REAL





21XX年 春



「腹減った・・・。」

そう呟きながら水城竜兎は高層マンションのある一室の前に立ち止まった。

慣れた手つきでドアの横に埋め込まれている機械に手をつくと、機械は瞬時に指紋を照合し、鍵を開けた。

竜兎が部屋に入ると自然とライトが点き、適温装置も作動し始めた。

現在の時刻はPM7時16分。

窓の外には赤や青の色とりどりのネオンが光々と闇を照らし、夜がこれから始まるということを示しているようだった。


「メシ・・・。」

竜兎は腹が減ったという欲求を満たすため、独り言を呟きながらキッチンへと急いだ。

キッチンは使い込まれていないことが一目瞭然で、油などの汚れなど少しもなかった。

というのは、竜兎は料理を一切しないからだ。今の時代、料理を自分で作る家なんていうのはめったにない。

あったとしてもそれはほんのわずかに過ぎないだろう。

誰もが、手間と時間ばかりかかる料理よりも、数秒で出来上がる上、その人に合わせた栄養バランスを考えてくれる機械の料理のほうがいいと思っている。

竜兎もそういう考えの一人だ。

竜兎は、また慣れた手つきで壁の一部に埋め込まれている機械に手をついた。すると数秒後、キッチンにピッピッという乾いた機械音が響く。

機械のすぐ横の小さなドアを開けると、トレーに乗った食事があった。竜兎は無言でそれをつかむと、ダイニングの方に移り、食事を始めた。

それからトレーに乗っている食べ物を口に運ぶという機械的な動作を何度か繰り返すと、トレーの中は空になる。

無言のまま食事を終えた竜兎は空になったトレーを、キッチンの隅にある専用のごみ箱に投げ入れた。

ここにトレーを入れると、細かく砕かれ、きれいに洗われてまたトレーとして再利用する仕組みになっているのだ。

食事を終えた後は、いつもの習慣で部屋の隅にあるパソコンがおいてあるディスクに座る。

竜兎が椅子に座ると、自然にパソコンが起動し、メールボックスが表示された。

メールボックスには、新着メール1件となっていた。

誰から来たのかと、メールのチェックをすると、メールは差出人がわからず、こう書かれてあった。


『親愛なる水城竜兎 君

メモリーカードは預かった。返して欲しければPM8時までにA公園の噴水の前に来い。

8時までに君が来ない場合は、このメモリーカードを処分させてもらう。』


竜兎は目を疑った。

(メモリーカードが・・・まさかそんなはずはない。たしかに鞄の中に入れたはず・・・。)

そう思い、すぐに鞄の中を調べ始めたが、それは見当たらなかった。

(なぜだ?)

自分に問い掛けても答えは見つからない。

ただ、今わかることは、誰かが自分のメモリーカードを持っていて、8時までにA公園に行かなければ処分されてしまうということだ。

現在の時刻は7時36分。

どんなに急いで行ったとしても、ここからA公園まで30分はかかるだろう。

(このままだったら間に合わない。)

そう思うと同時に竜兎は何も持たずに走り出した。

たかがメモリーカード・・・と思うかもしれないが、このメモリーカードはとても重要なものなのだ。

明日から1年間、ホームステイをする竜兎にとっては特に・・・。



(・・・はぁっ・・。あの角さえ・・・曲がれば・・・A公園・・だ・・・。)

公園の前の時計は7時57分を指している。

「・・・間に合った・・・。」

全速力で走ったせいか、奇跡的に約束の時間に間に合った。

(あとは噴水の前に行けば・・・。)

竜兎がそう思い、A公園に入った瞬間、後ろから何者かに抱きしめられた。

「!」




  



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