※蕗の視点です


学校から帰って、直ぐ、荷物を下ろしてアキん家に行こうとしたけど

リビングにアキの母さんとウチの母さんが二人で談笑してるのが見えたから声をかける。

アキと付き合うことにしたよ、って言ったら驚くかな。

報告しようと思ったら、反対に、違うことを言われて言えなくなった。

「蕗。明日から1泊2日で温泉に行ってくるから、お留守番お願いねー。」

「え!イキナリ何なの!?」

「だってー、取れたのよ、高級旅館なのに、安いのが。やっぱり前日だと安くなったりするのよねー。」

最近母さん、ネットにハマってるんだけど・・・もしかしてネットで?

呆れる。

「あ、蕗君。アキのこと心配だから、何かあったらお願いねー。」

「二家族で行くの?!」

「ちーがーう!二夫婦。」

・・・同じことだよ。

「蕗。女の子連れ込んだりしたら怒るからね。」

「しないです。そんなことは。・・・そもそも俺一度だって女連れてきたことないじゃんか!誤解を招くようなことアキの母さんの前で言わないで!」

「こわーい。」

・・・何がこわーい、だ。

「じゃあそろそろ買い物に行く?」

「そうね。行こうか。」

二人は立ち上がって、出かけようとする。

「え。どっか行くの?」

「明日の旅行の買い物にネ。ちょっと遅くなってもいいー?」

「どうぞご勝手に。ご飯は?」

「カレー作ったから食べちゃって。」

「はいはい。」

二人を送り出してから、俺は家の戸締りをし、急いでアキん家に行く。

親達が旅行って、すごいチャンス!

まだ付き合い始めたってこと、ナイショにしておかなきゃな。

久しぶりにアキの部屋に向かって、ドアを開けたら、アキはもう着替えを済ませて、複雑な表情をしてた。

「ね、アキ聞いた?」

「・・・旅行のこと?さっきメール来たもん。これから買い物行くって。ご飯も先に食べて、って。」

「1泊2日、どうやって過ごそうか?」

「・・・別に。特に何も。いつもと同じく、私は普通の土日を楽しみます。」

「ね、アキ、一緒に・・・。」

「ぜーったい駄目!やだ!」

「まだ何も言ってない!」

「言わなくても分かる!」

「一緒に寝よ?アキん家来てもいい?」

「駄目ったら駄目ーっ!!絶対ヘンなことしそうだもん!」

「何もしないって。」

「嘘だ!信じられないもん。」

「・・・ってかさ、アキがいう“ヘンなこと”ってなんなの?俺わかんない。教えて。」

「え。そ、それは・・・。」

顔を真っ赤にして、視線を泳がせてるアキをみて、俺は思わずぎゅーって抱きしめた。

超可愛いんだけど。

「ふっ・・・きっ!」

くるし、って小さな声が聞こえ始めたから慌てて放してあげる。

アキは顔が熱くなったらしくて、ふぅ、と言いながら両手で顔を扇ぐ。

「暑いの?」

「・・・ちょっとね。誰かサンの所為で。」

「ふーん。じゃ、脱いだら?手伝ってあげよっか。」

「!!・・・な、何言ってんの!?」

「はい、バンザーイしてー。」

「ば・・・バカーっ!」

アキはクッションを抱きかかえて壁の方に後ずさりする。

顔はまたしても真っ赤。

「くくっ。」

俺はおかしくて笑いが止まらない。

「ほ、ほらっ!そーいうのがヤなの。絶対にウチに入れないから!明日は来ちゃ駄目だからね!」

「えー。ヤダな。俺、アキと一緒にいたいんだけど。つまらないじゃん。」

「つまらなくない!あ・・・私、もう人呼ぶことに決めたモン。

杏っ。杏が来るってゆってた。」

「ふーん、杏ちゃんね・・・。杏ちゃんならいいや。じゃ、3人で遊ぼっか。久しぶりだな、杏ちゃんに会うの。」

「え!?だ、駄目っ。やっぱ、杏来ないってゆってた。」

「何それ・・・。」

「・・・藍莉っ。藍莉来るって。」

「もういいから。嘘ってバレバレ。藍莉ちゃんが来るわけがない。」

「わ・・わかんないじゃん!電話してみるっ。」

アキはそういうと、携帯を手にし、すぐに電話を始める。

「無理しなくていーのに。俺等二人って楽しいと思うけど?」

「・・・あ、藍莉?あのさ、急なんだけど・・・明日ウチに泊まりにこない?

