった。

恋愛なんてしたって、なんのメリットもないって思ってたから。

勉強の邪魔、そんなことばっかり考えてて、恋愛に一喜一憂してる奴等を横目にバカだな、って思ってた。

でも、高校に入って、無性に惹かれる相手に出会ったんだ。

僕は図書委員で、最後の戸締りをしようとしたときだった。

誰も残っていない、と思ってたのに、一人の女の子がまだ残っていた。

その子は本棚に寄りかかりコクって首をかしげて寝ていた。

すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてくる。

こんなところで寝ないでくれない?

早く戸締りをして帰りたかったから、肩を叩いて起こそうとしたそのとき、

つーって、彼女の頬を涙が伝った。

え?

僕は焦る。

何で涙が?

肩を叩こうとした手を慌てて引っ込め、その手を意味も無くぶらぶらさせる。

僕、なにも・・・してない・・・んですけど?

そして、彼女は唇を僅かに動かし、「ごめんね・・・。」と呟いた。

小さな声で。

僕はドキっとした。

心臓が・・・スゴイ速さでドキドキしてる。

何で?

ものすごく恥ずかしくなって、僕は慌ててその子から離れ、その子の寄りかかっている本棚の裏に隠れた。

彼女と本棚を挟んで対照に座る。

・・・なんなんだ、あの子。

何で泣く?

何でごめんね?

「うわ!」

急に女の子が声を出して、僕はその声にビクっとした。

でも、女の子は僕に気付いた様子もなく、さっさと図書館を出て行った。

名前も、学年も、クラスさえもわからない女の子。

それなのに僕は、涙と、ごめんねと言ったあの声だけで、彼女に惹かれてしまったんだ。

笑っちゃうくらい、バカみたいな、ホントの話。

数日後、学年とクラスを知り、そのまた数日後、今度は名前を知った。

名前は、湯口明菜さん。

彼女は特別目立つ存在ってわけじゃない。

人が沢山居る中で彼女を見つけられる自信なんて、はっきりいって無い。

でも、僕は視界に入ると無意識のうちに彼女の動きを目で追ってるんだ。

彼女はとにかく不思議な子だった。

ぼーっとしている時もあれば、「そういうことしないで!」とか、「自分で出来るから!」とか、誰かに強気な発言をしている時もある。

どっちがホントの彼女なのかな?

観察をしてみるけど、クラスが違うし、接点が無いから、良く分からない。

もっと彼女を知りたいのに。

そう願っていたら、二年に進級した時、同じクラス、しかも隣の席になった。

隣の席に彼女が座った時、平常心を装っていたけど、僕としてはスゴク嬉しくて頬が緩みそうになった。

だって、彼女を知る事が出来るし、何より仲良くなれそうだから。

でも実際はそうでもなかった。

勇気を出して話しかけても、彼女はいつもうわの空。全然会話が続かない。

僕のこと、嫌いなんじゃないか、って不安になってくる。

一度、「僕のこと嫌いなのかな?」ってボソって呟いたのを彼女の友人である山科さんに聞かれ、

「そうじゃないよ。」って言われた事がある。

どうしてそう思うの、って聞いてみたら「嫌なら避けたり逃げたりするよ」だって。

へぇ、そうなんだ。

それを聞いて僕は安心した。

まだ避けられたことも、逃げられたこともない。

僕はまた彼女に話しかけた。

相変わらず会話は続かないけど、それでも僕は充分だった。

話してみて分かった。

行動をみて分かった。

彼女は、いつもなんにでも一生懸命で・・・。

言動から気が強そうに見えるけど、ホントはそうでもなかったんだ。

しっかりしてるようにみえて、抜けてるところもある。

それが何とも可愛くて仕方が無かった。

俺もバカになったな、なんて思ったけど、それが嫌だとは思わなかった。

誰かのことを考えて、試行錯誤するのって、結構面白いじゃないか。

この話だったらのってくれる?

興味もってくれる?って、考えるのが楽しい。

僕は、彼女との話のためだけじゃないけど、色々なものに興味を持っていって、視野が広がっていく気がした。



ずっと、このままで居れて、段々と仲良くなっていける、と思っていたのに、

夏休みを終え、新学期を向かえた頃、席替えがあり残念なことに彼女と離れてしまった。

夏休みの話をいっぱい聞こうと思ったのに。ガッカリだ。


+++


「クラスマッチ実行委員に誰かなってくれませんか」

そう学級委員から言われ、誰も何も言わない。

それもそのはず、クラスマッチ実行委員とは、聞こえはいいが、実際にやることは雑用だから。

そんなことに誰もやりたがらない。

僕もやりたくない、って思ってたけど、委員会に入ってない人が集まって決めて、といわれて渋々前に出る。

どうやって決めようかー。

誰かがそう言い、決め方で悩んで時間を食う。

もう、なんでもいいじゃないか、誰かやってくれない?

