「アキー。2月14日って何の日か知ってる?」

急に後ろから蕗が抱きついてきて、そんなコト言うからビクッとした。

蕗の身体が背中に当たってるし、

耳の近くで話すから息が耳にかかって、ドキドキするんだけど!!

私はやっとのことで、「・・・知ってる。」と小さな声で答えた。

私ばっかりドキドキしてて、蕗は平然と抱きついたまま話を続けてくる。

「今年は今までとは違ったチョコね。

ホラ、久しぶりだし、付き合って初めてのバレンタインだし。

昔くれたみたいな義理チョコじゃなくて、

アキの気持ちがいーっぱい詰まったチョコがいいな。

ま、別にくれなくてもいいんだけど、くれなかったらその分イロイロしてもらうから。」

そう言って、今度は私の顔を見て、

微笑んでそんなことをさらりという蕗が恐くてたまらない。

イロイロって何?!

なんだかわかんないけど、すっごい危険な気がする。

これはもう、あげなきゃだめだっ。

でも、今までとは違ったチョコって何!?

気持ちがいっぱい詰まったってチョコって?

これは・・・手作りチョコを作れと言うことなんだろうか。

ど・・・どうしよう。私、手作りチョコなんて作れないよ。


+++


学校へ行くと、皆、チョコレートの話ばかりしていて、

聞きたくなくても耳に話が入ってくる。

もうヤダ。バレンタインなんてなくなっちゃえばいいんだ。

・・・でも、そんなこと言っても、バレンタインはなくならないし、

どうしよう、どうしようと悩んでいるうちに、

時間はもう刻々と迫ってきて、結局バレンタインはもう明日になってしまった。

買ったチョコをハイって渡しちゃえば楽だし、いいと思うんだけど、

それをやったら蕗が恐いし。

女の子たちは皆、雑誌のチョコレート特集や

料理の本を囲んで話をしてる。

そんな本を読んで分かるの?

私は昨日、本屋さんでチョコレートの本をいっぱい見てみたけど、

どれもよくわかんなくて、結局買わないで帰ってきちゃったっていうのに。

あーあ、なんか簡単に作れるチョコレートのお菓子ってないかな。

ふと、教室の隅を見ると、友達の藍莉が本を読んでいるのが見えた。

でも、全然ページを捲ってないところをみると、読んでないのかもしれない。

あ!そうだ!藍莉なら料理が上手だし、

簡単に作れるチョコレートのお菓子とか知ってるかもしれない。

でも、聞くのちょっと恥ずかしい気もする。

蕗に作ってあげようとしてるのバレバレだもん。

こんなことしてる自分が恥ずかしい。

・・・でも、聞かないといつまで経っても悩むだけだしなぁ。

よし、恥なんて捨てて聞こう!

私は立ち上がり、藍莉に話しかけに言った。

「ねぇ・・・藍莉。」

「なぁに?」

「相談が・・・あるんだけど。いいかな?」

私がそう言うと藍莉はコクン、と頷いてくれた。

人に聞かれるのが恥ずかしいから、藍莉の耳元で言う。

「簡単に作れるチョコレートのお菓子教えてくれない?」

藍莉はそれを聞いて、いいよ、と言ってくれた。

「・・・あのね、手作りのチョコレートって渡した事無くて。

本を読んでも分からないし、難しいのは出来ないし・・・。」

「蕗君は甘いものは好き?」

「うん。」

「ケーキとかクッキーみたいなお菓子と、トリュフとか生チョコみたいなチョコレートだったら

どっちがいいかな?」

藍莉はそう言って、さらりと提案してくるけど、私にはどっちがいいのか決められなくて、

申し訳ないんだけど、と思いつつ、

「なんでもいいの。簡単に作れるなら・・・。」と答えた。

藍莉は少し困った顔をして、

「簡単なもの・・・。でもちょっと凝ってたほうがいいよね?

チョコレートを溶かしただけだったら誰でも出来ちゃうし。

・・・今後のことを考えたらやっぱりケーキかな。」

「今後のこと?」

私がそう訊ねると藍莉はニッコリ微笑んで答えた。

「うん。スポンジケーキの作り方を覚えておけば、応用が利くと思うの。

お菓子作るのこれが最後ってわけじゃないでしょう?

