「藍莉・・・頼みがある。」

珍しく真面目な顔をして影志は藍莉に話しかけてきた。

今日もいつものように学校が終わった後、藍莉の家に影志が来て、着いた早々、言った言葉がこれだ。

藍莉は読んでいた雑誌をパタンと閉じ、影志の方に向き直る。

真面目な話しだとしたら、ちゃんと聞かなくては、と思ったから。

「何?」

「一人にだけ・・・蕗にだけ、藍莉と付き合ってることを言いたい。」



game



影志と藍莉は、付き合っていることを周囲に秘密にしていた。

影志と付き合う相手は必ずと言っていいほど、影志のことが好きだというオンナノコたちからイヤガラセを受けていて、

藍莉と付き合っていることが知られたら今度は藍莉がその対象になるかもしれないかもしれないから。

藍莉が影志に付き合う条件として出したものは、“付き合っていることを隠す”ということで、

当然、一人にだって言うことは、条件を破る事であって・・・。


影志は薄いラグが敷いてある床に座りこみ、藍莉をじーっと見ながら言う。

「・・・もう限界なんだよ。

今まで頑張って耐えたじゃん。蕗にだけだから・・・。俺、アイツに隠し事したくない。」

蕗というのは、影志の友達。

影志にとって、蕗は友人の中でも別格の存在で、特別仲がいい。

「でも一人に言ったら、そこからどう漏れるか分からないし・・。」

その言葉に影志は大きな声で反論する。

「蕗は喋らない!アイツは絶対に秘密は守るヤツだ。

俺、どうしても蕗にだけは言いたいんだ。苦しいんだよ、隠してるのって。」

隠すの苦しいって・・・そういう約束だったじゃない。

私は学校生活を穏便に暮らしたかっただけなのに。

蕗っていう人に言っちゃって、本当に大丈夫なのかな?周囲にバレない?

