エルは、グレーフィンの部屋から出ると、キッチンに顔をだした。

キッチンでは、メリナが一人立っていて、ティータイムの準備をしていた。
メリナはエルの気配に気づくと、やっていた事を止めて、エルの方を向いた。

「グレーフィンは気が付いた?」

「はい・・・。」

「・・・?どうしたの?浮かない顔をして・・・。」

「・・・メリナさまっ・・・。私・・・私っ・・・ロージーさまに会いたい・・・。ロージーさまと一緒にいたいっ・・・。」

エルは、ぽたぽたと涙を流し始めた。

そんな姿をみて、メリナはエルをそっと抱きしめた。

「エル・・・。エルは泣き虫さんね・・・。グレーフィンと何かあった?」

「いいえっ・・・。何も・・・。ただ・・・。」

「ただ?」

「チェリッシュが羨ましくて・・・。私も、グレーフィンさまがチェリッシュにするように、ロージーさまに優しくしてもらっていたので・・・。」

「そう・・・・・・。」

「ひっく・・・ひっく・・・。ロージーさま・・・。」

「・・・エル、ロージーさまはどんなことをエルにしてくださったの?聞かせて?」

メリナが微笑みながらそう言うと、エルは待ってましたとばかりに、涙で潤んでいた目を急にキラキラ輝かせて言った。

「ロージーさまはですねっ、いつもたくさんのお話をしてくださったんです!
キラキラ輝く星たちのお話、素晴らしいバラのお話、異世界のお話・・・。
それに、私がお話した事をいつも覚えてくださっていて・・・。」

「例えば?」

「ローズヒップティーをロージーさまに初めて飲ませていただいたとき、私が、美味しいって言ったのを覚えて下さっていてロージーさまは私に、よく飲ませてくださったんです!」

「まぁ。それは良かったわね。」

「えぇ!もう嬉しくて涙を流してしまったほどです!
・・・私が涙を流すと、いつもロージーさまは、さきほどメリナさまがしてくださったように、そっと抱きしめてくださいました。
ドレスが濡れるのでいいと断っても、そんな事は気にしなくて良いのよ、と言って・・・。」

エルはまた涙を流し始めた。

そしてしばらくすると泣きつかれて、眠ってしまった。

「あらあら・・・エル・・・。」

メリナは、エルを抱いて寝室に運び、タオルの山のベッドにエルを寝かせた。

「おやすみ・・・エル。いい夢を。」

 

メリナがキッチンに戻ると、グレーフィンとチェリッシュが立っていた。

「あれ?エルは?さっきお茶を飲みに行くって言ってたんだけど・・・。」

「疲れたみたいで寝ちゃったわ。グレーフィン、身体の調子はどう?」

「うん、大丈夫。さっきまで、だるかったんだけど、チェリッシュのお陰で気にならなくなったよ。」

グレーフィンはチェリッシュを見て、にっこり笑った。

チェリッシュは照れながらもにっこりと笑い返した。

二人の様子をみて、メリナはエルの気持ちが少し分かったような気がした。

「・・・グレーフィン、チェリッシュも連れて行くのね。」

「うん、もちろん!チェリッシュが行きたいって言ったんだ。僕も、チェリッシュが近くに居てくれると嬉しいし・・ね。」

「・・・そう・・。あ、旅の支度をしなくちゃ駄目よね。えぇと・・・薬草、食料・・あと何が必要かしら・・・。」

「メリナさま!チェリッシュが薬草を見つけてきますっ。行ってきますっ!」

チェリッシュはそういい残して、窓から飛びだしていった。

「チェリッシュ!カゴを忘れているわ!どうやって薬草を持って帰るつもりなのっ!?」

メリナの叫び声も虚しく、チェリッシュはもう見えなくなっていた。

「あの子ったら・・・もう・・。」

「ねぇ・・・と・・父さんは?」

「・・・お父さんなら、モニカとランドラを連れて外に行ったわ・・・。


私たちの本当の世界のことと、あなたのことを話すために・・・。」

「そう・・・。」

「どうして?何か用があった?」

「・・・えっと・・何か武器を持っていかなきゃいけないと思って・・・。
ローズアイランド以外の所ってどんな所か良くわからないから・・・もしかしたら危険かもしれないし・・・。」

「そうね、でも、武器ならエルが持っているはずよ。エルが起きたら、聞いてみたら?」

「エルが??だってエル武器なんて持ってなかったよ?」

「エルはモノを貯めておく能力があるの。さっきその力をみたでしょう?」

「赤いバラをだしたのって、その能力で?」

「そうよ。」

「ねぇ・・・・・・・・・母さん・・・。今まで、育ててくれてありがとう。」

「な・・・何言っているの?」

「もしかしたら帰って来る事が出来なくなるかもしれないんだ・・・。お礼を言わせてよ。」

「だめよ・・・。貴方は絶対に帰ってくるの。
帰ってこなきゃいけないのよ、ローザリィの為にも、・・・ロージーさまの為にも・・・。」

「ロージーさまか・・・。ねぇ母さん・・・。ロージーさまって・・・僕の本当のお母さんてどんな人だったの?」

「とても優しくて・・・。いつも周りに気を配っていたわ・・・。
お妃様だというのに、皆と同じように振舞って・・・。
私はね、お妃様のお世話係をしていたの。でも、お妃様は、私に全然お世話をさせてくださらなかったのよ。
『自分でやるから、メリナは休んでいて。』とよく言われたわ・・・。
従来のお妃様のように振舞うのが嫌だったらしくてね・・・・・・・・・。」

メリナは一気に思い出が押し寄せてきて、目頭が熱くなるのを感じた。でも、此処で泣いてはいけないと思い、涙を堪えて、続けた。

「・・・・・・ロージーさまのことを聞きたいなら、エルに聞いたほうがいいわ。
エルはね、いつもお妃様と一緒に居たの。エルは、ロージーさまの一番の理解者だったのよ。
エルはロージーさまをそれはそれは大切にしていてね・・・ロージーさまも同じようにエルを大切にしていたわ。」

「・・・そう・・・。」

「・・・貴方とチェリッシュを見ていると、ロージーさまとエルの姿が重なるわ。」

「さっき・・・さっきエルがね、チェリッシュは僕の妖精だって言ったんだ・・・。母さんたちの妖精は、どこにいるの?」

「私たちに妖精はいないわ。」

「どうして?」

「妖精はね、力の持つ者だけに持つことができるの。だから力のない私たちには、妖精はいないのよ。」

メリナがそう言ったあと、エルが部屋に入ってきた。

「・・・申し訳ございません・・・。寝てしまうなんて・・・。」

「いいのよ、疲れていたんでしょう?ゆっくり休めた?」

「はい、ありがとうございました。」

「エル、グレーフィンが武器を欲しがっているみたいなの。」

「はい分かりました、今お出しします。」

エルは、目をつぶった。そして、両手を胸の前で組み、念を込めると、目の前に大きな剣を出現させた。

剣の柄の部分には薔薇の紋章が入っていた。

その剣を見て、メリナは目を見開いた。

「そ・・・その剣は・・・。国王様の・・・ローザリィに代々伝わるという剣・・・。」

「そうです・・・。グレーフィンさま、これをお使いください。」

エルはそういうと、グレーフィンに剣を渡した。

「それは、貴方のお父様から貴方に渡して欲しいと託された剣でございます。」

「いいのかな・・・。こんなすごそうな剣・・・。」

「よろしいのですよ。それは貴方様の剣なのですから。」

「大切にするよ・・・。ありがとう・・・。」




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