エルから剣を渡された後、グレーフィンは自分の部屋に戻り、旅の支度を始めた。

だが、先ほどエルから渡された剣が気になって仕方がなく、あまり支度は捗らない。

そしてついには、何もかもを放り出し、剣を掴んだ。

ぐるりと剣を回してみて、剣の全体を見渡してみる。

「綺麗・・・。」

グレーフィンが言うように、その剣の外観はとても綺麗だった。

ローザリィに代々伝わる国王の剣だということが納得できる、国王に相応しい剣。

「僕に相応しくないよ。これ。」

しばらくボーっと剣を眺めた後、ゴクっと喉を鳴らし、剣を鞘から引き抜いてみた。

刃はピカピカに輝いていて、グレーフィンの顔を映すほど。

柄の部分はとても握りやすく、重さも丁度いい。

ぶんと一振りしてみて、鞘に収める。

またすぐに鞘から剣を引き抜き、ぶんと一振りして鞘に収める。何度かその行為を繰り返した後、剣を腰に付け、鏡の前に立って全身を見渡してみた。

その途端、グレーフィンはガックリと肩を落とした。

「・・・似合わなすぎ。」

剣がグレーフィンには大きすぎ、引きずってしまうような形になる。

「背負うしかないかな・・・。」

よっ、と背中に剣を背負い、鏡を見ると、先ほどよりはマシだと思えるようになった。

(これで旅をしていくのか・・・。旅・・・あ、支度しなきゃ。)

グレーフィンは本来やるべきことを思い出し、すぐに剣を外して、旅の支度の続きをすることにした。






「一応、これでいいかな・・・。」

支度を終えると、グレーフィンはベッドにバタッと倒れた。

窓の外を見ると、いつの間にか空が赤くなっている。

夕方だ。

ふぅ、と一息吐き、目を瞑ると、今朝見た夢が蘇る。

 

―お願い・・・。あなたしかこの世界を救えないわ・・・―

 

本当に自分がローザリィを救えるのかと、グレーフィンは不安になった。

目を開け、両手を見つめる。

(この手で・・・救える?)

そのとき、部屋の扉が開いた。

グレーフィンがハッとして扉の方を向くと、モニカとランドラが不安そうな眼差しでこちらをみていた。

(驚かせちゃったかな・・・。)

「モニカ、ランドラ、どうしたの?」

いつものように、優しく問いかけたというのに、二人の反応はいつもと違うものだった。

普段だったら、飛びつき、じゃれてくるというのに・・・。

「お兄ちゃん・・・。」

「にーちゃ・・・。」

それだけしか言わず、小さく開けたドア側でボーっと突っ立ったままだ。

グレーフィンはそっとベッドから立ち上がり、二人の側に寄る。

「どうしたの?」

「あのね、お父さんがね、お兄ちゃんはモニカとランドラのほんとうのお兄ちゃんじゃないっていってたの。

もう、甘えちゃいけないっていわれたの。

お兄ちゃんは・・・モニカとランドラのお兄ちゃんじゃないの?」

「え?」

「モニカ嫌だよ。お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなるの・・・。」

モニカはそういうと、目からぽたぽたと涙を流す。

ランドラもつられて、うあーんと泣き出す。

グレーフィンも二人につられて泣きそうになった。でも、泣きたいのを堪え、二人を優しく抱きしめて言う。

「お兄ちゃんは二人のお兄ちゃんだよ。」

・・・たとえ血が繋がってなくても。

「ほんと?ほんとに?」

モニカが目にいっぱい涙を浮かべたままグレーフィンを見上げる。

グレーフィンは親指でそっとモニカの涙を拭い、「そうだよ。」とニッコリ微笑んで言う。

モニカもランドラも、お兄ちゃんが言うんだから間違いないんだ、と思い、さっき泣いていたことが嘘のように二人ともニッコリと微笑んだ。

なんてかわいいんだろう。

グレーフィンは二人のことが可愛くて仕方がなくてギュッときつく抱きしめてからその手で二人を抱き上げた。

そして二人をあやす様にその場でクルリと1回転し、バタンとベッドに倒れる。

二人は楽しくてしょうがないというようにきゃっきゃっと笑う。

グレーフィンが二人をくすぐると、また楽しそうに笑う。

笑いつかれたのか、いつの間にかグレーフィンの両腕を枕にし、二人はうとうとと眠り始めてしまった。

グレーフィンは二人の寝顔を見ながら、いつまでもこうしていられたらいいのに、と思った。

それは叶わぬ願いだけど。

(怖い・・・な。

青いバラを探し、人を殺したディザスターという悪魔と戦うだなんて・・・。

僕しかローザリィを救えないって言ってたけど、本当にそうなのかな?

僕にそんな力があるとは思えない。

力を使えるように封印をといたからって、別に何か特別変わったわけでもないし。

変わったことといえば、肩のアザが赤く色づいただけ。

それにしても、肩のアザがこんなことになるなんて・・・。

もう二度と経験したくない痛みだったな・・・。その後だってものすごい吐き気がして、身体全体がだるくなったし・・・。

イイコトなんて何も・・・。

・・・あれ?さっきまですごくだるかったのに、今じゃ何ともなくなってる。

反対に、なんだか全身が軽くなったような・・・。)

「グレーフィンさまー。」

よろよろと飛びながらチェリッシュがグレーフィンの部屋に入ってきた。

「しーっ。チェリッシュ、静かにして?モニカとランドラが寝てるんだ。」

それを聞いてチェリッシュはハッとし、慌てて両手で口を押さえる。

グレーフィンはその様子を可愛いなぁと思い、ニッコリ微笑んで口だけを動かし、“なあに?”と尋ねた。

チェリッシュはグレーフィンの耳もとに近づき、「ご飯だそうです。」と囁く。

なんだかそれがくすぐったくて、グレーフィンは思わず笑ってしまった。

「グレーフィンさま?」

チェリッシュには、グレーフィンが何故笑っているか分からない。

不思議そうな顔をしているチェリッシュを見て、グレーフィンはまた笑いそうになったが、それを堪えてチェリッシュに分かったよ、とだけ言った。

それから、モニカとランドラの頭からそぉっと腕を抜き、二人にブランケットをかけた後、部屋を後にした。




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