怖いな・・・。

藍莉がそんな風に思っているのを察したのか、影志は強い眼差しで「俺を信じろ。」と一言。

「信じろって言っても・・・。」

「あーもう!どうしたらいいんだよーっ!」

影志は机に突っ伏し、ひとしきり叫んだ後、ぴたりと静かになって顔を上げ、藍莉に提案をした。

「・・・・・・俺と一つ勝負しないか?」

急に何を言い出すの?と、藍莉はただ、驚く。

「勝負?」

「うん。俺が勝ったら蕗に言わせてもらう。」

「・・・じゃあ私が勝ったら?何してくれるの?」

影志は勝った時のことばかり考えていて、負けたときのこと、なんて考えてなかった。

影志は、んー、と少し考えて

「あ・・・藍莉の頼み、何でもいいからイッコ聞く。」

なんて苦し紛れに言った。

「頼みって言われても、何も思いつかないんだけど。」

藍莉は影志から目線を外し、さっきまで読んでいた雑誌をまた開き始めた。

「オイ、ちゃんと聞けよ!なんかあるだろ。俺は藍莉にして欲しいこと挙げればキリがないけどな!」

それを聞いて藍莉は聞き捨てなら無いと顔を上げる。

「・・・何それ。して欲しい事って何?」

影志は慌てて立ち上がり、無理無理!と首を振る。

「い・・・言わねー!絶対言わねー!!」

「・・・そう言われると気になるんですけど。」

藍莉はため息を一つ吐くと、わかった、と小さく言い、

「じゃあ、私が勝ったらそれ、"私にして欲しいこと”ってヤツを聞かせて。ただし、聞くだけで絶対にしないけど。」なんて言う。

影志は途端に声を荒げて反発する。

「はぁ!?なんだよ、それ!聞くだけでやってくれないなんて、そんなの生殺しじゃねーか!」

「ヤダ?嫌なら別にいいけど。勝負はナシってことで。」

じゃ、と、話を終えようとした藍莉に影志は慌てて言う。

「わ・・・わかったから!負けなきゃいいんだろ。やってやる!」

藍莉はにっと笑い、雑誌を再び閉じた。

影志相手だったら負ける気がしない。

・・・そう思ったら面白くて笑えてきた。

「勝負って何でするの?」

藍莉がそう訊ねると、影志は考えてなかったようで、どうしようかと考え込む。

何だったらいいだろう・・・。

「ゲームとか言わない・・・よね?」

藍莉が恐る恐る言うと、影志は名案!とばかりに満面の笑みを浮かべた。

「いいな、それ!ぷよぷよで勝負!」

それを聞いて、藍莉は影志とは反対に嫌な顔をする。

「絶対ヤダ。それじゃ勝敗はやる前から分かってるもん。もう二度とやらないって言ったでしょ。」

「・・・だから、ハンデつけるって言ってんじゃん。」

「そんなのあって勝っても嬉しくない!」

「・・・じゃあ、カーレース?」

「やだ!影志、ショートカットとかして、卑怯なんだもん。」

「卑怯ってなんだよ。そんなの普通だよ、普通。1周ハンデつけてやるから。」

「そんなのあって勝っても嬉しくないんだって!そもそも、私、ゲームって得意じゃないの。」

じゃあ、何だったらいいんだ。

得意じゃないから・・・なんて、ずるくないか。

じゃあ、藍莉が得意なものだったら言いわけ?そっちだってずるいじゃんか。

影志はそんな風に文句を言ってやりたい気がしたが、そんなことを言って、機嫌を損ねられ、勝負を放棄されたら困るから言わない。

諦めて、

「じゃあもう藍莉が決めたのでいい。なんか決めて。」

ぶっきらぼうにそう言うと、ソファーに寝転がった。

藍莉はそれを聞き、驚いて、そして困惑する。

「え。私が?」

「そ。俺が何言っても、イヤだって言うだろ。藍莉は何が得意なわけ?得意なものでいいよ。」

影志はそう言いながら目を瞑り、ダルそうに腕を目の上に乗せる。

「得意なもの、ね・・・・・・勉強かな?」

それを聞き、影志は藍莉に聞こえるように大きくため息を吐く。

「最悪・・・。」

聞き捨てなら無い、と、藍莉は影志の方を向き、手を退かしてこっちを向かせる。

「何で最悪なのよ?」

「あんなつまんねーモンを得意っていうの、オカシイ。」

「オカシイって言われても、ホントなんだもん。じゃあ・・あとね、料理が得意。」

「・・・それは勝負にならない。勉強だったら勝負になりそうだけど。」

それを聞き、藍莉は何か考えた様子で、カレンダーを見る。

そして、

「・・・じゃ、今度のテストで私よりも総合点が上だったら、蕗君だけに付き合ってること、言ってもいい。」

それを聞いて影志は露骨に嫌な顔をする。

「・・・やだよ。藍莉って成績優秀なんだろ?俺テストで頑張るのキライー。めんどくさいし。」

「負けるのがコワイ?」

ニヤリ、と藍莉がそう言うと、影志はムキになって「んなわけねーだろ!!」と大声で反論する。

「じゃ、そういうことで。」

約束ね、そう言いながら藍莉は影志の小指に自分の指を絡ませた。


+++


テストが近いと言うのに、影志は一向に勉強している素振りを見せない。

藍莉の家に来て、藍莉が勉強をしていてもその傍らで本を読んだりのんびりしているだけ。

「勉強しなくていいの?」

そう藍莉が訊ねても、やってるからいい、と言う。

でも影志が勉強をしている姿を見たことがない藍莉は信じられない。

何度「影志も今、一緒にやれば?」と言ったことだろう。

その度に「集中できないし」と言われるのだけれど。

「じゃあ家に帰れば?」

「一緒に居たいから帰りたくない。」

そんなやり取りが毎日のように続いていた。



そして・・・決戦の日。



影志はB組、藍莉はE組のそれぞれの教室でテストに挑む。

休み時間、藍莉は用事も無いくせにB組の傍を通り、影志の様子を見る。

どうしているか、といつになく気になったから。

テストがうまくいかなくて、他のクラスメイトのようにギャーギャー騒いでいるかと思いきや、影志はボーっと窓の外を見ていた。

・・・落ち込んでいるんだろうか。

もう諦めているんだろうか。

あんなに必死に蕗君にだけ付き合っていること言いたい、と勝負を挑んできたのに。

なんで頑張らないの?

