20XX年 春



竜兎は見知らぬ部屋で目を覚ました。

見たことのない天井の模様。

寝返りを打つと真横に見えたのは、やはり見たことの無いサイドテーブルに時計。

そして20]]年4月のカレンダー。

竜兎はカレンダーを見て、やっと自分が過去に来たのだと実感した。


竜兎はその瞬間から、水城竜兎から神童竜兎になった。


「洸希―!竜兎―!起きなさーい!新学期から遅刻なんてだめよー。」

(階段の下から声がする。この声は母親の沙希だろう・・・。)

竜兎のホストファミリーの神童家には、父親の啓介、母親の沙希、そして今年から高2になる洸希がいる。

洸希とは、双子という設定になっているので竜兎も今日から洸希と同じ高校に通うことになる。

竜兎がボーっとしていると、急に部屋のドアが勢いよく開いた。

「竜兎、時間だ。起きろ!」

怒鳴り声に近い声で声を掛けてくる男が一人。

(こいつが洸希か?資料の写真と少し違うような気もするな・・・。)

竜兎はじーっと洸希を見つめていた。

すると竜兎の制服をクローゼットから出していた洸希がその視線に気が付き、竜兎に制服を投げながら怒鳴った。

「何見てんだよ?ぼけーっとこっちを見てる暇があったらさっさと起きて着替えろ!時間ねえんだぞ!」

「時間?まだ学校始まるには時間があるだろ?」

「姫乃と約束してただろ!今日クラス変えだから一緒に行こうって!」

(は?そんな約束初めて聞いた。・・・まあいいか。)

「早く着替えて下に下りて来いよ!」

洸希はそう言い残して部屋を出て行った。

「それにしても・・・姫乃って誰だ?」

竜兎は少しの間、自分の記憶をたどってみた。そして一人の女の顔が思い浮かんだ。

(思い出した。洸希の幼馴染・・・つまり、俺の幼馴染ってことか。)

階段の下で洸希が再び怒鳴った。

「竜兎、まだ着替えてねえのか?早くしろ!」
「わかってる。すぐ行く。」

竜兎は慌てて制服に袖を通した。

「ネクタイってどうやるんだっけ・・・?」

あとはネクタイだけだというのにネクタイの締め方がわからず、竜兎は本気で悩んだ。

(こんなことならネクタイのやり方、真面目に習っておくべきだったな・・・。)

結局ネクタイを締めることが出来ず、竜兎は諦めて階段を降りた。

ダイニングに行くと、啓介と洸希がテーブルで朝食をとっていて、沙希が冷蔵庫を覗き込んでいた。

沙希が竜兎に気づき、笑顔で話しかけてくる。

「おはよう。顔洗ってきた?早くご飯食べなきゃ遅刻よ。」

何気ない一言だというのに竜兎はとてもうれしいような、恥ずかしいような感覚になった。

(なんなんだ?母親ってこういうものなのか?璃麻が同じセリフをいうのとなんか違う・・・。)





竜兎は、両親に愛された記憶がない。

小さい頃から一人で生きてきた。

これは珍しいことではなく、未来ではこれが当たり前のことだった。

人類の存続のために、女は必ず一人は子を生まなければならない。

だから竜兎のような、愛されない子供が出てきてしまった。

小さいころから一人で生きるための教育をされ、何でもやってくれる機械と共に生きる。





これが普通。





竜兎がぼーっとしていると、洸希はそんな竜兎を見て、また怒鳴った。

「早くメシ食えよ!置いてくぞ。・・・ちょっと待て。お前なんでネクタイしてないんだよ?早くやれ!」

「やり方が分からない・・・。」

「はぁ?2年にもなって何言ってんだよ。冗談言ってる暇はねえんだから早くやれ!」

「ほんとに出来ないんだ・・・。」

「お前なー・・・。ふざけてる場合じゃ・・・。ったく、しょうがねぇ!今日だけだぞ。」

洸希は、竜兎の手の中から乱暴にネクタイを奪い、竜兎の首に器用に締めた。

「不思議だ・・・。どうなっているんだ?」

「お前・・・どうしたんだよ?まあいいや。メシ食え。」

テーブルの上には皿に綺麗に盛り付けされている料理がたくさんあった。

(これが昔の朝食か。見たことのないものがあるな・・・。いい匂いがする・・・。)

竜兎はゆっくりと時間をかけて昔の朝食というものを摂りたかったが、洸希に急かされてしまい、数分で食事を終えた。

そして、竜兎の出かける準備も終え、竜兎と洸希の二人が玄関に行くと、姫乃との待ち合わせ時刻を軽く過ぎていることに気付く。

二人が慌てて走って姫乃との待ち合わせ場所に行くと、姫乃が電柱に寄りかかって待っているのが見えた。

「姫乃―!」

洸希が姫乃に向かって呼びかけると、姫乃は竜兎と洸希の姿を見つけ、少し頬を膨らませて怒っているような素振りをした。

「遅い!来ないかと思ったよ。」

「ごめん!竜兎がぼけーっとしててさぁ・・・。ほら竜兎お前も謝れっ!」

竜兎は、じーっと姫乃を見つめた。

(これが前川姫乃か。)

姫乃は竜兎に見つめられ、恥ずかしくなった。姫乃の顔がほんのり赤くなる。

「りっ・・・竜兎何見てんの?私の顔に何かついてる?」

「いや。見てただけ。それより急がなくていいのか?」

「そうだな。早く学校行ってクラスがどうなったか見るか。三人とも同じクラスだといいな。」

「うん。そうだね!同じクラスがいい。」



+++


学校に着くともうすでに、クラス分けの結果が貼り出されていた。

「俺はA組から見てくから、竜兎はF組から探して。」

「あぁ。」

(F・・・。Fに名前は無いな。えーっと・・・次はEか。Eっと・・・。)

「竜兎!あったぞ!俺ら三人ともA組!」

「そっか。Aか。」

自分のクラスがわかった後も竜兎は掲示板を見つめていた。

(璃麻はどのクラスだろ・・・。Aには・・・無い。璃麻、璃麻・・・。

あ!

Bに璃麻の名前がある。桐谷璃麻。これが璃麻のこの時代での名前だな。Bか・・・。俺の隣のクラスだ。)


「竜兎!なにしてんだよ。置いてくぞ!」

「ほら早く!!」

「あぁ。すぐ行く!」

呼ばれて竜兎は二人の所へ駆け寄っていった。





  



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