「椿っ!頼むっ。オマエしか頼れないんだよ。」
「嫌ですー。」
「何でもする。だから今回だけは・・・。」
「本当に何でも?」
「あ、いや・・・やっぱ・・・いい。」
「へぇ、いいんだ?」
「・・・うー・・・オネガイシマス。」
「心が篭ってないなぁ・・・。」
「お願いします!!」
「おっけ。この椿ちゃんにまかせろぃっ!」
「・・・と・・・とにかく直ぐに来て・・・。」
Depend on you
(い・・・今の会話って何?)
先ほど、響は、亮太と椿が廊下で話をしていたのを偶然聞いていたのだった。
――オマエしか頼れないんだよ――
亮太が言った一言が何度も響の頭の中を駆け巡る。
(オマエしか頼れないって何?
あたしじゃ駄目なの?
・・・椿って誰?
その人のこと、名前で呼ぶぐらい仲がいいんだ・・・。)
響は悲しくなり、その場で蹲ってしまった。
(あたしってなんなんだろ。
あたしって亮にとって何?
あたしは亮に必要とされてないの?)
***
「ったく。どうしてこんな風になっちゃったわけ?」
「・・・文句言う前に手を動かしてくれ。」
「あんたね、こっちは助けてあげてるのよ、わかる?あげてる(・・・・)の。」
「ハイハイ、分かってる。」
亮太と椿、そして司の3人は生徒会室に居た。
決して遊んでいたのではなく、仕事をしていたのだった。
生徒会の役員の一人がパソコンに入っていた重要なデータを消してしまい、それを復元しているのだった。
タイムリミットは明日の朝。
亮太一人で復元させようと思ったが、出来るはずもなく、司に手伝ってもらっていた。
しかし、司に手伝ってもらっても、まだ終わる目処が立たず、椿にも手伝ってもらうことにした。
このメンバーなら、あと数時間で終わらせることが出来るだろう。
司と椿は仕事が早い上、正確にこなすので、亮太としては安心して仕事を任せられた。
「それにしても、外面はいい会長さんだこと。よくこんな事しでかした子に微笑みかけれるわね?信じらんないっ!!」
「泣いてたんだ。しょうがないだろ?」
「だからって普通、“大丈夫だよ”だなんて言って微笑む?」
「わざとじゃないんだし・・・責めたってどうにもならない。」
「そうだけど・・・。なんか腹立つじゃない。」
「椿。」
「何よ?」
「頼りにしてる。だから頑張って。」
「ったく、調子いいんだからっ!!こんな時だけ頼るなんて。」
椿は文句を言いながらも、もくもくと作業を進めた。
***
PM9時。
やっとのことでデータの復元が出来、亮太は家に帰った。
あまりにも疲れていた為、暫く玄関に座っていると、家の電話が鳴った。
家族は誰も帰ってきておらず、亮太が取るしかなさそうだ。
「・・・誰だよ、こんな時間に。勧誘とかだったらホントやだ。」
しぶしぶ立ち上がり、電話を取った。
「もしもし。」
「あ、小村さんの御宅でしょうか?」
「はい。」
(ん?どこかで聞いたことのある声だ。)
「恩田と申しますが、亮太君は・・・?」
(響のお母さん!?どうして?)
「僕です。」
「あ、亮太君?良かった・・・さっきから何度も電話していたんだけど、繋がらなくて・・・。ねぇ、響そちらにお邪魔している?」
「来てないですけど・・・。響・・響さん居ないんですか?」
「そうなのよ・・・。私はてっきり亮太君と一緒に居るんだと思っていたわ・・・。」
「いえ、今日は一度も会ってないですし・・・。」
「あら、喧嘩でもした?」
響の母親は、笑いながらそう尋ねたが、亮太は慌ててそれを否定した。
「いえ、そんなことは・・・。ちょっと今日は生徒会の仕事が忙しくて・・・。」
「生徒会長さんだものね、ご苦労様。
じゃああの子ったら何処で何をしているのかしら・・・。携帯の電源は切っているし・・・。何も連絡が無いから、珍しくウチのパパも心配しててね・・・。」
(全く!!響のヤツ、何してるんだ!?)