他人事のように思っていたら、女子の方が決まった、と誰かが言った。

女子って誰?

皆が興味津々で実行委員の片割れを見に行く。

僕としては相手なんて誰でもいい、誰かやってくれないかな、ってずっとそんな風に思ってた。

でも

「女子は湯口さんだって」なんて聞こえてきて俄然やる気が出てきた。

でも、直ぐにやる!って言うのもどうかと思うし、最初は興味なさげにしていた。

どうする?

皆が複雑な表情。

相手が湯口さんだとわかって悩んでる様子。

嫌だ、と言わないけれど、いい、とも言わない。

どっち?

皆は湯口さんが好きなのか?嫌いなのか?ハッキリして欲しい。

ある男が言った「なんでもいいや。」って。

それにつられて、皆も「俺も。」って。

なんでもいい、ってことは、どっちに転んでもいい、ってこと?

やりたいわけじゃないけど、やってもいい、っていう曖昧なことを皆が皆言う。

なんだそれは。

僕は言った。

「じゃ、僕やる。」と。

「いつまでこうしてても一向に決まらないし、湯口さんとなら隣の席になったこともあるから、やりやすいと思うし。」

なんて、言い訳がましいことも言った。

皆は複雑な顔したけど、じゃあ、なんて言って僕はクラスマッチ実行委員の座を射止めた。

僕は内心喜んでいた。

また彼女と接点が出来たことを。

今度はうまくやる。

絶対に、仲良くなってやるって、思った。


+++


彼女と実行委員になって、僕は知った。

彼女に好きな人が居る事を。

彼女は何も言わない。でもちょっとした行動とかで、アイツのこと好きなんだな、って気付いた。

名前は剣持蕗。

そいつは同じクラスマッチ実行委員になった他のクラスのヤツで、結構カッコいいと有名。

でも、他の意味で有名でもある。

女に不自由しないヤツだ、って。

遊んでるって。

僕としては、そんなヤツを彼女が好きになるなんて、信じられなかった。

湯口さんにアイツは相応しくない。

どうしたらいい?

どうしたらアイツを諦めて僕を見てくれる?

考えたけど、名案は浮かばない。

ま、僕はじっくりと時間をかけて自分を好きになってもらえればいいやと思い、

まずは仲が良くなることを目指した。

幸いなことに、彼女は前よりも話をしてくれるようになり、仲が良くなるのにそう時間は掛からなかった。

多分、実行委員がクラスで僕と彼女の二人っていうのが大きかったと思う。

もしも、実行委員がクラスで男女2名ずつ、だったりしたらこんなに仲良くなれなかったんじゃないかな。



クラスマッチの前日、自分の仕事の分担が終わり、ちょっと図書館に寄って、帰ろうとしたら

湯口さんが仕事をしているだろう教室の電気がついていることに気付いた。

まだやってるのかな?まさかね。

そんな風に考えて覗いてみたら・・・居た。

しかも一人で。

「お疲れ。まだやってたんだ。」

「うん。」

「電気がついてるし、もしかしてって思ったけど、ホントにいるとは・・・。一人?他の皆は?」

「・・・用事あるんだって言って帰った。」

皆?そろって?

おかしいと思わないのかな?多分、押し付けられたんだよ、きっと。

彼女が健気にやってる姿をみて、僕は居ても立っても居られなくなった。

「そうなんだ。・・・手伝うよ。」

荷物を床に下ろし、彼女の側に近づいたら、すごい勢いで断られた。

「いい、いい!自分で出来るから!!」

「自分で出来るって言っても・・・。まだこんなに残ってる。」

「いいの!!」

全く。なんでそうなんだよ。

「なんでそう一人で全部やろうとするの?出来るわけ無いって自分でも分かってるでしょ?」

「・・・出来る!・・・出来るから・・・ホントに帰っていいから。」

出来るって言ったって、今にも泣き出しそうな表情。

「・・・ホントにいいから。」

声を絞り出すようにいうけど、そんなの全然説得力が無い。

はぁ、と小さくため息を吐いてから、言う。

「湯口さんてさ・・・、時々そういうトコあるよね。

誰かに頼りたくないって気持ち、分からなくは無いけど、状況によっては人に頼ることだって必要なんじゃないの?」

「でも、頼ったら駄目なんだもん・・・。私、誰かに甘えたくない。しっかりした人になりたいから!」

「・・・でもさ、そんなに気を張って頑張っても、疲れるだけじゃない?