親が旅行に行っちゃうんだけど・・・。

一人で・・・そう、寂しくて」

「寂しい思いなんてさせないって。」

俺はなんとか邪魔しようと、電話しているアキにちょっかいを出す。

後ろからお腹の辺りを抱きしめて、それからTシャツの裾から手を・・・

入れた瞬間、アキが悲鳴を上げる。

携帯から声が漏れて、藍莉ちゃんの「どうしたの?」っていう声が聞こえる。

そんなに驚かなくても・・・。

アキは口をパクパクさせて俺を信じられないと言いたそうな目で見てくる。

そして、強引に部屋から閉め出された。

ちっ。


+++



結局、アキん家には藍莉ちゃんが泊まりに来ることになり、俺は家に影志を呼ぶことにした。

だって、アキが相手してくれないなら暇だし。

ゲーム大会と称して影志とひたすらゲームをしていたら、なにやら隣からすごい悲鳴が聞こえてきた。

アキ!?

「影志、ちょっとストップ。今の悲鳴気になるから隣見てくる。」


急いでアキん家に行き、声がする方に行ったら台所にアキは居た。

「アキっ!」

「っ・・・蕗ぃー。」

アキが抱きついてくる。

俺に甘えてきて、超可愛いんだけど。

「・・・ん?どうした?」

「虫ーッ!!」

アキは流しにあるキャベツに指を指す。

「は?・・・虫?」

キャベツからニョロっと虫が顔を出す。

・・・あれか。

全然怖くねぇし。

でも・・・

虫、大嫌いだったっけ。アキ。

よしよし、と頭を撫でてやる。

「とってやるから。」

「蕗、素手で触るの!?そんなのしたら二度と蕗に触らないからね!」

・・・なんていう酷い言い草だ。

「じゃ、どうすればいいんだよ。」

「ビニール袋!そこにあるの使っていいから!」

「はいはい。」

虫をひょい、って取って、勝手口から外に出て庭に逃がす。

ばいばーい。

部屋に戻るとアキはじーっと袋を見つめてる。

「もう逃がしたって。」

「ついてない?」

「大丈夫だって。」

心配性だな。

「あ・・ありがとう。」

素直に礼を言うなんて!アキも進歩した!

感激してると、

藍莉ちゃんが台所に来た。

藍莉ちゃんは影志の彼女だったりする。

最近、知ったことだけど、ちょっと驚いた。

付き合いを周囲に隠しているらしく、二人が付き合ってるってことは俺だけ知ってること。

これはアキも知らない事実。

「ど・・・どうしたの?何があった?」

藍莉ちゃんがそう聞いてくるけど、アキは恥ずかしがって何も言わない。虫に怖がった、なんて言いたくないのかな?

「どうでもいいけど俺等のゲーム大会中止なんですけどー。折角俺が勝ってたのにー」

影志が藍莉ちゃんの後ろからにょって出てきて、わざとらしくそう言ってくる。

そして、

「腹減ったなー。メシ食べたいなー。」とも。

藍莉ちゃんは、

「・・・自分達でやるって言ってなかった?自分で作れば?」って冷たく一言。

でも、そう言われても影志は大して気にしてないらしく、ケロっとしてる。

これが二人の会話か、なんて関心してたら、何も知らないアキは大声で叫ぶ。

「こ、こらっ。サワタリエイシっ!藍莉にちょっかいだすなー!