「僕、響さんが行きそうな場所探してみます。」
亮太はそう言うと、急いで電話を切り、玄関を飛び出した。
(響・・・どこに居るんだよ。
事故にあったんじゃないよな・・・。
何かの事件に巻き込まれたんじゃないよな・・・。
頼む・・・無事でいて。)
亮太は走った。
走って、走って、色々な場所を探した。
学校、ファーストフードの店、響の友達の家、思い当たる場所はすべて探した。
しかし、一向に響の姿は見えなかった。
否な予感が脳裏を過ぎる。
でも、それを無理やり頭の隅に押し寄せ、また走り続けた。
(ヤバイ、ふらふらしそう。)
睡眠不足と疲労が重なり、軽い眩暈がした。
しかし、そんなことは言ってられない。
響のことが心配だった。
こうしている間に響が危険な目に合っているかもしれない・・・。
そう思うと、居てもたっても居られなかった。
亮太は、目を覚ます為、近くの公園の水道で顔を洗うことにした。
顔を洗うと、頭がはっきりとしてきた。
(そう言えば、この公園、響が昔よく遊んでたって言ってたな・・・。
あの木に登ったり、鉄棒で逆上がりの練習をしたって・・・。
ブランコで遊ぶのが一番好きだったけど、やっぱり象の滑り台の中の秘密基地も・・・。
秘密基地?
まさか・・・。)
亮は急いで滑り台に近づき、中を覗く。
すると、制服姿のまま、響がちょこんと座っているのが見えた。
「・・・いた。」
「り・・・亮・・・。何でココに・・・。」
「何でって・・・響を探してたからに決まってるだろ!何やってんだよ、こんなところで!!」
亮太は明らかに怒っていた。
響は、すっと、滑り台の中から出て、下に転がっていた石を軽く蹴った。
そして、亮太の方を見ずに搾り出すような声で呟いた。
さっきまで泣いていた所為で声が掠れた。
「どうしてあたしを探すの?亮はあたしなんていらないのに。」
それを聞いて、亮太は怪訝そうな顔をした。
「いらないだなんていった覚えはないけど。」
「じゃあどうして・・・どうしてあたしを頼ってくれなかったの?
あたし、亮の彼女じゃないの?
亮が困ってたら助けたい。力になりたかったの。」
「・・・何のこと言ってるんだ?」
亮太は訳が分からず、混乱していた。
「今日、廊下で椿って人に、『オマエしか頼れないんだよ』って言ってた。
あたし聞いちゃったんだもんっ!!」
「あー・・・それは・・・。」
(あれを聞いてたのか。嫌なところを見られたな・・・。)
亮太は思わず顔を響から背けた。
「今、まずいって顔した!!やっぱりそうなんだ!!あたしよりも、椿って人の方が頼りになるんだよね。
椿って人と付き合えばいいじゃない!!もう別れる?亮は私と別れたいんでしょ?そうなんでしょっ?」
響がそう言った瞬間、亮太は一瞬目を見開き、そして次第に傷ついたような表情になった。
響はそれを見て、ハッとした。
(今、亮、すごく悲しそうな顔をしてた。あたし、何て言った?亮に何を言った?)
「ご・・・ごめんなさい。」
響は直ぐに謝ったが、亮太は暫くの間、何も言わなかった。
沈黙に耐えられなくて、響は泣き始めた。
「全く・・・なんで響が泣くんだよ、泣きたいのはこっち。」
亮太はそう言うと、響を引き寄せ、抱きしめた。
「だって・・・。これで・・・これで亮と・・・別れる・・・ことに・・・なっ・・・たら・・・どうしようって・・・。
亮との・・・楽しっ・・・かった思い出・・・とか・・っ・・・思い出し・・・たら・・・涙・・止まら・・・なく・・・なっ・・・ちゃってっ・・・。」
「後悔するなら、そんなセリフ言うなよ・・・。
響の“嫌い”とか、“別れる”とかそういう言葉、ホントにヤダ。
簡単にそういう言葉、使わないで欲しい。」
「・・・はい。」
「本当に分かってるの?」
「・・・わかってる。」
「それとさ・・・心配させないで。頼むから・・・。」
「・・・はい。」
「全く、こんな時間まで公園に女の子が一人でいるなんて・・・。」
「誰も来なかったから大丈夫ダヨ☆」
あっけらかんという響に対し、亮太は思わず体を放して、怒鳴った。
「大丈夫じゃない!!」
急に怒鳴られ、響は不服そうに頬をぷぅっと膨らませた。
「・・もう高校生なんだし、大丈夫なのに・・・。」
「だからもっと危ないんだってば!!」
「?」
分からないの?というように、亮太は響の目をジッと見つめた。
しかし、響の頭には相変わらずクエスチョンマークが浮かんでいた。
亮太は、ため息を一つつくと、響を再び抱きしめた。
(まるで分かってないんだから。)
「・・・響はもう大人なんでしょ?だったらこういう子供っぽい行動は止めた方がいいんじゃない?」
「・・・うー。」
「・・・それともまだ自分は子供だって自覚した?」
「!!・・・亮、意地悪。」
響は、軽く亮太を睨んだのだが、亮太は全く動じていない様子だった。それよりも、亮太は響の目の方が気になっていた。
(ウサギのような真っ赤な目をして・・・。此処でどれくらい泣いていたんだ?)
