竜兎が、神童家に帰ると、いつもは点いている神童家の玄関の外の灯りが消えていた。

(ん?何で灯りが消えているんだ?)

竜兎は、不思議に思いながら鍵を開けた。

(・・・。ったく旧タイプの鍵はめんどくさい。)

「・・・。ただいま。」

竜兎がドアを開けると、沙希が部屋から飛び出してきた。

「竜兎!遅いわよ!今何時だと思ってるの?遅くなる時は、連絡をしなさいっていつも言ってるでしょ?」

(初めて聞いたんだけど・・・。まぁいいか。謝っておこう。)

「すみませんでした。」

「何よ?その言い方は!」

「え?」

「え?じゃないでしょ?ごめんなさいって言えばいいの!すみませんなんて!初めてそんな謝り方して!!」

「ごめんなさい。」

「まぁまぁ・・・。竜兎も子供じゃないんだから・・・。それに男なんだから遅くなったって別に・・・。」

「お父さんは黙ってて!!」

「・・・。」

「これからは、遅くなる時はちゃんと連絡をしなさい。いいわね?」

「はい。」

「お前、どこまで散歩してきたの?何してたんだ?」

「別に・・・。」

「ウソだな。お前が『別に』って言うときは絶対何かあるもん。」

「言わない・・・。」

「秘密主義者め・・・。」

「なんとでも言え・・・。」

「コラコラ!二人とも喧嘩するな!メシを食え!メシを!」

啓介の言葉も空しく、二人はまだ言い合いを続けていた。
実際は、ほとんど洸希が一方的に、がなっているだけなのだが・・・。

そして、啓介は最終手段に出た。

「・・・食べないなら父さんが貰う。おーい母さん!二人のカツくれー!」

「ちょっと待った!!食う!食うって!!」

「俺も食べる。」

「・・・。最初からそういえばいいんだ・・・。まったくうちの息子どもといったら・・・。」

「なんだよ?」

「なに?」

「別に・・・。」



食事が終わり、竜兎は、リビングで新聞を広げた。新聞を読むことは、竜兎にとって大切な日課だった。

「なんか面白い記事でもあるか?」

洸希は新聞を読もうとはしない。でも、面白い記事があれば読む。だから、口癖のようにいつも竜兎に聞くのだった。

「特に無いな。」

竜兎は、そういいながら、次々と記事を読んでいった。そして、衝撃的な記事を見つけた。

「少子化・・・。」

「ん?何か面白そうな記事あったのか?」

「・・・。面白くは無いけど・・・。『子供の出生率最低を記録』って・・・。」

「なんだ。そんな事かよ。」

「え?そんな事って・・・。」

「だって今更そんな事言ったってしょうがないだろ?今に始まったことじゃないし・・・。」

「このせいで・・・。」

「なんだよ?」

「・・・。なんでもない。洸希は少子化についてどう思う?」

「はぁ?少子化?そんなこと考えたこともねえよ。
なに?お前って少子化とか考えちゃってんの?年寄りみたいなこと言うなよ。」

「年寄り?そういうこと考えるのがどうして年寄りになるんだ?」

「16の高校生がどうして少子化について考えるんだよ?普通考えねえって!」

「もういい。お前なんかに聞かない。」

「おい!りゅうとぉー!なに怒ってんだよ?」

「うるさい。」

「ちゃんと答えるから怒んなよ。・・・えーっと・・・。少子化ねえー少子化・・・。あ!子供が少なくなる。」

「少子化の意味を聞いているんじゃない。」

「わかってるよ!ちょっと待てって。そう!子供が少なくなると困る。人類が滅びる。みーんな居なくなる。終わり。」

「・・・お前に聞いた俺が馬鹿だったな。」

「なんでそんな事聞くんだよ?」

「ちょっと気になったから。」

「父さんには聞いてくれないのか?」

啓介が少し寂しそうにしながら竜兎を見た。

「・・・父さんは少子化についてどう思ってる?」

「えーっとなー・・・。やっぱ困るんじゃないか?」

「・・・。」

(聞かれないのも寂しいけれど、聞かれたら聞かれたで、返答に困るのか・・・。)

「・・・だって困るだろ?働く人が年寄りばっかりになるし、税金とかの問題がなぁ・・・。人が居なければ、社会として成り立たないんだから・・・。」

「どうしたら、少子化を防げると思う?」

「懸賞金みたいに、子供を産んだ人にお金あげますってのはどうだ?」

「最悪・・・。」

「なんで?」

「金のために子供を産むなんて・・・。そんな親が子供をちゃんと育てられると?」

「確かに・・・。」

「どうせ、そんな親なんて子供を施設に預けたり、平気で捨てたりするんだ・・・。」

「そんな事いうなよ、竜兎。人っていうのは、案外分からないものなんだぞ?」

「どうかな?」

「何かあったのか?」

「別に・・・。」

3人の間に沈黙が生まれた。
沈黙を破るように、タオルを頭に巻いた沙希がリビングに顔を出した。風呂上りらしく、顔がほんのり色づいている。

「お風呂空いたわよ?次は誰が入る?」

「俺が入る・・・。」

竜兎はそういうなり、立ち上がって風呂に入っていった。



竜兎は湯船に入りながら、時折水滴がぽたぽたと落ちてくる天井を見ていた。

「ふぅ・・・。」

(思わずため息が出てしまう。
昔の人が少子化についてこんなに考えてないだなんて・・・。こんな風に考えていたから、後々に苦労するわけだ。)

(それにしても・・・。風呂っていいもんだなぁ。)

竜兎は珍しく笑みを浮かべた。

未来にも風呂はある。温泉だってあるのだから。ただ、竜兎は時間の節約として風呂に入ることは無かった。

シャワーの方が時間を短縮できるのだ。

スイッチをひとつ押すだけで、四方八方から適温のお湯が出てきて一気に洗い流すことが出来る。

(帰ったら、風呂を使うことにしよう。)

そう決心して、竜兎は湯船から上がった。



竜兎は風呂から上がると、すぐに自分の部屋に閉じこもった。

すると、洸希が竜兎の部屋に顔を出した。

「竜兎?もう寝るのか?」

「あぁ。お休み。」

「何があったのか知らないけどさ、ゆっくり休んで元気だせよ。」

洸希は一言そういい残し、階段を下りていった。



竜兎は、ベッドに入った。

しかし、眠気は襲ってこない上、今日あったことを思い返していると、なかなか眠りにつけなかった。

時計の針は、午前3時を指していた。

(やばい・・・。寝なくては・・・。)

本気でそう思ったが、そう思えば思うほど、ますます眠れなくなってしまった。

結局、カーテンの隙間から光が差し込み、鳥の囀りが聞こえてくるようになってしまった。

「朝・・・だ。」




  




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