きっと役に立つと思うんだけどな。」

私は今後お菓子を作る姿を想像してみた。

なんか素敵な女の子っぽい!

私は、果然やる気が出て、教えてほしいと改めてお願いした。

実際に一緒に作って教えてもらいたかったけれど、

予定が合わなくて間に合わないということで、それが出来なかった。

もっと早く藍莉に相談していれば良かったのに!バカバカ!

結局、藍莉が作り方を書いた紙を明日渡してくれることになったけど、

それでちゃんと作れるのか正直自信が無い。

うまくいきますように・・・。


+++


唇に感じる感触。

なにかと思って目を開けてみたら・・・

え?何?

ぼやけた視界が段々鮮明になっていき、

「あ?起きた?」なんていう声と共に、蕗の姿が視界に入った。

まさかまた!!

慌てて唇に手を当ててみる。

感触がなんか残ってるし!!

「ふ・・・きっ!!」

私が睨むように蕗にそう言うと、蕗は満面の笑みを浮かべて、

「おはよ。」だって。

おはようじゃないよ、全く!

また家に勝手に入ってきて、しかも今・・・!

「ま・・・また勝手に!!」

私がそう言うと、蕗は唇に親指を当てて

「じゃ、起きてる時にスル?」って、こっちを窺ってくる。

「しないよ!」

私は一喝して、蕗を部屋から追い出す。

ドア越しに蕗は文句を言ってくる。

「部屋から出すことないじゃんか。」

「着替えるの!!」

「別にいいじゃん。隠さなくたって。」

パジャマに手をかけて脱ごうとしたその時、ドアを少しだけ開けて

蕗がこっちをじっと見てきた。

「手伝おっか?」

「し・・・信じられない!バカ!」

バタンと勢い良くドアを閉めて、ドアの前に椅子を置いた。

これで蕗は部屋に入ってこれない。

私は安心して・・・でも、急いで着替えを済ませた。

部屋から出ると廊下に蕗の姿は無かった。

不思議に思いながらも、私は洗面所に行き、支度を整える。

そして、荷物を持ち、階段を降りてダイニングに行ったら、

居るはずの母さんが居なくて、代わりにエプロンをつけた蕗が立っていた。

「・・・な・・・んで?」

「え?聞いてなかったの?今日母さんたち日帰りバスツアーだよ。」

「そうだった・・・。お弁当!!」

私と蕗の母さんは仲が良くて、良く二人は揃って出かける。

忘れていたけど、今日は朝早くから出かけるから、

お弁当は自分で用意するように、と言われていたっけ。

前もそんなことがあったけれど、忘れててあの時は慌ててコンビニでパンを買って持っていった。

今回もそうするしかないか・・・と思っていたら、

テーブルの上には、お弁当箱が二つ並んでいて。

「え!?」

私が近づいてお弁当箱を覗くと、

その一つ一つに、肉そぼろ、炒り卵、ピーマンの炒め物が綺麗に飾ってあった。

「おかずとか作るのめんどくさいし、三色弁当でイイ?」

いいに決まってる!

何この素敵なお弁当!!嬉しい!!