藍莉は何故か応援したくなっていた。

勝負の相手は自分だと言うのに。

だからと言って、負ける気は更々無いけれど、ちょっとは頑張って欲しかった。

次のテストの科目の勉強を必死にしている様子も見えない。

全く。

ちょっとはっぱをかけてやったほうがいいかな、そんな気さえ起こさせる。

もちろんそんなこと、思うだけで行動に移すことはないけれど。


+++


数日後、テストの結果を知る時が来た。

影志と藍莉の通う高校は進学校だった為、競い合わせる為か50位までの成績優秀者が掲示される。

そして、廊下に張り出された名前を見て、藍莉は固まった。


なぜなら

藍莉の名前の上に影志の名前があったから。

つまり、藍莉は影志との勝負に負けた、ということ。


ブルブルと電話が振動し、藍莉は携帯の画面を見て、ため息をついた。

影志から・・・だ。

藍莉はのろのろとトイレに行き、電話をとった。

藍莉が「もしもし。」と思いっきり不機嫌な声で言うと、

影志は藍莉とは反対に思い切り機嫌がいい声で返す。

『結果見た?』

「今、ね。」

『じゃ、約束どおり・・・。』

「・・・先生の採点間違ってるんじゃないの?」

『間違ってない。』

「信じられない。アンタ前回のテストで100番代だったとか言ってたじゃん。嘘だったの!?」

『嘘ついてないって。前回はホントにそうだった。俺、遅刻したから一科目ちゃんと受けてなかったから、その所為もあったかなー。』

あっけらかんと言う影志に藍莉は腹が立ってしょうがない。

「そういうこと、なんで言わないの!」

『聞かなかったじゃん。でもさ、あの結果出すまでに俺はいつになく頑張ったわけ。だから認めて。』

確かにそうだ。

ちょっとやそっとの努力であの結果が出るわけじゃない。

簡単にあんな結果が出せるのなら、ちゃんとやってた人に申し訳ないではないか。

藍莉は認め、「・・・うん。」と言葉を返す。

『じゃ、約束どおり蕗に言うから。藍莉は今日昼休み、屋上な?』

命令されているようで気に食わない。

「・・・。」

無言でいると、『返事は?』と。

・・・くやしい。

けど、自分は負けたのだ。勝負に。

藍莉はしぶしぶ、「はい。」と言った。

影志は電話の向こうでニッコリと微笑んでいた。


+++


春になりかけているとは言え、屋上は寒い。

うーん、と腕をさすりつつ唸っていると、屋上のドアがそっと開いた。

「影志っ。遅いっ!」

藍莉が声を荒げて、相手の方も見ずに言うと・・・

其処に立っていたのは、影志ではない男の子だった。

黒々としたつやつやの髪に茶色の綺麗な瞳が印象的な子。

その子が戸惑って、「え・・・っ?」と言う。

藍莉は慌てて「ご、ごめんなさい。」と、謝った。

「いや、いいけど・・・ホントだったんだ・・・。」

この人、見たこと・・・ある。多分、この人が・・・

「・・・蕗・・君?」

おずおずとそう訊ねると、蕗はニッコリ笑って

「うん。そう。初めまして、だね。

俺、影志にココに行ってって言われて・・・。でも、ホントに?ホントに二人は付き合ってんの?」と。

「う・・ん、今はそういうことになってるけど。」


「おい!今はそういうこと、って何だよ。普通に付き合ってるって言え。」


急に声がどこからか聞こえてきて、声の方を向くと、影志が立っていた。

よっ、と貯水タンクの陰から飛び降り、藍莉の側に立つ。

そしてポン、と藍莉の頭の上に手を当てて

「蕗、俺の彼女。ってことでよろしくー。」

さらりと言うが、この一言を言うまでに、色々あった。

どんなやりとりがあったかは、蕗には話す気はないけれど。

蕗は、二人が付き合っている事実を知って、なんだか喜んでいるように見えた。

「確かに天草さん相手だったら影志も本気になるわけだね。

・・・で、これは誰も知らないことなの?」

「うん、俺等のこと知ってるの、蕗だけ。」

「天草さんの友達も知らないの?」

「うん。」

「そっか。分かった。ナイショにしとく。」

影志は大きく伸びをし、「よかったー。やっと言えた。」と満面の笑み。

でも藍莉は少し不機嫌で、「テストの結果、実はまだ信じられない。」と零した。

納得が言ってないらしく、蕗に「影志って、成績いい方なの?」と訊ねる。

蕗はちょっと考えて、

「んー、どうだろ。わりといいんじゃない?だから何やっても先生も甘い顔してんだよ。」と言ってきた。

それを聞き、藍莉はため息を吐いて、ガクリとしなだれた。

もう絶対に、影志とは勝負をしない、そう誓ったのだった。




END




影志は実は勉強が出来たりします。

要領よく、夜とか時間を決めて、集中してやる。

誰かとやると、集中できなくて、遊んじゃうから、一緒に勉強とかはしない。

遊ぶ時は遊ぶ、ってはっきりしてて、今回、藍莉と居る時間はゆっくりする時間て決めてた。

影志は勉強をゲームの延長と考えてて、数学とか、まさにパズルとか思ってる。

暗記モノもそう。ゲーム感覚で覚えたりしてる。

・・・おバカに見えても、勉強はやれば出来る子なのです。

能有る鷹は爪を隠す。




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