(結局、一睡も出来なかったな・・・。)
竜兎はそんなことを考えながらボーっと道を歩いていた。
「おい、竜兎?しっかりしろよ。ちゃんと前見て歩けって。自転車にぶつかる・・・。」
洸希がそう言った側から、竜兎は自転車にぶつかり、自転車が倒れた。そしてその隣に置いてあった自転車も倒れ、その隣にあった自転車も・・・。ドミノ倒しのように自転車が次々と倒れていく。
「バカ!お前っ!」
「痛ってぇ・・・。」
「そんな事言ってる場合じゃ・・・ねぇ――――!!」
洸希は猛スピードで、倒れていく自転車を追いかけた。そして、自転車ドミノの先頭に追いつき、ドミノを止めた。
「・・・ふぅ・・。」
洸希は安心して、ため息をひとつつくとその場に座り込んでしまった。しかし、倒れた自転車をそのままにしておくわけにもいかず、勢い良く立ち上がり、自転車を直しはじめた。
(・・・これって俺が倒したのか?)
竜兎はそんな風に考えながら、倒れている自転車を直しはじめた。
周りで見ていた人たちも二人を哀れんで自転車を元に戻すのを手伝ってくれた。そのおかげで、短時間で自転車を元通りにすることが出来た。
手伝ってくれた人たちに礼をいうと、洸希は竜兎を引っ張って走り出した。
「竜兎!遅刻だ!遅刻!走らねぇと遅刻!お前のドジのおかげで朝から散々だよ・・・。」
「ワリィ・・・。」
「とにかく走れ!」
「おぉ・・・。」
二人が学校に着いたのは、SHRが終わった後だった。
教室の前で呼吸を整えながら、二人は小さな声で話し始めた。
「・・・授業には間に合うな。」
「・・・あぁ・・・。」
「先生にバレてるかな。」
「たぶんナ・・・。」
「まったく・・・。今日の竜兎には振り回されたぜ・・・。お前ホントにどうした?昨日から様子おかしいぞ。」
「別・・・に・・・。」
竜兎はそう言いながら、急に目の前の景色がゆがんでいくのを感じた。
(あれ?どうした?洸希・・・?)
竜兎は、気を失った。
遠くで洸希が叫ぶ声が聞こえたが、どうでも良かった。
***
1時間目、1−Bは現国の時間だった。
「ねえ!璃麻!!」
「何?」
「ほら、隣のクラスにかっこいい人いるでしょ?知ってる?えーっと、名前なんて言ったかなー・・・。
あ、そう!神童くん!双子の弟の神童竜兎!」
「・・・そ・・の人が・・・どうしたの?」
璃麻は声が震えているようだった。
「倒れてた。」
「えっ??」
思わず大きな声が出てしまい、璃麻は自分でも驚いてしまった。その声に反応して、クラスのほとんどの人が璃麻を見た。
「・・ちょっと璃麻っ・・・。」
「ごめん!いいから続けて!いつ?どこで?どうして?」
「・・・?えーっと・・・今さっき、廊下で・・・。なんか保健室送りになったみたいよ?なんで倒れたのかは知らないな。
でもどうしてそんなこと・・・。」
(うそ・・・。竜兎っ・・・。)
「先・・生・・・。」
手を遠慮がちに挙げた璃麻の顔を見て、教師は、不思議そうに尋ねた。
「ん?なんだ?桐谷。」
「あのお・・・。お腹が痛くてぇ・・・。保健室に行ってきてもいいでしょうか?」
「大丈夫か?早く行ってこい!一人で大丈夫か?おい!誰か、保健室に連れてってやってくれ。」
「俺、一緒に行く!」
「俺が行く!」
数人の男子が競って、璃麻の付き添い役を買って出たが、璃麻は慌てて断った。
「い・・・。いい!一人で行けます。」
「そ・・そうか?気をつけていけよ?」
「はい。」
そう言って教室の扉を閉めた瞬間、璃麻は音を立てないように急に走り出した。
(竜兎っ!)
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