辛いでしょ、そんなの。

しっかりした人って・・・誰かに頼らず自分で何でも出来る人ってわけじゃないと思うけどな。」

だからもっと僕を頼って。

僕を必要として。

僕は君の力になるから。

他の誰か、じゃなくて、僕を頼ってくれない?

僕は君の為なら、なんでもしたいって思うんだ。

・・・そう口に出したら、困った顔をするかな?

それとも怒る?

何パターンか考えてはみたけど、

その後直ぐに彼女を残して帰ってしまった女の子達が戻ってきたことで、僕は思ってることを口に出すことは無かった。



そして、翌日のクラスマッチで、僕は思いがけず衝撃的な事柄に出くわすこととなる。


湯口さんが試合中、ボールを顔面に当てて保健室送りになったんだ。僕は心配で、保健室に向かった。

保健室の扉をそーっと開け、中の様子を窺う。

中は静かで、保健の先生も居ない。

おかしいな。

すると、ベッドのところで、カーテンの隙間から誰かがキスしているのが見えた。

うそだろ、こんなところで。

・・・って、ちょっと待て。あいつ・・・剣持!

ま、まさか・・・湯口さん・・。

焦って、ちょっと後ずさりしたら、勢い良くカーテンがバっと開いた。

やっぱり、剣持蕗だ。

ちょっと怒ってる様子?正直コイツは苦手だ。思いっきり睨まれたこともあったし。

「何か用?」

「アンタこそ・・・なっ・・・何してんだよ!」

精一杯強がって言ってみる。

「何って・・・見てたなら分かるだろ?キスだよ。」

「湯口さん・・・寝てる・・んじゃないのか!」

「・・・なぁ。オマエ、アキのこと好きなの?」

「ちっ・・・違う!」

咄嗟に出た嘘。

だって、ホントのことなんて、コイツにいう必要は無い。

「あ、そ。

じゃ、なんでも無いなら出てってくれない?俺、今、ものすごく邪魔されたくないから。」

「・・・邪魔って。」

「アキと二人になりたいんだけど。」

・・・アキって、そう言った。

そんなに親しい間柄なのか?

「アンタ・・・湯口さんの何なの?前に友達?って聞いたら違うって首振ってたけど。」

剣持はニッコリと笑って言った。

「確かに友達じゃないね。俺、アキの彼氏だから。でも、付き合ってんの内緒にしてるんだから、言うなよ。

アキにも、今、見たこと、ナイショな。

アイツ、恥ずかしがって学校来れなくなっちゃうだろうし。オマエは何も知らない、見なかったフリしてくれよ。

もしバラしたら・・・思いっきり後悔させてやるからな。」

こいつ怖い!

ホントに湯口さん、こいつと付き合ってるの?

信じられない。

嘘だろ。

嘘に決まってる。

認めたくない。

僕は落ち込んだ。

彼女がもう既に誰かと付き合っているなんて、知らなかった。

湯口さん、そんなこと一言も言ってなかったし。

・・・でも、彼女って人にそういうこと言うタイプじゃないもんな。

ショックでもう何も考えられない。

間もなく保健室の先生が戻ってきて、もう心配無いから体育館に戻りなさい、と言われた。

剣持は、保健の先生と何か話を交わしていたけれど、僕は一足先にふらふらと体育館に戻る。

頭の中では湯口さんと剣持のヤツが・・・っていう嫌な想像が巡ってる。

裏切られたような気がするのは何故だろう。

勝手な被害意識。

はぁ・・・。

もう何度目かも分からないため息を吐いた。


翌日から、湯口さんと前みたいに接することが出来なくなって、

何となく緊張してギコチナイ態度をとってしまうようになった。

なんでかというと、いつも湯口さんを見ると剣持の顔がちらつくから。

でも、本当に二人は付き合ってるんだろうか?

誰の口からもそんなこと聞かない。

噂にならないなんて、どうしてだろう。

あの剣持と湯口さんだっていうのに。

・・・まさか、剣持のついた嘘?

でも、そんな嘘つく理由が分からない。

アキ、って呼んだのだって、何となく呼びなれているようで・・・。

保健室の先生だって、「さっきこの子すごい顔して走ってきてね、余程心配だったみたいで」なんてちょっと笑いながら言ってたし。

どっちなんだろう?

付き合ってるの、付き合ってない?