私は感激してお弁当を眺めた。蕗すごいよ。こんなに美味しそうなお弁当を作れちゃうんだもん。

「蕗すごーい。」

私が尊敬の眼差しで蕗を見たら、蕗はすっごく嬉しそうな顔をした。

「じゃ、朝ごはんにしよっか。」

蕗がそう言って、私はうん、と言いながらテーブルに着く。

朝食はトーストと目玉焼き。そしてサラダ。

いっただきまーすと言って、トーストを口に運ぼうと大きな口を空けたら、

視線を感じて動きが止まった。

向かい合っている席で、蕗が自分の朝食に手をつける前に、こっちを見ているのだ。

しかも満面の笑みで。

・・・そんなにじーっと見ないでよ。

「・・・何?」

「なんか、こういうのいいなーって思って。」

「え?」

「なんでもない。」

蕗はそう言うと、フォークで口にサラダを運んだ。

私は嬉しそうな蕗を見ているだけで、私も嬉しくなった。

一緒にご飯を食べた後、

私が片付けをするといって、洗い物をし、終わったと思って振り向こうとしたら、

蕗が後ろから抱き付いてきた。

「アキー。そろそろくれる?」

「・・・なっ・・・にを?」

「今日は14日。」

「・・・わかってる・・・けど、夜まで待って。」

私がそう言うと、蕗は手をパッと開いて私を解放した後、

横から私の顔を覗き込むようにして見て、「もしかして用意してないの?」と。

私は慌てて、「夜には渡すから!」と言ったけど、

蕗は、ニヤリと笑って「別にいいけどね、無理して渡さなくても」と言った。

くくくっ、と笑う蕗がなんだか腹立たしく思えてきて、

私はテーブルの上に置いてあったチョコレートの箱からトリュフを一粒取って、

ひとさし指で蕗の口に押し入れた。

急にチョコを入れられてびっくりした顔の蕗に

ベェってしたのに、

蕗は怒るわけでもなく、微笑むから更に腹が立つ。

私が文句を言おうかとしたら、急に顎を掴まれて、蕗の顔が一気に近づいてきてキスされた。

最初は触れるだけのキス。

それから、少し溶けたトリュフが私の口の中に入ってきて・・・

私はビックリして蕗を突き飛ばそうと胸を両手で押したのに

蕗ってば、ビクともしない。

暫らくして、気が済んだのか、唇を放すと

「チョコおいしーね。」なんて言ってペロリと舌で唇を舐めた。

私は怒りたかったけど、なんだか一気に疲れて力が抜けてしまって、

床にペタンと座り込んだ。

そんな私を見て、蕗が「だいじょーぶ?」と爽やかな笑顔で訊ねてきたけど、

無性に腹が立って、私は蕗を睨む。

でもそんな睨みも蕗には全然効かなくて、

むしろ上機嫌になって、「一緒にガッコー休もうか?」なんて言ってきた。

もう!信じられない!

私は慌てて立ち上がって、玄関に向かった。

「学校行く!」

そこで初めて蕗が焦ったように、「待って!アキっ。」と言って、後を追ってきた。


+++


学校へ行くと、やっぱりバレンタインだからか、

学校内の雰囲気がいつもと違っていた。

男の子も女の子もそわそわ、そわそわ。

イベントみんな好きだなぁ、と思いつつ、

私は観察する側に回った。

今まで、そんな余裕全く無かったくせに。

蕗はモテていて、バレンタインに流れる噂が多く、

聞きたくなくても噂が耳に入ってきて、

その度に私は密かに一喜一憂していたんだ。

でも今年は落ち着いていられた。

今だったら、何を聞いても大丈夫だと思う。

だって蕗が朝、別れ際に「アキ以外のチョコは貰わない。」、

「俺が好きなのはアキだよ。」って言ってくれたから。

蕗が他の女の子からチョコを受け取るんじゃないか、ってちょっと心配していた私は、

その言葉で一気に安心して、今に至る。

我ながら単純な思考回路してると思うけど。

それより・・・流れてくる噂を聞いていると、

サワタリエイシについての噂が多いような気がする。

アイツと付き合っている藍莉はどんな気持ちでいるんだろうと、

チラチラ観察してみるけど、

平然としていて、いつもと変わらない様子。

不安に思ったりしないのかな。

お昼の時に会話の流れで「彼氏が他の女の子からチョコ受け取っても平気なのか」と訊ねたら、

「別に。私には関係ないことだし。」なんて、返ってきた。

「関係ない?どうして?

チョコを貰うってことは好きっていう気持ちを受け取るってことじゃないの?

私だったら嫌だけど・・・。」

私がそう言うと、藍莉は、

「・・・でも、チョコを受け取ったからってその子を好きだとは限らないんじゃないかな?