亮太は、涙で張り付いていた響の髪の毛をそっと退けた。
「・・・りょお?」
「・・・早く家に帰ろ。響のお母さん心配してたよ。」
「うん・・・。」
亮太は響の手を取り、響の家に向かって歩き出した。
***
帰り道、亮太がほとんどと言っていいほど、何も言ってくれないので響は不安になった。
(亮、怒ってる?)
横目でチラチラと亮太を見ても、亮太の様子は分からない。
(何で何も言ってくれないの?)
響は勇気を出して、聞いてみた。
「あの、あのさ、」
「何?」
「・・・おこ・・ってる?」
「怒ってないよ。」
「・・・じゃあ何で何も言ってくれないの?」
「ゴメン、ちょっと考え事してて・・・。
あのさ、響、さっき僕に『あたしよりも、椿って人の方が頼りになるんだよね』とか言ってただろ?」
「・・・うん。」
「別にそういうわけじゃいんだ。今日はたまたま・・・。」
「たまたま?」
「・・・うん。今日、生徒会のパソコンに入っていた重要なデータを消しちゃって、それを元に戻してたんだ。
僕一人で復元させようと思ったんだけど終わる目処も立たなくて、結局司に手伝ってもらう事にしたってわけ。
でも司に手伝ってもらっても、まだ終わりそうもなくて、椿にも手伝ってもらったんだ。響が見てたのは、丁度椿に頼み込んでたところ。」
「そうだったんだ。パソコンなら、あたしじゃ駄目だ。
・・・ずっと気になってたんだけど、その・・・椿・・って人と仲いいの?」
「仲がいいっていうか・・・。うん、まぁ・・・友達。」
「・・・ふーん?」
「ねぇ響、悪いんだけど明日の昼にウチのクラスに来てくれない?」
「どうしたの?いいけど・・・。なんか珍しいね、亮がそう言うの。」
「・・・うん。じゃあよろしく。」
響は不思議そうに思いながらも、コクンと頷いた。
***
翌日、昼休みに響が3年の教室に行き、ドアのところで中の様子を窺っていると、中から猛スピードで椿が駆け寄ってきた。
そして、椿は響に会うなり、ぎゅっと抱きしめた。
「キャー!この子がうわさの響ちゃんね。初めまして斉藤椿です。よろしくね。」
「(わ!この人、いい匂いがする)」
「・・・椿。離してあげて。」
「・・・可愛い。可愛〜い」
「だからね・・・椿、そろそろ・・・。」
響に3年の教室に来て欲しいと頼んだのは、椿に響を会わせるためだった。
昨日、仕事が片付いた後、椿は、仕事の代償として、響に会いたいと言ったのだ。
「ねぇ響ちゃん、亮太って優しい?」
「最近、よく意地悪する・・・。」
「あはは!そっか。大丈夫よ、お姉さんが怒っとくから!!」
「・・・椿。いい加減に・・・。」
「これからは何かあったらお姉さんに言うのよ?」
「椿さんて・・・優しい人。」
「優しい人だなんて!!なんていい子なの!!」
椿はギュッと響を抱きしめた。
「もういいだろ、離してあげて。」
「えー?」
「・・・ったく、こうなるから椿と合わせたくなかったんだ!!」
「・・・あーら亮太、昨日のご恩を忘れたの?」
「そ・・・それは・・・。」
「何でもするって言ったんだからね。自分の言った言葉には責任持ちなさいよ、リョウタくん?」
「・・・ちッ。」
亮太は心の中で舌打ちしたつもりだったが、つい口に出てしまった。
椿はそれを聞き逃さず、冷めた目で亮太を見た。
「何それ、何その態度は。エ?恩人の椿ちゃんに向かって。」
「・・・ハイハイ、アリガトウゴザイマシタ。」
「心が篭ってないわね。」
「ありがとうございました。」
「良く出来ました」
椿は満足そうにニッコリと微笑んだ。
それを見て、亮太は悔しくなった。
もう絶対に椿には頼るもんか!!
亮太はそう決心したのだった。
オワリ。
頼られるとちょっぴり嬉しいもんだよね。
頻繁に頼りにされるとムカってくるけどさ、頼りにされないよりはされた方がいいと私は思う。
だって、頼りにされるってことは、自分の存在に意味あるって実感出来るから・・・。
この小説は、ELTのstray catっていう曲を聞きながら書いたんだ。
Many Piecesっていうアルバムの中の一曲でとってもいい曲だから、機会があったら聞いてみては?
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