蕗っ。こいつ連れて帰ってよー!」

「・・・あー。」

ちょっかいだすなって・・・もう二人は付き合ってんのに。

言いたいのに言えないって辛いな・・・。

「あ、あのね、明菜?」

藍莉ちゃんの雰囲気が変わった。

アキに話そうと、してるみたいだった。

でも、アキは全然耳を貸さない。

「藍莉っ、そいつに近づくと危険だから!離れた方がいいから!」

「・・・危険てなんだよ。泣かすぞ。」

なんてことを言うんだと、影志を睨んだら、藍莉ちゃんも同じように影志を睨んでた。

「・・・んなわけねーだろ。冗談だって。オイ、明菜ーっ。ちゃーんと聞けよ。

俺と藍莉はもう既に付き合ってるんだよ。」

アキは、それを聞いて、目を見開く。

そして、「うそ・・・。」と。

その気持ちはすごーく良く分かる。俺も聞いたときはびっくりした。

「ぇ・・・え。嘘でしょ。ヤダぁ。」

アキは泣きそうになりながら、俺にしがみつく。

なんでよ。何で泣きそうになってんの?

「藍莉がアイツと、だなんて。信じられない。」

「分かるけど・・・本人目の前にしてそれは言っちゃ駄目だろ。な?」

諭すようにそう言うと、影志が後ろで「オイ!」と突っ込みを入れてくる。

「藍莉は・・・本当にアイツのこと、好きなの?」

「ん・・・。」

「即答しろよっ!」

「好き・・・かな。今、居なくなったら困るかも。」

そう言って笑う姿は、いつもの藍莉ちゃんじゃなくて、なんだか子どもっぽく見えた。

へぇ、こんな表情もするんだ。

アキもそれをみて納得したのか、「そっか、」って言って、笑った。

影志には相変わらずケンカ腰だったけど。


+++


結局、俺ん家の戸締りしてきて、アキん家で4人で過ごすことにした。

夕飯を食べ、映画を観たりして時間を過ごす。

風呂に入り、アキの部屋とリビングに布団をひき、寝よっか、ってなったとき、

俺は当然、アキの部屋にアキと藍莉ちゃんが寝て、リビングに俺と影志が寝るもんだ、って思ってたのに、

うとうとして、もう眠りにつき始めていた藍莉ちゃんを影志が抱き上げた。

「蕗、ばいばーい。」

「!」

マジで?

お!

ってアキを見たら、その瞬間直ぐにアキはクッションを抱えて後ずさり。

・・・こいつ。

「ち、ちょっと蕗。藍莉を取り返してきてよっ!危険だよ!」

自分が、デショ?

「藍莉ちゃん寝ちゃったし、危険じゃないって。それにあの二人、付き合ってんだし。それより、寝ようよ。」

「・・・え。」

アキは、泣きそうな、複雑そうな表情。

どうしよう。

楽しい。

「電気消すから、アキ、ベッドサイドの灯りつけて。」

「う・・うん。」

ぼんやりとした灯りの中で、アキは相変わらず、ベッドの上でクッションを抱えて壁にぴったり。

「ふ・・蕗は布団ね。ベッドに来ちゃだめだからね。」

「んー、はいはい。」

俺がベッドの下にひかれた布団に大人しく入ったのに気を許してか、

アキも、もぞもぞとベッドに入り、「おやすみ」と言ってベッドサイドの灯りを消そうと手を伸ばした


・・・その手を俺は掴んだ。


「な・・・なんなの。この手は。」

「ン?掴まえてんの。」

「な・・・なんで?」

「だって、アキ、逃げるでしょ。」

掴んだ片手だけじゃなく、もう一方の手も上にあげて、両手を片手で押さえつける。

アキの上に乗ってるから、アキはもちろん動けない。

「ち・・・ちょっと待って。ホントに・・・。」

「もう充分待ったけど。」

「・・・だって。」

「アキ。」

アキは黙りこくる。顔が何とも言えない。

かーわいい。

キスしようと顔を近づけたら、反射的に思いっきり目を瞑ってきた。

そのままでちょっと待って、アキがうっすら目を開けてこっちを見た瞬間、キスを落とした。

「・・・イジワルだ、蕗。」

睨んでくるけど、全然怖くない。寧ろ可愛い。

「そ。俺はイジワル。今までいっぱい振り回されたからね。その仕返し。」

それを聞いてアキが怯えたような表情をする。

なんだか可愛くて、苛めたくなる。



夜は長いんだから。

二人っきりの時間をたっぷり楽しもうよ。

今まで離れていた時間を埋めるように、さ。








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