断るのだって大変だと思うし、私は受け取ってもいいと思ってるよ。」

なんていうから、びっくりした。

断るのだって大変だなんて考えてもいなかった。

確かにそうかもしれない。

でも・・・私は藍莉みたいにはなれないよ。

きっと蕗が他の女の子からチョコを受け取ったら、嫌な気持ちになるもん。

藍莉って心が広くて、凄いなって、改めて思った。


+++


放課後。

私はSHRが終わると直ぐに教室を出て、早く帰ってチョコレートケーキを作ろうと思って

昇降口に向かったら、ちょうど靴を履きかえるところで蕗とサワタリエイシに会った。

サワタリエイシは蕗の親友で、藍莉の彼氏でもある。

こんなところで二人に会うなんて。

私は正直、蕗に会っちゃって、マズイなって思った。

メールで、「今日は一緒に帰れない」って伝えたのに

こんなところで会っちゃったら蕗は絶対に一緒に帰ろうって言って、

ずっと私の家に居座る気がする。

「何、その顔。まるで俺と会いたくなかったみたいな顔してる。」

私の思ってることが読まれたみたいで、蕗はちょっと怒ってる。

「別にそうじゃないけど・・・。

これから二人で出かけるの?いってらっしゃい。」

私は淡々とそう言って、靴を履き替えた。

そして走りだそうとしたら、ぱしって手首を蕗に掴まれた。

「なにそんなに急いでるの?折角だし一緒に帰ろ。」

「えっ。」

「嫌なわけ?」

「・・・そういうわけじゃなくて。

ホラ、サワタリエイシ居るじゃん。」

「俺はこれから藍莉んちだもん。今日は泊まり〜。」

とっ・・・泊まりって!

「何、想像してんだよ。やらしー。」

サワタリエイシがからかうようにそう言ってきて、かなり腹が立つ。

「想像なんてしてないもん!」

絶対聞こえてるはずなのに、サワタリエイシは聞いてないフリをして、

私に構わず蕗に話しかけた。

「E組も終わったっぽいし、俺、約束の時間より早いけど行くわ。

アイツんちの近くのコンビニで時間つぶしてれば、

来た時すぐに分かると思うし。」

「わかった。じゃーな。

アキ、行こう。」

うぅー・・・やっぱこうなるしー。

私は蕗に手首を引っ張られながら、

上機嫌の蕗を見る。

「帰ってなにしよっか。母さんたちが帰るまでまだたっぷり時間があるし。」

やばい、このままの流れで行くと、ケーキを作る時間なんて無くなる。

もう隠すことなく、正直に言おう。

「蕗。ケーキを作りたいから家で待ってて。」

「うん。言われなくてもアキん家行くつもりだったし。」

「違くて。自分の家に居て。」

「やだよ。」

・・・ホラ、こう言うと思った。

もう!!

家に着いて、鍵を開け、ドアを開けて自分だけ中に入ろうとしたけれど、

蕗の強い力でぐって強引に押され、結局蕗も家の中に入ってしまった。

私は諦めて言った。

「もうわかった。居てもいいから、キッチンには来ないで。

絶対ね。覗いちゃだめだよ。」

「そう言われると覗きたくなっちゃうよね。」

「駄目!」

「わかったって。」

この顔・・・信じられない。

「じゃ、家に居てもいいってことになったし、着替えてくる。」

蕗はそう言うと、クルリと後ろを向いて、ドアに手をかけた。

「そのまま呼ぶまで来なくてもいいけど。」

私がそう言うと、蕗は再び振り、

「ヤダね。」と言い捨てると本来の自分の家に帰った。

此処で鍵を掛けても、どうせ蕗は、蕗の家に置いてある私の家の鍵を使って、

家に入るだろう。

私は鍵を閉めることなく階段を昇り、自分の部屋に戻って着替えを済ませた。

そして鞄の中から藍莉に貰ったレシピを取り出し、キッチンに向かい、

エプロンをつけると、腕まくりをして気合を入れた。

よし。やるぞっ。

えーっとまずは・・・

ボールに卵白を入れて・・・って、卵白?

なんで黄身と白身を分けるの?

・・・・・・深く考えちゃだめだっ。

書いてある通りにちゃんとやろう。

レシピを必死になって睨んで、その通りにやってみる。

美味しくなりますように。

気持ちを込めて、ゆっくりゆっくり・・・

なのに!!

どうして!!

うまくいかないのーー!!

オーブンから取り出したスポンジは、ふわふわじゃなくて、

固い気もしなく・・・ない。

レシピ通りに作ったはずなのに、どうして?