湯口さんの口からちゃんと聞きたいけど、怖くて聞くことは出来ないな。


+++


3学期になって、また席替えがあった。

今度こそ、また湯口さんの隣に・・・って思ってたら、やっぱりなれなくて、

僕の隣には湯口さんの友達の天草さんが座るようになった。

隣の席にはなれなかったけれど、湯口さんは良く僕の近くに来てくれるようになって嬉しい。

僕に会いに、じゃなくて、天草さんに会いに、だけどそんなのどうでもいいんだ。

毎日、挨拶を交わせるんだから。

・・・でも挨拶は交わすけど、親しい話はあまり出来ない。

したいけど、出来ない。

僕の心は複雑だ。

相変わらず剣持と付き合っているっていう噂とか聞かないんだけど、今はどうなんだろう。

剣持のことだし、もう別れた、かな?

これはもう、周りから情報を得るべきだって思って、湯口さんと親しい天草さんと、僕も親しくなろうと思い立って色々話しかける。

でも、天草サン、あんまり情報知らなかったんだよな・・・。

付き合ってるって話、聞かないとか言って。

・・・友達にも内緒にするって、どういうこと?何か問題とかあるの?

気になる・・・気になる・・・気になる。

でも聞けない!あーもう!


+++


暫らくして、何故、この時期に、っていう時に剣持が教室に湯口さんを迎えに来たんだ。

「アキ、一緒に帰ろー。」って。

もう誰の目からも分かるほど、二人が付き合ってる、って分かった。

知らない皆は唖然っていうカンジで、とにかく驚く。

信じられないと、そう口にする人もいた。

そんな中、僕はずっと、湯口さんの表情に釘付けだった。

だって、彼女、見たこともない笑みで微笑んでいたんだ。

それを見て、納得せざるを得なかった。

彼女が剣持と一緒に居て、幸せでいる、ということを。

僕は彼女を誰よりも見ていて、誰よりも分かっていたつもりだったけれど・・・

いつか、僕のことをみてくれて、思いが通じるんじゃないかって思ってたんだけど・・・

それは間違っていたんだ。

・・・バカだな。

自惚れていた自分に無性に腹が立つ。

もう無理だ。彼女に気持ちを伝えることも、両思いになれる、なんてことも無いだろう。

それは二人を見ていて分かったこと。

何故か二人は普通の恋人同士と違って見え、

誰も間に入ることが出来ないと、そう周囲に感じさせるオーラがあったんだ。



その理由は数日後、分かることになる。

聞いた話によると、湯口さんと剣持は幼馴染で昔は仲が良かったけれど、最近までケンカをしていて絶交状態だったらしい。

付き合い始めたのは、剣持が迎えに来たあの日から。

つまり・・・僕は剣持に騙されていたんだ。

保健室で、付き合ってる、なんて言ってたのは嘘だった。

あいつめ!!

もし、あの時、僕があのことを聞いてなかったら、もっと湯口さんと親しくなれた可能性だってあったのに!

なんてことをしてくれたんだ!

・・・でも、剣持の嘘を信じた僕もバカだから、しょうがないと言えば、しょうがないのだけれど。

なんだか情けなくて、泣きたくなる。






恋愛なんてしたって、なんのメリットもないって思っていた僕だけど、

メリットとかそういうの関係なく、湯口さんに出会えて、恋をして良かったと思う。

何事もムダじゃない。

経験をしたからこそ、次に繋がる気がする。

取りあえず、今はまだ彼女のことが好きで、想い続けているけど、きっとこの気持ちは段々と友情へ変わる気がする。

・・・変わらなくても、無理にでも変えていかなきゃいけないとも思う。


僕も、いつかいい人と巡り会えるかな。

願わくば、今度は僕のことだけを見てくれる人に出会いたい。



一方通行な想いはもう、したくないから。









END



山村君は、a roof gardenで藍莉のことが好きかと思いきや、実はアキが好きだったんだよーって話。

藍莉のことは、興味を持ってるだけで、それは好きとか、そういう感情じゃなかったりします。

藍莉には、好きな人いる?とか付き合ってる人いる?とか聞けるくせに、本当に好きな子(アキ)には聞けない。

書いてないけど、アキとは恋愛の話を一切しなかったんだよ。どういう人がタイプだとか、怖くて聞けないの。

だからこそ、藍莉と親しくなって、色々詳しく聞こうと思ったり、藍莉に協力してもらろうかとも思ってたりした。

結局、無理だったけど。

山村くんは、好きって、アキにハッキリと言っては無いけど、自分の行動とかで、好きだって気づいてるんだろうなとか思ってた。

でもアキは鈍感だから、全然山村くんの気持ちには気づいてない、と。(笑)

周りには「山村君てアキのこと好きなんじゃないのー?」って薄々気付かれてるのに。。。

・・・可哀想な山村くんでした。






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