竜兎と洸希はいつものように、たわいない話をしながら学校に来た。
「今日のリーダー、当たるっけ?竜兎、訳してある?・・・って昨日具合悪かったんだし、やってないか。」
洸希は決め付けたようにそう言ったが、竜兎は、あっさりと「やってあるに決まってるだろう。」と返した。
洸希は大げさに驚いたあと、「見せて。」と頼むが、
竜兎はその洸希の態度が気に入らずに、「やだね。」とバッサリと言い切った。
だが、洸希はそんな竜兎の声にめげることなく、今まで並んで歩いていた竜兎の前に回りこみ、竜兎の足をとめると再び頼み込む。
「見せてくれよ。昨日、シチュー温めてやったじゃねーか。」
竜兎は、頼むならもうちょっと違う言い方があるだろう、と思うと同時に、
何故今、昨日の話を持ち出してくるんだ、と思い、不機嫌な顔をしながら自分の前に立ちはだかっていた洸希を避け、先を歩き始めた。
「全く、何で俺が昨日、帰ってきてから寝てた間にやらなかったんだよ。充分時間はあっただろ?」
後ろを歩く洸希を窺いつつ、そう言うと、洸希は胸を張って、「俺も忙しかったの。」と言う。
本当なのかと疑問に思う。
竜兎には昨日、洸希が家で忙しそうにしていたという記憶は無かった。
竜兎は立ち止まり、後ろを向いて「忙しかった・・って、何してたんだ?」と問うと、
洸希は指を折り「テレビ見て、ゲームして、雑誌見て・・・。」と真顔で言い放つ。
竜兎はそれを聞き、洸希の姿を冷めた目で見つめた。
(全く、呆れて言葉も出ないな。)
洸希はそんな竜兎の冷たい視線に気付き、慌てて言う。
「と、とにかく・・・見せて?」と。
だが、竜兎は相変わらず、洸希を冷めた目で見ているだけで、何も言わない。
「竜兎。たった一人の兄ちゃんが頼んでるんだ。お願い。」
竜兎はそう言われて、必死な洸希の思いを受け止め、
深いため息を一つ吐き、「リーダーの時間まで、出来るところまで自分でやって、ダメだったら見せてやる。」と言った。
洸希はその言葉を聞き、喜ぶ。
「竜兎、オマエってやっぱ兄想いのいいやつだ!!最高!!」
洸希はそう言い残して、ウキウキしながら昇降口に入っていった。
「・・・調子いいやつ。」
竜兎は苦笑して、洸希の後に続いた。
洸希が、パタンと音を立て、靴の入っている小さなロッカーを開ける。
このロッカーは、鉄の板で上下2段に仕切られていて、上の段に上履きを、下の段に、自分が履いてきた靴を入れるようになっているロッカーだ。
竜兎も洸希と同じようにロッカーを開け、靴を履き替えようとしたのだが、扉を開けてすぐに、小さく折りたたまれた白い紙が置いてあることに気づき、動きが止まった。
(なんだ、これ?)
竜兎は不思議に思い、その紙を広げると、見慣れた字でこう書かれていた。
『図書委員になれ。』
筆跡からして、その紙を書いたのは魁。
竜兎は魁の字を幼い頃から幾度となく見ていたのだから、間違えるはずがない。
(何で図書委員?ま、いいけど。多分、一緒になろう、ってことなんだろうな。)
「竜兎?何してるんだ?」
中々来ない竜兎が気になり、洸希が遠くから声を掛ける。
「・・・あ・・今行く!」
竜兎は慌ててそう言い、紙をすっとポケットに入れ、靴を履き替えて洸希の後を追った。
教室の前まで来ると、洸希は勢いよくガラっと教室の扉を開け、「おはよー!」と大声を出しながら教室に入っていく。
(ウルサイ。)
竜兎は顔をしかめながら、洸希の後に続こうとしたとき、急に後ろから誰かに手を掴まれた。
(ン!?)
竜兎が驚いて後ろを振り向くと、其処には璃麻が立っていた。
「竜兎、オハヨ。」
「・・・ん、オハヨ。」
どこか、ぎこちない璃麻の雰囲気に、竜兎は不思議そうな顔をした。
「どうした?」
「あのさ、昨日・・・今週末、竜兎の家に遊びに行かせてもらうとか、話してたじゃない?
あれ、やっぱり中止にしてもらってもいいかな?」
「いいけど・・・何かあったのか?」
璃麻は声のボリュームを抑え、竜兎にしか聞こえない程度の声で言った。
「別に、何かあるわけじゃないんだけど、やっぱり良くないなって思って。
竜兎と一緒にいたいっていうのはすごくあるけど、やっぱりこっちに勉強しに来ているんだし、ホストファミリーの人達と一緒に居られる時間は出来るだけ一緒に過ごした方がいいって思うから。」
竜兎は、璃麻の言葉に、素直に納得し、頷いた。
「そうだな、そうした方がいいかもしれない。洸希には俺から言っておく。」
(俺も洸希ともっと一緒に過ごすべきかな。よし、さっそく今日の夜にでも、ゲームの相手をしてやろう。
アイツ、毎日のように、ゲームやろうってウルサイからな・・・。)
竜兎がそんなことを考えていて、ふと璃麻の顔を見ると、璃麻は寂しそうな、辛そうな顔をしていた。
竜兎は璃麻の頭にポンと手を置き、璃麻を元気付けるように言った。
「そんな顔するなよ。学校でこうやって会って、話をすればいいだけの話だろ?」
「う・・・ん。」
「そうそう、俺、昨日自分で食器を洗ったんだ。」
璃麻は竜兎のその話を聞き、ぱぁっと驚きの表情を見せた。
「ホント!?すごいね、竜兎。」
竜兎はそんな璃麻の反応を嬉しく思い、にこにこと笑った。
「でも、シチューの温めは失敗したんだ。コンロの火を点けるのって結構難しい。璃麻はやってみた?」
「ううん。まだやったことないわ。難しいんだ・・・?今度やってみようかな。
私は昨日ね、お茶の入れ方を教わったの。急須っていうモノにお茶の葉とお湯を注いでね・・・。」
「あ、俺それ見た。自分ではやってないけど。」
「普通なら、ボタン一つでお茶が出来るのに、びっくりしちゃった。」
普通・・・つまり未来では、お茶はボタン一つで出来るか、店で買えばすぐに飲む事が出来るという考え方が定着しているのだった。
伝統を大切にしている人ぐらいしか、急須を使って、茶を入れることはない。
一人暮らしの竜兎には全く縁がないものだった。
SHRの開始を知らせるベルが鳴り、話を中断させざるを得なくなり、竜兎は璃麻に軽く声を掛けて教室に入った。
璃麻は、何か言いたげな表情をしていたが、竜兎はそれに気付くことは無かった。
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