どうしよう、って思っていたら、

「いい匂い。」と、声が。

いつの間にか蕗が近くに来ていて、焼きあがったばかりのスポンジを見ていた。

「蕗っ!来ちゃだめって言ったじゃん!!」

そう言って、蕗をキッチンから追い出そうとしたけど、

蕗は動かなくて。

「これ、失敗なの?」

意外そうにそう言って、指でスポンジを指す。

私が俯いて何も言わないで居たら、蕗は、

「失敗に見えないよ。」と言ってくれた。

でもそんなの嘘に決まってる。

ココア色のスポンジは薄くて、スポンジっぽくない。

・・・作り直したい。

「ねぇ、蕗。もうちょっと待って。もう一回作りたいから。」

私は蕗の顔をじーっと見てそう言ってみた。

でも蕗から返ってきた言葉は「嫌だ。」の一言。

「もう待つのヤダ。どうしてもっていうなら俺も一緒に作る。」

「え!?一緒に作るって・・・!」

蕗にあげるものを蕗と一緒に作るなんて。

そんなの嫌に決まってる。

「ヤダよ!」

「どうして?足引っ張らないと思うけど。」

それはわかってる。蕗の料理の腕は認めてるし。

私が嫌なのは、贈る相手と一緒に作ることであって・・・。

「もうさぁ、作り直さなくていいから、コレでもう仕上げしてよ。

まさかコレで出来上がりとか言わないよね?」

「違うよ!刻んだ胡桃を挟んで、チョコレートクリーム塗るんだもん。」

「じゃあ早くやって。」

私はこの失敗作のスポンジでいいのかとかなり悩んだけど、

結局は蕗に急かされて、そのスポンジを使ってケーキを仕上げた。

出来上がったチョコレートケーキを白い大きなお皿にのせて、蕗の前に持っていった。

「はい・・・。」

恥ずかしくて、俯きながら差し出したら、

蕗は受け取ってくれなくて、

「何か言ってからちょうだい。」と言葉を要求してくる。

「何かって何?」

「好きとか、愛してるとか。」

うわ・・・そんなの言うの?

恥ずかしい。

顔が熱くなってきた。

でも、蕗がその言葉を望んでいるのなら、と、

私は言った。

「好き。」と。

小さな声だったけど、確実に蕗に聞こえてたと思う。

でも蕗は「聞こえないー。もう一回。」と意地悪を言ってきた。

私はもう自棄になって二度目は蕗の目を見てハッキリと言った。

「好きだよ。すっごい好き!」

すると蕗は、私の持っていたお皿を受け取り、直ぐにテーブルに置くと、

私を抱き寄せて、耳元で言った。

「俺も。・・・俺も好きだよ。」と。

なんでだろう。

蕗の言葉で嬉しくなって泣きそうになってる自分が居る。

私は蕗の肩に顔を埋め、涙を堪えた。

暫らくして、どちらからともなくキスをし、

唇が離れた後、蕗が微笑んでくれたから私もそれにつられて微笑んだ。

その後、リビングのソファーに座って、二人でケーキを食べてみたけど、

なんだかイマイチだった。

クリームは美味しいんだけど、やっぱりスポンジが・・・。

「ごめんね。スポンジ失敗しちゃって。」

「失敗は成功の元。次は上手く出来るよ。味は美味しいんだし。」

蕗はそう言って私に笑いかけ、優しく頭を撫でた。

優しいなぁ・・・そう思っていたんだけど・・・。

ケーキを食べ終え、紅茶を飲み干した後、

蕗の目が・・・というか蕗の雰囲気が変わった。

「アキ、そろそろ上行こっか。」

「え?上?」

なんだか危険を感じて、狭いソファーの上で後退る。

でも、逃げられなくて。

蕗は私の腕を掴んで、ニッコリと微笑んだ。

そして、「約束どおりイロイロしてね。」だって。

「はっ!?だってちゃんとチョコ・・・。」

「俺は、“アキの気持ちがいーっぱい詰まったチョコがいいな。”って言ったんだよ?

俺のイメージとちょっと違かったからだめー。」

「なにそれ!?イメージってなに!そんなこと言ってなかったじゃん。」

「来年頑張ろう。」

蕗はそう言ってにっと笑うと私を抱き上げた。

・・・否、正確に言うと、担ぎ上げた。

嘘だ。嘘だって言って。

「蕗、ちょっと待って。もう一回作り直すから待って。」

私が必死になってそう言ってるのに、

蕗は聞く耳持たずで、バレンタインっていいよねー、と言っただけ。

・・・ねぇ、絶対に、謀ってたでしょ。

私がどんなチョコを渡したとしても、同じこと言ってたでしょ!

そうに決まってる!





END








SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送